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アーチー・シェップ4 「ファイアー・ミュージック」 Fire Music Archie Shepp  


Tracklist
A1 Hambone 12:05   A2 Los Olvidados 8:36
B1 Malcolm, Malcolm, Semper Malcolm 4:40   B2Prelude To A Kiss 4:41   B3The Girl From Ipanema 8:18

Credits

  • Alto Saxophone – Marion Brown

  • Bass – Reggie Johnson (tracks: A1, A2, B2, B3)

  • Drums – Joe Chambers (tracks: A1, A2, B2, B3)

  • Tenor Saxophone – Archie Shepp

  • Trombone – Joseph Orange

  • Trumpet – Ted Curson

  • Engineer – Rudy Van Gelder

Recorded on February 16 & March 9, 1965.

インパルス期、アーチー・シェップは要所要所でスタイルの異なる名盤をものにしている、まずはこの"Fire Music"で、他は"Magic Of Juju"(67)と"Attica Blues"(72)。もちろん個人的なチョイスではあるが、大方の意見もそう違わないと思う。67年以降はフランスのBYGにも多くの作品を残しているわけだから、かなりのクリエイティビティーである。
A面の2作は前作に引き続き、アレンジと構成がきっちりした「ウェル・メイド」な4菅作品で楽曲の展開、リズムの展開がよくできている。前作はコルトレーンの楽曲のアレンジという形であったが、今回のこの2作はオリジナルで全体の構成感に優れている。妙な比較であるがジェリー・マリガンのコンサート・ジャズ・バンドあたりの構成感と類似し、音楽として充実している。
シェップはまだ20代でキャリア的には若手の範疇にあったわけであるから、大したものだ。
ただこのアルバムの名盤感を形作るのはB1の"Malcolm, Malcolm, Semper Malcolm"である。
シェップはもともと俳優志望で且つ詩人であるということをここで十二分に表現したと思う。なにしろ声が良い。かつ当時の黒人と社会の問題を真摯に考えているのだという姿勢が十全に表現されている。
マルコムXが暗殺されたのがこの年の2月21日。最初のレコーディング日の5日後ということになる。それを受けて3月9日に急遽録音したのがこのトラックなのであろう。このように時宜を得た作品は力を持つし、その時に事件を作品に取り込む力量が本人にあったことがなによりも大きい。

このアルバムのライナーはナット・ヘントフであるが、いつものようにシェップへのインタビューを織り交ぜている。一部引用以下。

「私はこの曲をマルコム・フォーエヴァーと呼んでいる。彼は不死だという信念からそう呼んでいる。彼は殺されたが彼の体現したものの重要性は、続き、成長するからだ。彼はアメリカの黒人が感じている敵意(hostility)にそれに見合う実際的な表現を与えた最初の人(cat)だった。私は黒人がそれを表に出し行動したいのだ(want to act it out)と言っているのではない、しかしそれ(敵意)は至極まっとうな理由でそこにあるのだ。マルコムがさらに重要なのは、彼が人生の最後に向かい、健全な政治的現実主義者に進化したことだ。」etc..

他にもリロイ・ジョーンズの「黒人アーティストの社会的責任を最も自覚している一人」という言を引用したり、シェップがコミュニティーでの活動を積極的に行っている様子を紹介したりで、この時代のジャズ・ミュージシャンの在り方を体現している存在としてシェップの位置づけを行っているが、それも作品の紹介の延長として納得の行く解説である。
このトラックだけメンバーが異なり、当時オーネット・コールマンのグループにいたディビッド・アイゼンソン(B)とNYコンテンポラリー5のメンバーであったJ・C・モーゼスとのトリオとなっている。2人とも良い仕事をしている。

このトラックはアーチー・シェップのアーティスト・イメージを決定づけることになり、シェップの音楽を理解する上で一つ重要な要素がここ現れたわけである。

B面の他の2曲はエリントンのカヴァー"Prelude To A Kiss"となんと「イパネマの娘」である。
前者に関して「...デュークはアメリカで最も美しいいくつかのバラッドを書いている。私はいつもそれに溺れているのだ。」との本人のコメント。

後者は「ブラジル人はマイナー7thコードの用法を本当に理解していて、クリシェ的モジュレーションにならない使い方をしている。」と感心し、演奏に際して「マイナー7thコードに入って行くためのタグ付けを行い、ソロはそれをベースにしている。」とのこと。個人的には"イル"な感覚のアプローチで、好んで聴いているトラックである。

このアルバムはもう30年以上前にとある中古盤屋で購入したのだが、そこの名物店主に「いい音楽に出会いましたね」と言われたのをよく覚えている。確かにそのとおりだ。


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