6月9日のジョーク

「タトゥーをさ、入れる人の気持ちがね、わかったのよ。要は俺が最近入れたくなったって話なんだけどさ。今まではタトゥーを入れる心理は全く理解不能だったんだけどね。というのもさ、そもそも三日前かな、バイトを遅刻したわけさ、これはその日の朝9時まで酒飲んでたのが原因なのね。まあもっと言うとその日女に敗北したのも大きいんだけど、これは割愛。何とかなるかと思いきや、11時からのバイトになんて、まあ行けるわけなくて、12時半に飛び起きたのよ。その日からね、流石にもう真面目になるぞと、決めたのよ。遅刻もかれこれバレたのは3ヶ月で4回目とかだし、全部前日に飲みすぎたのが原因だし、人間としてもちゃんとしたいなと割とマジでへこんでさ、今後、朝早い予定がある時はちゃんと、酒を飲んでも早めに帰るように決めたのよ、真面目になるって。ちゃんとしようってね。それで、今日さ、と言うか昨日の夜ね、酒飲まずに寝たの、バイトから帰ってきて、真っ直ぐ寝たの。ちゃんとだよ。そしたらなんか久しぶりに夢を見てさ。
俺は親戚の家にいて、ストーブがあって、冬だったのかな、おじいちゃんは、昔家で火事があったからか、火を怖がったんだけど、電気ストーブは平気だよって俺は言ってさ、ストーブの電源をつける。そしたらストーブがブルブル震え出して、ずっと床と擦れてブーブーうるさいの、故障してんじゃん。と思いつつ、そのブーブーって音がさ、すっごく嫌な音だなと思ったのね。聞いたことあるなあー、これなんだっけなーって、あ、あれだな、遅刻してる時に社員から来る電話の振動だわ。
と思ったその時すでに遅し、電話で起きる。出る。謝る。準備する。飛び出す。電車に乗る。乗りながら思うの、昨日あんなにちゃんと寝てさ、これで遅刻するならもう俺もどうしようもないなって。確かにね、俺が目覚ましかけ忘れたとか、前々日は朝5時まで飲んで朝早くバイト行ってその睡眠時間のツケが回ってきたとか、ちょっとした原因は確かにね、考えられるんだけど、自分としてはさ、一応酒控えて、しっかり睡眠して、これでも、こういうさ、真面目になろうって時にさ、こういうことやっちゃうかって、ガッカリと言うか。
いやね、前々日もね、これはね、飲みに行かないでおこうか迷ったのよ、でも誘われたからにはさ、それを断って完全に飲みに行かないのは逃げであってさ、この場合の本当の改善かつ、克服ってのは、飲みに行って、その上でちゃんと早めに帰るっていうことなんじゃないかと、思ったわけで、今もそれは間違いじゃないと思ってるし、これからはもっと早く帰るしね。
そもそも飲み会とか、放課後の友達の家とか、デュエマ大会とか、楽しい場所からね、予定があってもみんなより先に帰る能力は俺には昔から欠けてるのよ、まあこの話もまた割愛なんだけど。あの、なんか、生きてるだけで愛って映画わかる?あれのね、主人公が恋人に伝えるさ、『あなたは私と別れられるけど、私は私と別れられない。あなたがせこくて自分が憎い』みたいなセリフがあるの、あれを思い出してはさ、自分が憎いなあ、しょうもないなあ、いやいやいや、いや、自分がどうしようもないみたいな悦に浸ろうとするなよお前ってなって、そういう自分も嫌になるし、あの映画には支えてくれる恋人がいて、しかもあの主人公はちゃんと病気で、まずもって俺とは全部違うからな、と、そこで余計にあの映画のことも嫌いになりそうでもあり、いっそなんかおれが実は睡眠障害かなんかで、今までの遅刻は、実はお酒が原因ではなかった。みたいな展開もね、物語としては乙だなと思ったりするけど、探偵小説とかで使えそうだなとか思ったりするけど、漫画とかであるさ、双子の能力者のひとりが持ってた本当の能力は、実はコピー能力でしたみたいなね、とか思ったりするけど、俺は本当にいたって健康なんだよね、残念ながら。とか思ったりしてさ、この6月9日、もうこれからさ、この反省点とこの気持ちを本当に忘れたくないと、自分は忘れっぽいし、覚悟もすぐに風化する人間だから、近くにいつでも思い出せるようにしたいなと思った時にパッと浮かんだのが、タトゥーなんだよね。
あ、こういうことなのかと、思ったね。それぞれの人生で大切にするものをさ、忘れないように近くにおくという。それは、好きな動物なのか、言葉なのか、神なのか仏なのか、戒めなのか、理想なのかわからないけれど、人は忘れてしまうから、刻みつけるんだろうなって。いつでも思い出せるように。これって映画のメメントのさ、1日で記憶を忘れてしまう男が体にタトゥーを掘るって言う行為の拡大解釈でもあるし、逆にさ、メメント自体が人生を縮小して衝動にした話だと解釈もできるじゃん。て言うかそうなのかもしれないんだけど、てなるとさ、クリストファーノーランってやっぱすげえやとも思いつつ、俺はこの6月9日をいかに刻みつけるのかと、もう自分にはそう言う面では全く期待してない分さ、タトゥー。アートとしてやる分はまあ置いといてもさ、これはみんな、こんな感じのタイミングでいれてたんかなあってさ、思ったんだよね。6月9日じゃん?ロックの日だしさ、なんかタトゥーとしてもおれは考えてみてもいいのかなってさ。でも、なんだろうな、タトゥーってさ、まあめっちゃくちゃちゃんと色々考えて覚悟を持っていれる人もいるとは思うけどさ、完全にノリと勢いだけで入れる人もいるからさ、俺はさ、正直にね、申し訳ないけどそっち側の人間の気持ちは未だに理解できないんだよねー」と話終わって、ハイボールを一口飲む。
すると友人はこう言った。「なるほどね、それでみんなタトゥーを入れるのか。勉強になるな。そして、確かに、僕も君と同じようにまじでわからないよ。ちゃんと考えてタトゥーを入れる側の人間の気持ちはね」てね。

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