朝の攻略本

朝が弱くて仕方がない。
仮に「朝」という属性があれば、それの付属した武器で眠り状態の僕を数回殴るだけで殺せるぐらいに、僕は朝に弱い。

起きるとき、「今日も仕事に行かなくてはいけない」と思うと気分がどんよりしてしまう。微睡んだまま、四つん這いに似たような往生際の悪い体勢になると、節々の重さが前世の罪のように襲いかかり、様々な思念が駆け巡っていく。

なぜ朝はこんなに辛いのか? なぜ昨日は夜更かししてしまったのか?世界に正義はもうないのか? 

こんなに毎日辛いのは変だと思った。
就寝と起床は人類がまだホモサピエンスになる前からずっとやっていることのはずなのに、二十一世紀にもなって未だにこれほど辛いというのはインチキである。
何か攻略法がきっとあるはずだ。そう思って状況分析を始めた。
どうすれば、朝の辛さから逃れられるのか?

正攻法は睡眠時間の確保だが、これはできるならやったほうが良いに決まっているという当然のことで、RPGでいうレベル上げみたいなものだから駄目だ。そういった正しい努力をしたくないがために、無い知恵を振り絞るのが攻略法というものであるはず。

僕はまず、「なぜ起きたくないのか?」を考えてみた。
当たり前すぎて考えていなかったが、改めて思い返してみると、それは「単に眠いから」ではないという事実に気付いた。答えは一つ、すなわち「仕事に行きたくねえ~」からだった。
ここで一つの仮説が立てられた。
朝の辛さ(のほとんど)は、「起きる理由」が「自分のしたくないこと」に直結してしまっていることが原因なのではないか?

そう仮定すると、思い当たる節が就寝前にもある。
「今日」が終われば「明日」がくる。そして、「明日」という日の最初に待ち構えているのが、僕の場合は「出勤」というつらたんである。
これを忌避するがために、僕たちは「今日(夜)」という出勤のない安息の時空にすこしでも長く留まろうとし、結果、ダラダラYouTubeなど見てしまう!
夜更かしとは、大概が目的を持った活動ではなく、単に「起床」から逃れようとする哀れなじり貧の抵抗なのではないか?

さて、朝の辛さの原因が「起きる理由=自分のしたくないこと」にあると考えれば、対策の立て方はこうだ。
朝のド頭に楽しみを与えてやる。
趣味など何でもいいが、今まで夜に行っていたことを全て朝に行う習慣に変えてしまうのだ。
ただし、実践した結果から言って、これにはとても大事な以下の2つのポイントがあった。

①それらの楽しみ(趣味など、作業いろいろ)は、もう夜にはきっぱりやらないこと
夜への未練を断ち切り、その反動で朝にやるモチベーションを増強できる。

②起床時間を1時間以上早めること
夜やっていたことを朝にやるとき、就寝時間と起床時間を見直すことになるが、この変更は大きくずらせばずらすほどいい。早起きに対するインセンティブが高くなり、起床時のまどろみの中で、睡眠欲に敗北する確率が激減する。

以上を遵守して僕は朝をやっつけた。以下は大まかな記録である。

さて、いつも8:00起床(→9:10自宅を出る)の習慣だった僕は、アラームの時間を7:00に設定して就寝。
翌日、6:50頃、アラームが鳴るおよそ10分前に目が覚める。「そうでしたね」などと独り言を呟きながら、布団からむくりと起き上がる。
寝不足なのは変わりないのでまぶたはデロンと重たいが、身体の方はそうでもない。悪くない、これは悪くないぞ。
ここでさらに小さな気づきがあった。朝にやりたいことを設定しておくと、目が覚めたときに「二度寝しよう」とあまり思わない。「〇〇をやるぞ」と決めているから、そっちの方の欲求が、二度寝の睡魔を討ち払っているようだ。

寝ぼけながらコーヒーを淹れ、顔を洗い、菓子パンを食べころがしながらパソコンをながめる。意識が覚醒してきたら、昨夜に書きかけで放り出していた文章などを見直して、気の向くままに少しずつ手を加えていくなどする。

従来の僕の起床後の行動は、パンをコーヒーで胃に流し込み、バタバタと着替えながら、スマホで天気予報の情報をインプットしながら髪をセットするという、悲しきロボットの様相だったが、この日はまるきり違っていた。
ゆとりある食事、テレビには呑気に垂れ流されている「世界ネコ歩き」(録画)、世界の始まりを祝福するかのような朝日、ふとスマホの時計を一瞥すれば、「まだ1時間半もあるじゃん!」、この多幸感だ。
これらが互いに絡まり合って絶妙なリラックスが生じ、オモシロイように作業が進む。

やがて出勤時間が迫ってきたときも、もう以前のように世界を恨む気持ちはない。「良い時間を過ごさせていただきました」という感じ。目的不明の敬語が自然に出る感じ。充実のオーラが身体から泉のように湧き出て、出勤への嫌悪感を浄化している。
なんだこれは。完全に攻略しているじゃないか。

考え方としては辛さの原因を見極めて対処するというシンプルなものっぽい。
僕の場合、「朝の辛さ」=「出勤したくない」/「眠い」という2つのマイナス要素から成り立っていたわけだが、寝起きはやはり意識が朦朧としているからか、今までの僕は、「眠い」から「朝の辛さ」があるのだと思い込んでしまっていたようだ。
ハッキリ間違えていた。辛いのは「眠い」からではなく「出勤したくない」の方にある。
つまり、朝に楽しみがない起床時は、「現実世界の嫌なこと全般」が束になってのしかかってくる構造になっている

例えば、「死にたい」と思うとき、この「死にたい」は、多くの場合、言葉通りに「身体機能を停止させたい」なんて欲求を意味しているのではなく、
「生きている中で受けざるを得ない苦しみから解放されたい」といったニュアンスの方が近いはず。
ただ、歯切れのいい言葉(死にたい)や、迫ってくる身体感覚(眠い)などは、実はとっても力強いから、脳とかいう器官(人間様に大変信頼されている)は、これらに押し切られて誤ってしまう。たぶんそういうことではないだろうか。

以上が朝の攻略本である。
効果があればうれしいし、@Wikiとかに載せてもいいと思う。
効果がなければ僕を恨んだりはせず、然るべき正しい対処法を別で学んで、みんなそれぞれ健やかになってほしい。

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