同じ名前を持つ国マリで出会えた、人生をかけてやりたいこと~Chiwara店主 黒田茉莉さん~
アフリカの西部にあるマリという国をご存じでしょうか。
外務省の海外安全ホームページでは、最高レベルのレベル4(退避勧告)が国土のほとんどを覆っている国、マリ。
渡航自体がなかなかできない、謎の多い国マリに滞在し、現地の暮らしに5か月の間、触れてきた25歳の女性がいます。
黒田茉莉さん(以下、茉莉さん)は、自分と同じ名前を持つ国マリに興味を持ち、会社を辞めて、2023年12月30日に日本を飛び立ち、マリへ渡航しました。
そしてマリに滞在する中で、マリで作られるボゴランという泥染めに出会います。茉莉さんは、ボゴランを始めとするマリの魅力を伝えるために、ブランド「Chiwara」を立ち上げました。
茉莉さんを魅了したマリとはどんな国だったのか。マリで出会ったものや日本で伝えていきたいものは一体何なのか。茉莉さんに詳しくお話を伺いました。
人生をかけてやりたいものに会いに、アフリカへ
ーーマリに行くと決めたきっかけは、何だったのでしょうか。
大きく分けるときっかけは2つあります。1つ目が自分の名前が「まり」だからです。マリに行った1番シンプルな理由ですね。
そこに至った経緯として、マリという国の存在を知ったのは小学校の頃。
そのときは別に行きたいとは思わなくて、「同じ名前だ!」と思った程度でした。そもそも海外に行ったこともなかったので、行けるなんて思いもしませんでした。
そのまま大学生になって、2年生の終わりの時期に友達が春休みにルワンダに行くと話していたことがきっかけで、アフリカに渡航できることを初めて知りました。そこから、アフリカに行きたいと思い始めましたね。
そしてその時期が、もうすぐ就活が始まるというタイミングで。
そのときの私は、仕事として特にこれがやりたいということがありませんでした。
でも、アフリカに行った先輩たちの体験談を見ていた中で、アフリカで何かを感じて、自分で事業をやり始めたという話を読みました。
そこで、自分もアフリカに行ったら、何かやりたいことが生まれるのではないかと思って、行きたいと思うようになりました。
そのときは、「せっかくだったらマリに行きたいな」と思いながらも、とりあえずまずは友達と一緒にルワンダに行こうと、 プログラムに申し込みました。でもちょうど、コロナが来てしまって。
それが2020年3月で、ルワンダに行けなくなって、1度アフリカへの渡航を諦めました。
そのときは就活に活かそうと思っていたにもかかわらず、行けなかったことに絶望しましたね。
ーー予想もしていなかった渡航制限だったと思いますが、その後はどうされたのでしょうか。
はい、まさにこれからどうしようと思ったときに、たまたま国連フォーラムに出会いました。
そこで、ウガンダ・スタディ・プログラムという、1年間かけてウガンダについて事前学習して、仮説を立て、実際に渡航し検証して、最後報告をするという1年間のプログラムを発見しました。ここに入ったら、何か見えるかも知れない、そして様々なことを知りたいと思ったので、プログラムに参加しました。
ウガンダは、調べれば調べるほど面白く、ハマってしまって実際に行きたいと思うようになりました。でも、やはりコロナの影響で、そのプログラムの中での渡航は叶いませんでした。
アフリカに行きたくても行けないコロナ1年目を過ごしたその頃、友達が学生と経営者の交流会を開いてくれました。そこに何度か参加していた際に、アフリカに行きたいといろいろな方に伝えていたら、「今度ウガンダに行く方がいるから繋げようか」と言ってくれた人がいて。そのときにつないでもらった人とウガンダに行けることになったのが、初めてのアフリカでした。
ーー念願が叶いましたね。初めてのアフリカはどうでしたか。
約10日の滞在でしたが、非常に面白かったです。でも表面上のことしか、なかなか知ることができませんでした。
面白かったのですが、道端で野菜を売ってる人たちの暮らしや利益など、もっと彼らの暮らしを詳しく知りたいなと思ったのが、1回目の滞在でした。
そのあとどうしようかなと思っていたときが、大学4年生でした。実は、コロナの影響で講義もオンラインで卒論も書かなくていいという条件だったので、卒業までアフリカに行けると気づきました。なので、最後に4年生の11月から3月頭まで、アフリカに行きました。
最初はケニアのソーシャルビジネスの会社で1か月半インターンして、その後の半分はワークアウェイというサービスを使ってボランティアをしながら、ウガンダを旅して帰ってきたのがすごくいい経験になりました。
卒業後そのまま就職しましたが、何か自分の人生をかけてやりたいと思えるものを探したい、次はマリに行きたいという気持ちがありました。
これまでの滞在では、そこまでのものは見つかりませんでした。
良いところだなと思いながらも、まだきっともっとビビっとくる場所があると感じていて、それを探したいと思って終わった旅でした。
社会人で仕事にだいぶ慣れて、次のステップをどうしようと迷ったときに間に合うかなと考えつつも「マリに行きたい、行こう」と思い、この前まで行ってきました。
ーーインターンに参加していた際は、どういうことをされていましたか。
