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薮中塾9月勉強会報告

こんにちは!9月勉強会担当です。
初のハイブリッド(オンライン+オフライン)開催になった9月勉強会。
今回はその内容を報告させていただきます。

勉強会で取り扱ったテーマは、「食料安全保障」です。​

食料安全保障とは、

国家として国民を飢えさせないために総合的な食料の確保を目指すことです。総合的な食料の確保とは、十分で安全かつ栄養のある食料に「誰でも」「どんなときにも」「アクセスできる(入手できる、購入できる)」仕組みを整える

ことです。

このテーマについて考えるにあたり、今回用いたのが「シナリオ・プランニング」という手法でした。

シナリオプランニングとは、将来起こり得る未来のシナリオを複数描き、それに基づいて戦略を導出していく手法のことです。
(引用元:https://www.kirin.co.jp/csv/well-being/about/scenario/)

1970年初頭には、ロイヤル・ダッチ・シェル社がこの手法を用いて石油危機を乗り切ったということで、注目を浴びました。
現在でもコンサルタント業界ではよく使用されるそうです。

勉強会設計の裏側で

9月勉強会設計の際、

自給率向上政策 vs 経済力を向上させ食料調達を優先する政策

という二項対立でディベートをすべきか、それともシナリオ・プランニングを採用すべきか、非常に悩みました。
しかし、

そもそも食料安全保障という概念は、二項対立では語り切れない。特に、農家さんや企業というプレーヤーを除いた官僚や農協などのサポート側は二項対立にしてはいけない概念なのではないか。
塾生に当事者意識を持ってもらいたい。
未来思考の議論をしたい。

という3点から、ディベートではなくシナリオ・プランニングを取り入れた勉強会が最適だという結論に至りました。

事前準備

事前準備として、以下4つのステップに取り組みました。

ステップ0:シナリオ・プランニングおよび食料安全保障のことを知る
ステップ1:シナリオ・プランニング 個人ワーク
初めに、塾生個々人に「10年後の日本における人々の暮らし」を考えてもらいました。このとき、miroのマトリクス(添付写真参照)を使用し、10年後の日本に影響を与えうる要素を、
・社会への影響度
・その要素が実現するかどうかの確実性

の2つから分類してもらいました。

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↑多様な要素が抽出されました。

ステップ2:シナリオ・プランニング グループワーク
グループでのミーティングを通し、以下2つのシナリオを作成しました。
・ベースシナリオ(将来確実に生じ、かつ社会への影響度が大きいものを整理する。)
・複数シナリオ(社会への影響度は大きいが、将来確実に生じるとは言い切れない要素をピックアップ。その要素を軸に据え、両極の世界を想像する。その両極を軸に新たなマトリクスを作成する。)

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↑オンライン参加者によるベースシナリオ作成

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↑オンライン参加者による複数シナリオ作成

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↑複数シナリオをもとにオンライン参加者が想像した未来

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↑複数シナリオをもとにグループBが想像した未来

ステップ3:シナリオ・プランニング 個人ワーク
最後のステップでは、未来の食料安全保障の姿を考えます。
食料安全保障に関する「問い」(例:消費者の食に対する価値観はどのように変化しているだろうか?)をたて、それに対する「回答」を一人ずつ出していきます。
また、ステップ2で作成したマトリクスに則り、「各象限が実現した際、日本政府が国民を飢えさせないためには何をすべきだろうか?」ということを考えます。この、日本政府の対応を考える作業は、戦略オプション検討と呼ばれます。

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↑オンライン参加者による戦略オプション検討
(ひとつ前のマトリクスの右下の象限と対応)

勉強会当日

勉強会当日は以下の三部構成でした。

第一部:レクチャー
第二部:シナリオ・プランニング前半ーシナリオ詳細分析
第三部:シナリオ・プランニング後半ー戦略オプション考案

第一部:レクチャー
第一部では導入レクチャーを実施し、食料安全保障に関する論点整理、またシナリオ・プランニングの手法についての再確認をしました。勉強会当日の目玉は戦略オプション検討(後述)でしたが、改めてポイントを整理することで、実効性のある戦略オプションの立案につなげていくという狙いがありました。

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↑導入レクチャーのスライドより抜粋

第二部:シナリオ・プランニング前半ーシナリオ詳細分析
第二部ではシナリオ詳細分析を実施しました。
初めに、各グループの事前課題を塾生全体に発表する時間を設け、Speak outの機会を確保するとともに、お互いの参考にしてもらいました。

その後は事前課題で作成したシナリオ(未来像)を深堀りする作業です。
個人個人で立てていた食料安全保障に関する「問い」と「回答」を、フィードバッカーの方々を交えて検討し、描いたシナリオを細かいレベルまで設定していきました。

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↑シナリオを整理・検討している様子(グループB)

第三部:シナリオ・プランニング後半ー戦略オプション検討
第三部では戦略オプションの検討に移ります。「その未来が実現したとき、日本政府は国民を飢えさせないために何をすべきか?」を検討していくステップです。

具体的には、以下のプロセスに従って戦略オプション検討をしていきます。

1. シナリオ(未来像)を考える。
2. そのシナリオの実現性を考え、最も実現可能性の高いものを選択する。
3. 機会(そのシナリオがもたらすポジティブな影響)を考える。
4. 脅威(そのシナリオが引き起こすネガティブな要素)を考える。
5. 戦略(対応策)を考える。

今回は、勉強会担当自作のワークシートを使用しました。

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以下が各チームの発表概要です。

グループA

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グループB

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グループC

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グループD

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オンライン参加者

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完成した戦略オプションは全体に向けて発表しました。
発表後は「感想シェア」の時間を取り、発表や勉強会についての感想を発散できる機会を設けました。

