幸せそう、なヤツから殺、すマシンガン

16時42分、新宿東口の、「新宿東口」で画像検索をすると1番最初に出たそこ、そう、そのそこは、いつものように人でごった返していた。
待ち合わせをする人、仕事に来た人、遊びに来た人、仕事に行く人、遊びに行く人、カップル、マッチングアプリ、ナンパ、お仲間、馬鹿騒ぎ、目的があってもなくても人がいる、いつも知らない人で溢れる、いつもの新宿東口だ。
ゆく新宿東口の流れは絶えずして、しかも、もとの新宿東口にあらず。さ。
ただ、そのいつもとは違うことが一つあるとするのならば、こうしている間に地面からニョキっと出てきたマシンガンだ。
たんぽぽの花の部分がそっくりそのままマシンガンの、「マシンガン」で画像検索すると1番最初に出たそれ、そう、その花が、其処彼処に生えていることだ。遊星からの物体か、はたまた、人が育てた武器なのか。
人混みの中に突如現れた1、2、3、4、5、6丁のマシンガン。それらの茎は膝下ほどの高さで伸びきって、通り過ぎる人々に徐々に認識されていき、その一丁一丁の周りに、水が沸騰するように、ぶくぶくと、ゆっくりとだが加速度的に人だかりができた。
そして、1つパシャっと音がして、我も我もとパシャシャシャシャシャと各々が、スマホに収める。
比喩でもなんでもなく、ザワザワザワザワと蠢き出した人混みの中、
はっきりとだが確実に、誰かが叫んだ。
「幸せそうなヤツから殺すマシンガンだ」
その瞬間に、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
手を繋いでいるカップルが8人、被弾した。
結婚指輪をしている人が7人、被弾した。
高そうな時計をしている人が5人、被弾した。
ブランド物のバッグを持っている人が6人、被弾した。
飲みに来ただけの若い人が13人、被弾した。
「俺ってクズだからさあ」と言ったことのある人が4人、被弾した。
自分に魅力がないことを棚に上げ、人間としての未熟と底の浅さを誤魔化すために、とにかくお酒を飲ませて異性をなんとかしようとする人が5人、被弾した。
「他人に対して、ちゃんと怒ったことはないかもなぁ、だって怒るのってカロリー使うからさ、無駄じゃん。だから自分の中でさ、こいつ無いわあって思ったら、その瞬間に、表には一切出さずに無言でそいつを切っちゃうからさ、なんなら普通に怒る人よりさ、自分が1番残酷だとは思うわ」と他人にわざわざ言ったことのある人が3人、被弾した。
ナンパ師界隈が89人、被弾した。
居酒屋のドアを開いたその先で、店員さんに「ラストオーダーがもうすぐなんですけど大丈夫ですか?」と聞かれて、「あ、全然大丈夫ですよ」と即答してそのままその居酒屋に入店したことのある人が4人、被弾した。
あとは、どう考えてもそんなわけないのに、なんかなんとなく幸せそうなヤツが8人、被弾した。

新宿東口に有史以来の完全なる静寂が訪れた。

束の間、誰かが叫んだ。
「幸せそうじゃないヤツが生き残りました」
その瞬間、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
良かった、どうやら自分は生き残れたとちゃんと安心した人たちが、この時点で、これはもう幸せそうだと言うことで46人、被弾した。

新宿東口にさっき以来の完全なる静寂が訪れた。

束の間、誰かが叫んだ。
「生きるより死ぬことの方が幸せだと本気で思えたヤツが生き残りました」
その瞬間、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
自分は常日頃からなんとなく死にたいとは思っていたけれど、結局は本当に死ぬ勇気が無いだけの出来損ないなのかもしれないと思い悩んではいたが、今回の一件で、自分はちゃんと心から、生きることよりも死ぬことの方が幸せだと本気で思えているのだ。と言う事実を肯定された人たちが、この時点で、これはもう幸せそうだと言うことで13人、被弾した。

新宿東口にさっき以来の完全なる静寂が訪れた。

束の間、誰かが叫んだ。
「マシンガンを撃つ側に回れば何も怖く無い」
その瞬間、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
今、マシンガンを撃っている人らに対して、我先にとマシンガンを奪いにかかることで、自分の命に希望を見出した人たちが、この時点で、これはもう幸せそうだと言うことで8人、被弾した。

新宿東口にさっき以来の完全なる静寂が訪れた。

束の間、誰かが叫んだ。
「幸せじゃ無いとちゃんと思える人だけが、もはや幸せ」
その瞬間、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
幸せとは、星が降る夜と眩しい朝が、繰り返すようなものじゃなく、大切な人に降りかかった雨に傘を差せる事だ、と思えた人が96人、被弾した。

新宿東口にさっき以来の完全なる静寂が訪れた。

束の間、誰かが叫んだ。
「所詮、このマシンガンを撃ってるヤツは他人の幸せをひたすらに糾弾するだけであり、自分の幸福それ自体は追求せずに、ただ生き延びるのみ。逆にいざ撃たれて死ぬヤツはというと、一応は幸せを感じたからこそ死ねる。死ねるとは言わんか。幸福には死んでいるのだ。こんな時代に果たしてどちらを目指すべきか」
その瞬間、ドバババババと鳴り響く。ドババババババババババババ。
マシンガンを撃ってた人らがマシンガンを撃ってた人らを撃ちに撃ちあって6人、被弾した。

新宿東口にさっき以来の完全なる静寂が訪れた。

ガハハハハハハハハハハハハ。
それをみて俺はめちゃくちゃ笑った。
ついに、人生で1番笑ったかもしれない。
良いものを見せてもらった。
こりゃ傑作だ。
これだから人生はやめられない。
束の間、誰かが叫んだ。
「誰かが誰かを攻撃している、その様子をどいつもこいつも醜い奴らだと思いながらも、結局、また今にも、そう言う争いを血眼になって自分から探している。自分は被害者でも加害者でも無いという、無関係なフリをして。あなたはそのまま生きれば良いさ」

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