貧困農家の収入アップを目指している会社に、お世話になりました。農家さんと提携を組んで作物を買い取り、加工品を作ることで付加価値をつけて、首都で八百屋さんをやって販売していました。
富裕層や日本人に付加価値のあるものを販売して、その収入を正当な価格で取引するフェアトレードのようなものを、国内で外国人対象にやっていましたイメージです。
アフリカはどこも数少ない上の人が資産をたくさん持っていて、下の資産が少ないという傾向があるようです。そのため、ビジネスとしては上の人からお金を稼いで、貧しい人たちに還元するというビジネスモデルでプロジェクトを実行したり、農家さんの小さなコミュニティをつくることもしました。
農家さんのコミュニティづくりではリーダーを作り、みんなで少しずつお金を貯めました。その貯めた資金で例えば鶏を何匹か養鶏して、利益を得るというようなコミュニティづくりをしていました。
ーーさまざまなアフリカのビジネスを立ち上げるような企業やオーナーさんのもとで、しっかりプロジェクトに参加できたのは、大きな経験ですね。
はい、すごくいい経験でした。ハードではあったんですけど、普通のビジネスとは異なる社会課題解決をミッションとした、ソーシャルビジネスに憧れていた自分もいました。
ただ経験をしていく中で、社員を持つことは、その社員の人生を支え、受け持つことだと気づきました。
私がインターンで参加したタイミングは、資金繰りがうまくいってなかったタイミングで、社員から会社に少し不満がある状態で。
そのときに生ぬるいものじゃないなと、学びましたね。資金繰りは本当に大事で、ちゃんと考えないといけないと思ったときに、自分がやるんだったらこういう状況は生み出さないように、反面教師にしようと心に誓いました。自分の中で大事にしたい部分を感じ取れたと思います。
やりたいことが分からない人にこそ伝えたい、マリでの素敵な出会い
ーーマリに行って、ブランドを立ち上げようと思った経緯について、教えてください。
マリへは、何か自分の心が動く物事への出会いに期待して行きましたが、その中でボゴランという泥染めに出会いました。元々存在は知っていましたが、実際に見たことはありませんでした。
出会ってすぐにかわいさのあまり、「作り方教えて!」といろいろとボゴランについて教えてもらうことにしました。ボゴランについて知っていく中で、自分もボゴランに関わることを何かやりたいと思うようになりました。
あと、アーキダナという工房とかお土産屋さんのようなものがあって、マリの伝統的なものを売ってる場所があるのですが、そこが非常に寂れていて。
実は、2011年ころにマリでテロがあって、そこから観光客がマリに入れなくなった過去があります。
そのまま、自然と観光業が廃れてしまって、お土産屋さんもお客さんがほとんどいないようでした。もう、これまでどうやって生きてたのかなと思うぐらい。
その環境で、私は数少ない観光客だから、すごい高い値段でふっかけられました。
私は、古くなっていて、低クオリティーのものは、正直言って買えないなと思いました。でも私がここで納得するものを買って、それを日本で販売することでお金を作って帰ってきて、彼らからまた買うことができれば、少しでも助けになるとも気づきました。
これなら私もマリに行き来できるし、彼らも少しでも買ってもらえて、誰も損しないので、やってみたいと思いました。
そして、ただ売るんじゃなくて、ストーリーもお伝えしたいと考えています。何もやりたいことがなかった私が、夢を追いかけた先に何が見えたのかを伝えていきたいです。
日本では、やりたいことがないと言っている人や、やりたいけど行動に移せない方が多いと感じています。私も以前は同じように感じていましたが、行動を通して次のステップや夢が見えてきたので、 その経緯をお伝えすることで何かプラスの刺激になったらいいなと思っていて。
そこでお話し会をしつつ、販売しながら全国を周りたいなと思い、取り組んでいます。
ーー素敵ですね。マリさんにしか紡げないストーリーだなと思います。
ちなみにボゴランに出会ったとき、他にも伝統工芸品や、歴史あるものもあったと思いますが、どうしてボゴランに惹かれたのでしょうか。
悩ましいですが、かなり直感に近い気がします。元々アフリカが好きだったので、ボゴランの存在は知っていて、マリに対する親近感もあって。
ボゴランが好きというのも、前からあって、多分憧れていたんですよね。iphoneケースもボゴランに近いような柄にしたりとか。何かしら自分の中で惹かれている部分が、前からあったような気はしていますね。
ーーボゴランを知ってはいたけど、少しずつ好きが重なってきたイメージですね。
そうですね。でも実際にボゴランを見て、「うわー!やっぱり可愛い!」ともなったし、今も可愛いと思うし、大事で大好きです。それに、日本で取り扱っている方が少なかったので、ぜひ広めたいと思いました。
そういう自分の中で良いと思う要素が増えて、点が線になって、「よし、やろう」と思えました。
ーー実際に買い付けを行動に移すうえで、不安はありませんでしたか。
最初に買い付けるときは、やはり事前に自分のお金を払わないといけないので、勇気がかなり必要でした。
