Day3,入院生活<その2>

 次に病院内の話をしよう。スタンドを入手した私は、部屋内や院内を散歩することにした。病院がどんな状況か把握したい。
 部屋内トイレは隣部屋と共用で個室のみ。シャワー室はなかったと思う。部屋を出るとナースステーションがすぐ近くにあり、廊下はコの字で回廊している。
 廊下の内側には部屋が無く、外側に大部屋が続く。ここは男性病棟のエリアのようで、入院患者は皆男性。中年から老人が多い。
 周りはみなイタリア人なので、東洋人の私が歩くだけで注目の的だ。私はボサボサの髪で……
 ああ、そうだ。伝え忘れていたが、このイタリア旅行の道中で何かに役立ちそうだからと、日本から寝台列車やビジネスホテルにあるような薄手の寝間着浴衣を持ってきていた。それが、この入院時に大活躍することとなった。浴衣を寝巻きとして着ているのだ。私はどこから見ても日本仕様なのである。
 浴衣を着た少年がボサボサの髪で、虚ろな表情でノソノソと歩いている。注目の的にならないはずがない。部屋内から「giapponese…giapponese…(日本人、日本人、)」とヒソヒソ声が聞こえ、おじさんたちが私を指差しながら、遠巻きにジッと見ている。盛り上がっていたテレビを見るのも中断して。彼らはそのうち、見舞いに来た家族に「日本人が居た」と噂するに違いない。
 てっきりおじさん達が陽気に「Ciao!」と言いながら、ペラペラ話してくるのかと思いきや、得体の知れないものに出会ったような距離感で見られる。陽気なイタリア人のイメージとはかけ離れた光景に、内心戸惑った。そのかわり廊下で話しかけてきたのは、上品な雰囲気の漂う初老のマダムが2人。彼女達も入院患者で、どうやら男子病棟へ用があった様子。
 彼女達は多少英語が話せ「どうしたの?」と尋ねる。私は覚えたてのイタリア語で「appendicitis acuta」と伝え、「ああ…それは大変だ」と、しばし色々なことを立ち話した。英語もからっきしダメなはずだが、何かを話さねばならない状況だと、なんとかなるものである。彼女達との短い会話は良いリフレッシュとなった。

ここから先は

1,347字
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?