ぼくらがウイスキーを飲む理由
僕はビールや日本酒、ワインなどあらゆる種類のお酒を飲みますが、飲んでいて「存在感」を感じるのはウイスキーだけです。語りかけてくるし、語りかけたくなる。ひとりの個性をもつ友人のようにウイスキーはそこに存在しています。
それもそのはず、ウイスキーができるまでには蒸溜して熟成が終わるまでに10年以上の歳月がかかっています。さらにいうとウイスキーの樽材に使う木は樹齢1000年以上のものも多く、原料である麦芽の香り付けに使うピートという化石燃料は3000年もの歳月をかけて出来上がっています。
そんなことを考えながらグラスの中で揺れる琥珀色の液体と会話をする。心がとても凪いでゆきます。ウイスキーを飲みながら川の流れる森の静寂を想像することもあるし、夏の雨上がりの小道を天真爛漫な少女が駆けていくのに出会うこともあります。
またウイスキーはとても奥深く、知れば知るほど楽しいお酒でもあります。
ウイスキーは時のロマン。知ることで、普段飲んでいるウイスキーをより身近に感じてもらいたいと僕は願います。
ウイスキーの起源
ウィスキーの起源は中世までさかのぼります。錬金術が発達する過程で、偶然生まれたその液体は不老長寿の効果があると信じられ、ラテン語で「Aqua vitae -アクアヴィテ」(生命の水)と呼ばれるようになります。
やがて、その技術はヨーロッパの北方に伝わり、その地で飲まれていたビールを蒸留して作られるようになり、スコットランドとアイルランドの古語であるゲール語で「Uisge beatha -ウィシュゲ・ベーハ」(生命の水)と呼ばれ、のちに「WHISKY -ウイスキー」という言葉へと変化しました。
初期のウイスキーは熟成を行わない無色透明で、味も香りも荒々しいものでした。18世紀に入って、イングランドはスコットランドを併合し、政府はウイスキーに対する関税を一気に引き上げます。それまでウイスキーを造っていたスコットランドの農民は、イングランド政府に支払う酒税を免れるために、密造したウィスキーをシェリーの空き樽に入れ、山の奥に隠したのです。
するとウイスキーは、樽の中で熟成され、琥珀色でまろやかな味わいと華やかな香りをもったのです。
ウイスキーの定義
定義上、ウイスキーとは
「穀物を原料とした蒸溜酒を樽で熟成させたもの」
です。同じ色合いの蒸溜酒でも果実で作るものはブランデーになり、同じ穀物由来の蒸溜酒であっても樽熟成させていないものはウォッカや焼酎などになります。
よく耳にするスコッチやバーボンもウイスキー種類のひとつで、造り方や熟成期間など、各国ごとに定められたこと規定をクリアしたウイスキーの呼び方です。
では穀物とは何か?これを辞書を引くと
「人間がその種子などを常食とするために栽培する農作物。米・麦・アワ・ヒエ・とうもろこしなど」
と出てきます。ウイスキーの場合は麦、とうもろこしが使われることがほとんどです。
スコットランドや日本では大麦を原料としたウイスキーを造られることが多く、バーボンなどアメリカのウイスキーではとうもろこしを主原料にすることが多いです。
では蒸溜酒とは?
酒類はまず大きく3つ
「醸造酒」、「蒸溜酒」、「混成酒」
に分けられます。醸造酒はビールや日本酒、ワインなど「原料を発酵させてできるお酒」のことでアルコール度数は5〜15%程度です。
この醸造酒を水とアルコールの沸点の違いを利用し蒸溜して造られたお酒が蒸溜酒です。大雑把に言えばワインを蒸溜したのがブランデー、ビール(ホップは入っていないもの)を蒸溜したのがウイスキーになります。
混成酒はいわゆるリキュールのことで、醸造酒や蒸溜酒に香味や果実のエキスなどを混ぜたものをいいます。
なぜ樽で熟成させるのか?
穀物を原料とし、蒸溜する点では、ジンやウォッカと同じですが、樽に入れて熟成させることでウイスキー特有の琥珀色のお酒ができます。
樽で熟成させている間に、樽材から多くの成分がウイスキーに溶け出しています。また、ウイスキーの持つアルコール成分と樽からの様々な成分が反応しあい、熟成中に多くの成分ができていて、それが複雑に絡み合い、まろやかさや甘味を帯びた琥珀色のウイスキーになります。
しかし、最新の科学でも樽熟成の効果に関してわかっていることはごく僅かで、その多くが謎に包まれています。
わかっているのは、味がまろやかになること、琥珀色へと変化すること、熟成中に樽の呼吸とともに年間2〜3%蒸発して減ってしまうことです(「天使の分け前」と呼ばれる)。
2012年に「天使の分け前(原題:The Angels' Share)」という映画が公開されました。スコットランドが舞台で、実際の蒸溜所を撮影場所として使っていたことも話題になりました。実はこの映画、ウイスキーの製造や設備についても詳しく描かれています。ご興味のある方はこちらの映画もぜひ!
そして琥珀の夢をみる
こうして小さな穀物であったウイスキーは樽の中での長い眠りから目を覚まし、琥珀色の魅力的な液体となって僕らの目の前のグラスに注がれています。
「酒を飲むのにうんちくはいらない」
「ただ感じるままに飲めばいい」
それも素晴らしいウイスキーとの向き合い方だと思います。しかし、少し僕らの方からウイスキーに歩み寄ってみる。そうすると、より多くの魅力や飲む楽しみが見つかると思います。
「相手を想い、己を知る」
僕はいま何を飲みたいのだろう?ウイスキーは心まで満たしてくれる。なんて懐の深いお酒なのだろうか。