9月勉強会からの学び

今回の勉強会では、ディベートやディスカッションという手法ではなく、シナリオ・プランニングを通して議論するという、いつもと違った手法を取りました。勉強会担当自身、常に資料とにらめっこしながら準備をしてきたため、果たしてこの複雑なプロセスを塾生に理解してもらえるのか不安に思う部分もありました。

塾生の振り返りの中で、シナリオ・プランニングに対しては、このような意見がありました。

はじめは、よくわからずに勉強会担当の人たちの指示にしたがってやっていたが、進めるにつれて、ものすごく綺麗に自分の意見などを整理できるなという印象を持った。
世の中にある社会の課題のほとんどは政治や経済,文化など様々な要因を考えなければ考えられないと思っているので,その点シナリオプランニングは一つの問題に対して様々な側面から考えるものなので,社会の課題の分析にはとても良い方法だと思った.しかし,たくさんの課題の中からいくつかに要因を絞る作業はとても難しかった。

勉強会担当としては、事前レクチャーおよび事前MTGでシナリオプランニングに対する塾生の理解を補完することで、当日は塾生が活発に議論している姿を見ることができ、嬉しく思いました。

一方で、もっとじっくりシナリオプランニングを扱いたいという意見も複数見受けられました。

今後の起こり得る自体への対策を考えるという意味では有意義な手段だとは思うが、予測や対策に焦点が集まるため、個人が「どのような価値観に基づいて」そのような対策を立てるのか話し合う時間が少ない点が残念だと感じた。
シナリオプランニングが「こうなったらいいな」のレベルで終了していた。本来は詳細なデータを用いて単なる予測にならないようにするのだろうが、勉強会でそのレベルに持っていくのは難しいと思う。(それをするなら、勉強会本番は完成されたものを発表するだけの。)次からはやり方の理解に時間かけなくていいし、もし勉強会テーマ的に利用できそうならまた導入してもいい。

シナリオプランニングは通常、最低でも丸2日かけて取り組む手法です。
より本格的に行う場合は数か月ないし数年かかることもあります。
それを勉強会という短い時間で取り扱うのは、やはり難しくもありました。

また、勉強会の意義に関して、このような意見も寄せられました。

正直シナリオプランニングを理解し実践することに労力がかかって、食糧安全保障について深い知識や自分なりの意見を構築するに至らなかった。

塾長からの講評にもあったように、薮中塾では、一人一人の価値観を"speak out"していくことに重きを置いています。その点でいうと、今回はシナリオプランニングの手法に集中しすぎて、食料安全保障に対する自分の意見を全体の前で発表する機会を入れていませんでした。
後期の勉強会では、この点を改善し、個々が意見を発信できる場を積極的に設けていきたいと考えています。

最後に、食料安全保障に対する塾生の意見をご紹介します。

単に自給率を上げれば済むほど事は単純でなかったり、そもそも自給率の計算の仕方で各国の食料事情の見え方がかなり変わったり。シナリオプランニングを進めて思ったのは、地震などのイレギュラーな事態が起ったときに対する備えができているようで、もしかしたら足りていないのかもということ。「備蓄米はあるけど、備蓄米だけで栄養は足りるものなのか」「非常事態発生時に中国に買い負けるリスクまで考えられてるのか」などという日常生活からだと想像しづらい危機への備えに関しては特にもっとできることがありそうだ。
日本の農業人口を増やしたり食料自給率を上げたりという取り組みは困難だと考える。狭い国土に対する人口の多さという前提で、日本人の食生活も変わってゆき、労働人口の減少も著しいので、他に魅力的な職業の選択肢があると農業に移行させることも難しい。日本には新興国・途上国とのグローバルネットワーク、これまで利益を供与してきた歴史があるので、農業国への技術供与を通して、安定的な輸入の確保を保っていくべき。
日本は、労働力の確保、人口減による消費減、輸入依存の外交的問題、食糧自給率の低さというこれまで言われてきたような課題に対してまだまだ取り組みが足りていない。しかし、それは農業に限らない問題でもある(労働力、消費減、エネルギーなどの輸入など)。日本という国の構造的な問題が、農業・食糧安全保障という領域にも表出している。
日本は食糧自給率の引き上げを積極的に目指す必要はないと考える。その一番の理由は、日本の人口が減少傾向にあること(→人口が減れば、必要な食糧の量も減少する。)である。その上で、現代の日本に暮らす人々の食生活スタイルを制限することのないように、海外からいかに安定した輸入を行うか、ということに重きを置くべきだと思う。しかし、リスク対策として、日本で生産可能な米、野菜、畜産品については、国の資金を積極的に投入して、現在の生産量を下回ることのないように、食糧工場の設置の検討や、技術開発を行うべきである。
食料自給率や量的供給は食糧安全保障の一側面で、公正な分配な視点である。食料安全保障の目的は世界中の人々のFood Well-beingの確保であるように思うため、食料幸福率の向上といった方向性もおもしろい。

他にも、この勉強会が食料安全保障について学ぶきっかけとなったという意見が多数寄せられました。

おわりに

今回は、「食料安全保障」という塾生にとっては馴染みのないテーマ、及び「シナリオ・プランニング」という難易度の高い手法に挑戦する勉強会でした。

食料はあらゆる人にとって欠かせないものであり、塾生が将来どの道に進むとしても、向き合わなければならないテーマです。

9月勉強会を通し、食料に関する総合的な知識をインプットすることができたかと思うので、これを機に一人でも多くの塾生が食料安全保障の持論を構築していってくれることを期待しています。

以上、この記事では、植竹、老松、三枝、田端が9月勉強会についてご報告させていただきました。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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