Day4,新たな患者と退院交渉

 ある昼下がり、部屋に神父が訪れてきた。誰に呼ばれたわけではなく、どうやら決まった曜日に巡回しているらしい。
 眼鏡を掛けた若い神父が部屋に入る。各ベッドの前で祈りをあげる。国が違えば、入院生活もこうやって宗教と密接な部分がある。観光では得られない体験だ。
 神父は私に対しては祈らない。私がカトリック信者ならば頼んだところだが、仏教徒なので祈り方も知らない。
「Are you tourist?」
 短い挨拶を交わした神父は、次の部屋へと向かう。

 入院4日目だったと思う。向かいのベッドに誰かが入院した。カーテンが締められている。私が部屋に居なかったときの出来事だったようで、ベッドの主が入室したことを知らない。
 やがてカーテンが開くと、東洋人の少年がいた。歳は見た目で10代後半か。彼は私を見るや、流暢な英語で話しかける。
(ちょっと待ってくれ。早すぎて何を言っているのかわからない…)
 私は必死に片言の英語で、日本から来たと自己紹介をする。彼は私が英語が苦手と見るや少々残念そうな顔をするが、それでも構わずに話しかけてくる。(いやいや、もうちょっとゆっくり話してほしいよなぁ)
 彼は中華系の容姿だったため、最初は香港か上海から来たのかと思ったが、オーストラリア人だと言う。旅行中に酷い腹痛となり、この病院へ入院したのだという。
 ここでは彼をD君にしよう。私は彼の英語を聞き取るのが精一杯だ。こんなに英語を読解するのは、ヒアリング授業以来である。
 D君は私と目が合う度に話しかけてくる。しばらくは嬉しかったが、何を言っているのか分からないことのほうが多い。ちょっと劣等感にさいなまれる。もう少し英語を勉強すればよかった。
 D君とは色々と話したと思う。ほとんど忘れてしまったのが残念だけど、この強制英会話体験があったおかげで、英語に少し抵抗が無くなったのは確かだ。もっとも、現在でも英語は何を言っているのか分からないことが多々あるのだけれども……

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