Day8-帰国と皇族行事に使用する送迎車

 成田行きMD-11は安定した飛行であった。気がかりなのは先ほどのドイツ語を話す白人中年男性である。ずっと落ち着きがない。離陸前は隣に座る日本人女性に何かを頼み、拒否されていた。何があったのか。
「どうやら奥様と離れた座席に予約されてしまったみたいなのです」
 世話係となったチーフパーサーが教えてくれる。機内で座席の交換をお願いしたものの、叶わなかったという。それはかわいそうだが仕方ない。初めての日本旅行だろうか。ソワソワするおじさんが不憫に思えてきた。
 ところで、私の前はギャレーの壁である。十分に足が伸ばせられるよう、人が1人歩けそうな空間がある。とはいっても、足を伸ばして横たわっているところ、わざわざ座席の前を歩く人などいない。ギャレーを通ればいいのだから。それがいたのである。あのドイツ語のおじさんだ。
 おじさんは離れた席に座る奥様に何かを伝えたかったのだろう。通路に出て、ドタドタと大きな足音をさせて、こちらへ近づいてきた。次の瞬間、
「痛!」
私は思わず痛みを覚えた。おじさんが私の前を歩いて反対側へ行ったのである。そのとき、私の足を蹴ってしまったのだ。それが体に響く!
 何というガサツなおじさんだ。もちろん悪意はない。ないのは分かっている。彼は「Sorry!」と謝りながらも「My honey〜」と声を張り上げ、ずかずかと反対側へ行き、窓側に座る奥様に何か言っている。そして再び私の前を歩いて自分の席に着く。
 ギャレーを通らないのか? カーテンは閉まっていたか忘れたが、何かの理由で通れなかったのか。とにかく、おじさんの”動き”に呆れてしまう。
 おじさんはその内落ち着いたようで大人しくなる。が、何かあると、また私の前を往復する。そうか、ここは通路なのだ。諦めたほうが楽である。病室の管だらけB氏といい、このおじさんといい、何かと個性的なおじさまに出会う。

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