「こどもの一生」をどう見たか
2022年版「こどもの一生」を東京芸術劇場プレイハウスで観ました。残念ながら東京公演は4/23以降中止。大阪以降の開催も未定という状況ですが、観劇できた身として書き残します。
■ラストの解釈
いきなりガッツリネタバレのラストの話で恐縮ですが、身の回りの誰と話してもバラバラのことを言うラストについて書かせてください。
観た方、あれどう思いました!?!?
私は「実は柿沼が『三友社長がいないままであってほしい』と願っているからそうなってしまった」だと思いました。
一人でも山田のおじさんがいると信じたらそれが現実になってしまう。そういう世界観で三友社長が意識不明のままであるということは、誰かが、というか虐げられてきた柿沼が「このまま目を覚まさなかったらいいな」と心のどこかで思っている。そう解釈して、無意識の殺意を秘めた柿沼という可能性にゾワっとしました。
死にかけているみっちゃんを見て悲しんでいた柿沼(かっちゃん)でしたが、忍ちゃんは悲しんでいても貞三さんはこのまま死んだらいいな〜くらい思っていそうです。
そんなわけで一番怖いのは人間の気持ちだわな……と思うラストでした。
ちなみに週刊朝日のインタビューで、柿沼を演じた松島聡くんは「自分の考え方一つで現実が変わることを実感した」と話していました。そう思えるようになった聡ちゃんがこの作品を演じていると思うとまた面白いです。急にポジティブな話に見えてきます。
まあストーリーに立ち返ってみても嫌な奴が消えたら幸せという捉え方もあるか……ああ怖い怖い。
■山田のおじさんは何者か
本を読んでから行くつもりが先に読み終わった母に「読まずにいくほうが面白いかも」と言われ、ちょうど山田のおじさんごっこあたりで読むのをやめて観劇に向かいました。
そしたらもう驚きですよね。山田のおじさんがマジで出てくるなんてあります??
この不可解な訪問者をどう解釈したものかと頭をフル回転させていたら「想いが強いほど私の存在はくっきりしてくる」などと山田のおじさんが話し始めて「想われるほど存在がくっきり……アイドルの話か……?」と別のことにまで思考を飛ばしてしまいました。ちなみに友人は山田のおじさんにEndless SHOCKのコウイチを重ねていました。その発想はなかった。
冒頭とラストに出てくる戦時中の話と現代の話を重ね合わせると、山田のおじさんは極限のストレス状態(+キノコ)が見せる幻覚でしょう。
ではその幻覚に善悪をつけるとしたら、一概に悪とは言えない気がしています。明らかにクレイジーで危険でやばい人ではあるのですが、三友社長を柿沼の視界から取り除いたのはある意味山田のおじさんであり、中尉の孤独を和らげたのも兵卒/山田のおじさんです。ストレスが一概に良い悪いと言えないように、山田のおじさんも一概に良い悪いとは言えない存在なんじゃないかなと思いました。
■痛みについての考え方
山田のおじさんといえば、柿沼が山田のおじさんを倒すシーンが印象的でした。頭突きをしながら「痛くないのはお前がいないからだ」という柿沼にハッとしたんです。
本作において触れられることは実在の証明にならないし、触れられないことは非実在の証明にならない。でも痛みを感じるのは存在しているから。つまり体の痛みや心の痛み(=ストレス)が今生きていることの証になるということなのかなあと思いました。劇中で「ストレスって悪いだけじゃないんだね〜」的な話もありましたしね。
痛みに対処するためにも痛みそのものに気がつくことは必要です。ストレス社会で生きる現代人に対して、痛みに気づかないふりをするなというメッセージを届けてくれたように感じました。
それでは聞いてください。Sexy Zoneで「RUN」。
(o'ω'o)うるせえよ(バシィン
■また一つ舞台の面白さを知った
舞台を見た後に本を読むと、キャラクターだけでなく展開もずいぶん違うことが分かります。冒頭にストレスとは何かやキャラクターの細かな自己紹介が入ることで、2時間という短い時間でも頭に入ってきやすくなりました。
藤堂くんの「不安になって確認してしまう」という自己紹介が山田のおじさんに襲われるシーンにつながっていたところもゾクゾクしました。絶対に確信を持てないじゃんアワワワワ……と見守る緊迫感、よかったです。
個人的には柿沼が二重人格であるという本とは違う設定がどういう装置なのか、一回では掴みきれずにもやもやしています。柿沼のストレスフルな状況を表した設定なのか、他に意図があるのか。
自分の解釈に寄せて考えると、柿沼が"自分でも気づかないうちに"三友社長を憎んでいたという怖さを出したかったのかなあと思います。というか二重人格設定だったからこそ「実は柿沼が三友社長を消したいと思っている」という見方をしちゃったんです。この設定がなければ別の見え方をしたかもしれません。過去の上演でも二重人格設定はあったのかしら。
まあオタク的感想としては「二重人格をやってる松島さんを見られてよかった!!!!!」なので二重人格設定にセクシーサンキューです。頭突き修行のシーンでタオルをかける姿や座り方で別人なんだと瞬時に分かって最高でした。
ちなみにうちの母は「読んでから行ったけどあまりにも聡ちゃんが普通に演じているから自分が二重人格設定を読み飛ばしたのかと思った」と話していました。本にないシーンをあったかのように信じさせちゃう松島さん……。
役者さんの話で言うと井手ちゃん役の朝夏まなとさんが怖かったです。「いいのよ〜」と歌うように喋らんでほしい、怖いので! 逆に今井さん演じるみっちゃんは本よりもゲス感が薄く、升さん演じる院長はどことなくお父さん感があり、お二人は本よりも普通の人に見えました。藤堂くんが一番本のイメージに近かったかなあ。
本との違いに唸っただけでなく、ダンサーさんや音、光の強烈さには舞台ならではの迫力を感じられましたし、本を読んだとしても舞台で見られてよかったと感じる作品でした。
そういえば昨年「赤シャツ」を見たときも舞台っていいなあと思いました。
観ながら考えたことが正解かどうか、作り手の意図通りかは別として、こうやってうんうん考える時間が楽しいです。頭を使わせてくれる作品は本当に面白い。
そしてそんな作品に出合わせ続けてくれている聡ちゃんに感謝です。また舞台に立って芝居をする松島聡くんが見られるといいなあ。