とっておきの1人時間。ひみつの本屋は1階へーー「ホテル ロマンス座カド」
東京から新幹線を使えば、たった40分ほどで到着する温泉街、熱海。以前はさびれた温泉街のような雰囲気があったこの地に、今は老若男女が列をなし、さまざまなお店に並んでいる。さびれた温泉街のようだった頃を見たことがある身としては、まるで原宿の竹下通りのようだと思うこともある。
幾度となく訪れてきたそんな熱海に、私は今回初めて宿泊した。友人からの勧めで泊まることを決めた、「ホテル ロマンス座カド」。たった1泊。されどこの1泊で、今まで以上に熱海が好きになってしまったのだった。
「ホテル ロマンス座カド」とは
アクセス
今回お世話になった宿、「ホテル ロマンス座カド」は、熱海銀座の少し路地に入った場所にある。近くに位置する、「ゲストハウス マルヤ」、「Kiten slow & work stay」という宿とともに運営されている。
コンセプト
「ホテル ロマンス座カド」という名のとおり、このホテルの横にはロマンス座と呼ばれる映画館があった。ロマンス座は、この温泉街熱海で最後まで映画を上映し続けていた場所。その隣で、物語のはじまる場所というコンセプトのもと、宿泊客を迎えている。
「ホテル ロマンス座カド」での滞在
チェックイン
チェックインは、「ゲストハウス マルヤ」で行うこととなっている。熱海にたどり着き、曲がりくねった坂道をくだり、熱海銀座商店街に着いた。ひもの屋さんや、若い女性を中心に人気な熱海プリンの2号店、他にもおしゃれなカフェなどが並ぶこの通り。
大きなガラスで明るく居心地のよさそうな店内が見える戸。1階は宿泊者も宿泊者以外もゆっくりできる「カフェ&バー MARUYA Terrace」となっている。引き戸を開けて、中に入るとスタッフさんが声をかけてくれ、チェックインを行った。
その時に、熱海の温泉街の手作りマップをもらった。このゲストハウス以外の飲食店などでも置いてあるので、熱海に訪れた際には、ぜひ手に取ってみてほしい。熱海の街にある数々のお店やイベントなどが、可愛くわかりやすくまとめてある。
何よりも感動したのは、スタッフさんがたくさん熱海を知っているということ。その街の宿のスタッフなら当たり前、と思うかもしれない。スタッフさんは、私のその時の気分に合わせて、4~5店舗ほど夜ご飯を食べるお店を紹介してくれた。
そして各店舗の特徴を、挙げていく。こんな方にオススメなんです、こういう良さがあるんです、と楽しそうに話す姿を見て、このスタッフさんは心底熱海を愛しているのだと分かった。スタッフによってオススメは変わるらしく、この宿のスタッフさんは個々にしっかり熱海という街と向き合ってきたのだろうと思った。
文豪の気分で始める物語202号室
先に紹介したとおり、この宿では部屋ごとにコンセプトがある。宿泊予約の際に、自分がどの部屋に泊まるかを選択することができ、私が選んだのは文豪の気分ではじめる物語の部屋、202号室。
ベッドカバーが好きな色だったこと。そして何より、ライターとして、文豪の気分に浸れるとはどんなものだろうと気になり、この部屋での滞在を決めた。
部屋についてみると、渋めの茶色の古めかしい机と、落ち着きのある色に覆われたベッドが私を迎えてくれた。普段一人旅の時はドミトリーも多い私が、個室となると少し贅沢感もあった。
窓側にある小さな押入れのようなスペースには、タイプライターとかなり古い書物が置いてあった。タイプライターを打つこと、ちょっと夢見ているんだよねと数日前に母に話したばかりだったのに、もう夢は叶ってしまった。
机の上には早速本が数冊。たまたまだが、私が今回持ってきていた本の著者、三島由紀夫の本も置いてあった。そして、いつか読んでみたいと思っていた土門蘭さんの詩集まで。
1泊では、すでに足りない予感の中。勧められた居酒屋へと、私は部屋を後にした。
ひみつの本屋
202号室に滞在している人には、ある特権がある。それは、ひみつの本屋への鍵が部屋にあること。ひみつの本屋は、宿の1階にあり、あたたかいライトがちらりと内情を通行人に見せている。
この部屋に泊まっている人は、いつでもひみつの本屋に足を運ぶことができる。そのほかのお客さんも入れる時間帯もあるが、夜に入れる特別感は、202号室の住人の特権だ。
錠に鍵をさしてまわせば、大きな錠は開いて、扉を開けることができる。扉を開けた先には、たくさんの本と、誰かの書斎。特別感を演出してくれるような音楽が、私の胸をくすぐった。
部屋には、魔女の持ち物のような不思議なものもいくつか置かれていて、購入も可能だった。並べて置かれたグラスや瓶もあり、そこに誰かがいたということを意識させられるこの部屋に、私たち202号室の客は忍び足で入る。
テーブルの上のノートには、ひみつの本屋で体験したドキドキを書き記している人がたくさん。本屋さんでたくさんの本の中から1冊を選ぶのもわくわくするものだけど、ひみつの本屋で選ぶのもこんなに胸が高鳴るものなのだと、私は初めて知った。
朝食は、ゲストハウスマルヤの1階で
今回宿泊した「ホテル ロマンス座カド」のほか、「ゲストハウス マルヤ」、「Kiten slow & work stay」で共通して提供されている朝ご飯がある。それは、白ご飯とみそ汁のセット。それだけ?と思うかもしれないが、足りないものは自分で足しに行く。
そう、「ゲストハウス マルヤ」の向かいにある「釜鶴ひもの店」でひものを買ってきて、自分で魚を焼くのだ。「釜鶴ひもの店」には、定番のアジのほか、熱海や神奈川で獲れた地のものを使ったひものが数多く取り扱われていた。
自分の好みのひものを買って、みんな宿へ戻ってグリルで焼いていく。「釜鶴ひもの店」のお母さん曰く、皮側が7割、身が3割程度で火を通すとおいしくなるんだとか。
焼きながら、同じ宿泊者と何のひものにしたのかと会話をするのもいい。このゲストハウスを気に入って、リピーターとして訪れている人もいた。ボードゲーム会のように定期的に開催されているイベントもあり、それを楽しみに来ている人もいるようだった。
熱海に溶け込むとっておきの1人時間
この1泊で、私は熱海がまた好きになった。宿のスタッフさんも、宿の宿泊客も、おすすめしてもらった居酒屋のご夫婦も、その常連さんも。みんなが熱海を自分なりに愛していて、虜にする何かがここにあるのだと、そう強く感じた。
私も地元の人とも観光客とも交流を楽しみつつ、ひみつの本屋や宿の202号室で、自分の時間を大事に過ごすこともできた。
また熱海に来たならば、次はどの物語から始めようかと。各部屋に眠る物語に期待を込めて、私は熱海を後にした。
「ホテル ロマンス座カド」を作った人たち
今回お世話になった「ホテル ロマンス座カド」を含むホテル、ゲストハウス、カフェなどをリノベーションしてまちづくりを活性化させた市來さんにインタビューをしています。
ぜひこちらもご覧いただけますと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。