「ちゃんと売れるかな。売るんだったら、ちゃんとブランドやらないといけないし、その覚悟あるかな。」と思い悩み、なかなかちゃんと買い付けを始められませんでした。
でもやらなかったときにどう思うか考えたら、絶対モヤモヤするだろうと思いました。もうひらめいてしまったので、やらないといけないなと。
バイクの後ろに乗りながら、お金の計算をして、「やるしかない、やろう」と覚悟を決めました。そこからちゃんと買い付けを始めて、 やることも周りに伝え始めました。
ーー実際に立ち上げたブランドについてもお聞きします。マリさんのブランド「チワラ」の意味や、由来について教えてください。
「チワラ」はマリの宗教的存在で、農業の豊作を祈る神様です。いくつか説がありますが、多くの場合、カモシカがモチーフにされています。マリのシンボル的な存在でもありますね。
マリの1番の強みは農業で、豊作を願う神様イコール今後のマリの繁栄を願えるような神様かなと思い、そこから名前をもらいました。
ーー今開催されているお話し会では、どういうものを売っていますか。
クッションカバーやブックカバーのほか、ボゴラン単体もあります。
また、手軽に使えるシュシュやポーチも作っています。
ほかにもキーホルダーやピアスとか。
季節もので言うと、可愛いアフリカ布の浴衣に映えそうなうちわもあります。 そういったマリで買い付けてきたもの、オーダーメイドしたものを取り扱っています。
ーーボゴランの製法についても、教えてください。
はい。もちろんボゴランの制作にもストーリーや歴史があって、この柄1つ1つにも意味があるんです。実は、ボゴランは完成に至るまで約10回も染めています。
マリ産のコットンを手織りにした布を6回ほど草木染めして、黄色のような色にしてから、薄い茶色を塗ったり、他の色を塗ったりしています。今回出品するものも1つの品物に4色入っているから、全部で10回ぐらい染めてますね。しかも、ほとんど全部ナチュラルなものを使っているんです。布の素材もコットンですし、草木染めの草も身近に生えているものを使っています。
この茶色を出しているのは泥ですが、これはニジェール川というマリを流れる大きな川から取った泥を使っています。その泥を発酵させて、絵具のように刷毛で塗って乾かして作ります。
マリの自然の恵みをたくさん吸収したものなので、とても素敵だと感じました。
マリは、これからの可能性とやりたいがいっぱいある場所
ーーこれから日本をまわる予定の茉莉さんですが、今後の展望のようなものがあれば、教えてください。
まずは来てくれたお客さまの声を聞くことが、今の目の前の目標ですね。お客さまの反応を見て、10月頃にはまたマリまで次の買い付けに行きたいなと思ってます。
もう1個やりたいこととして、来年2025年開催予定の大阪万博のマリブースで働くことです。
あとは、他にもいろいろなビジネスができたらいいなと考えています。モリンガというスーパーフードがあって、マリでモリンガティーの会社を見つけたので、可能ならがっつり日本に輸入したいですね。農業従事者の女性の支援をしている会社で、今回も買い付けを少しだけしてきました。次にマリに行くときには、モリンガ農園にも足を運びたいと思います。
あとは、マリでは蜜ろうのもととなる蜂蜜の巣をたくさん破棄しているらしいので、それを活かしてプロダクトを作って売ることができたら、マリの雇用を生み出すことにもつながるという話があります。 今マリにいる日本人が、蜜ろうのプロジェクトに取り組み始めています。彼女がマリで頑張っているので、プロダクトが完成したら日本に持って帰ってきて、事業化の種まきをしたいと考えていますね。
他にも、マリ国内でもいろいろできることがありそうなので、とりあえずこれは行くべきだなと思っています。
ーーマリでやること、やりたいことも盛りだくさんですね。
マリは、本当にこれからの可能性がいっぱいある場所だと思います。
日本人が全然入ってないし、ブルーオーシャンだなと。
観光についても、2027、8年に60年に1回しかないドゴン族という民族のお祭りがあって。
それは日本人も行きたいという人が多いので、お祭りの時期に合わせてツアーができたらいいなと考えています。
マリは、歴史や文化もある国ですけど、フランス語とバンバラ語しかほとんど通じません。日本語はもちろん、英語が通じない国だからこそ、私が日本語でちゃんとお伝えすることができたらいいな、伝えたいなと思っています。
マリは、そのようないろんな可能性を考えられるような場所だと思います。
茉莉さんが立ち上げたブランド、Chiwaraの情報はこちら
ECサイトも現在鋭意作成中💻
<編集後記>
今回取材をしていて、自分の過去の話や挫折についても教えてくれた茉莉さん。でも、その逆境の中でも動き続けて、自分のやりたいことに真摯に向き合ってきたから、マリという魅力の溢れる場所に出会えたのかなと思いました。
そのエネルギッシュな様子は、取材中にも節々から感じられました。特にボゴランの話をされているときの、きらめく笑顔はとても印象的で、本当にボゴランが大好きなんだと伝わってきました。
今後もマリと日本の架け橋的存在となっていくであろう、茉莉さんの活躍に目が離せません。次の渡航もお気をつけて、楽しんできてください。