Day7-病院食、そして退院へ

 しばらくは紅茶を飲む日々が続いた。術後で体力が落ちているとき、口に入れるのは紅茶だけというのは辛いものがある。
 よく、入院すると筋肉が衰えると聞く。実際に当事者となるや、歩くのも一苦労なほど、どんどんと筋肉が衰えていき、大変驚いた。ベッドに仰向けになっていると、体が重力に負けてベッドへ吸い込まれそうだ。それほど、動くのが億劫になっていた。
 これではいかんと、同じフロア内を散歩することにした。片手で点滴袋を持ち上げながら…。

 盲腸はオナラが出たら食事が出来るという。実際に盲腸になってみると、オナラは関係がなく、術後の経過によって決まるようだ。入院中は何度か診察があった。どういう診察かは忘れてしまったけれども、術後経過を診て、それで食事ができるか決まる。
 食事が許可されたのは、退院日の朝であった。抜糸せずに退院するのは、こちら側の都合である。私は退院の身支度をする前に、初めてこの病院の食事にありつけることとなったのである。ランチであった。
 この病院では、部屋の前の廊下に配膳人が来て、給食スタイルとなっていた。ようは患者が配膳人のところへ食器を取りに行き何品目かを選ぶ。他の病棟では配膳人が各ベッドへ運ぶのかもしれなが、この病棟では皆並んだ。
 急性盲腸炎の術後最初の食事は、重湯や粥のような、負担が少なく、消化の良いもののはずだ。そう思っていた私は、目の前の食事に面食らった。
 メニューは「マッシュポテト、ステーキ、ペンネのプレーンパスタ」 なるほど、イタリアらしい食である。国が違えば病院食も変化する。それがまさか、ステーキやパスタだとは! 私は飢餓状態で大変空腹であった。面食らうと同時に、目の前の肉とパスタに貪りつきたい衝動に駆られる。配膳人はそんなわたしの状況を察してか、ニコッと笑顔で「どれがいい?」と目配せする。悪魔のような微笑み。
 私は全て頼むやいなや、示し合わせたように山盛りに盛ってくる。術後初の食事は、山盛りのポテト、パスタ、ステーキ! さらに紅茶無し! 飲み物は配られなかったのだ。
 私はガツガツと食った。いや、喰ったという表現が正しい。健常者ならば食べられそうな山盛りを前にして、完食しようとスプーンとフォークを動かす。が、固形物を入れていなかった胃は驚く。ほどなくすぐにお腹一杯となり、残してしまった。
 味は3品目ともに薄かった。普段ならば物足りない味に凹むものの、術後初の食事ということもあって、食べられることだけでも嬉しい。今回のイタリア旅行では、どんなリストランテのパスタよりも一番美味しかったのは間違いない。

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