大統領選、棄権した1000万人
今回の大統領選はトランプの勝利に終わった。結果に関して様々な分析が行われているが、下のTBSnews23の情報を見ると、トランプが2020年に比して得票を伸ばしたわけではないことがわかる。上積みは160万票程度。それに比してハリスは1300万票2020年のバイデン票から減らしている。どうみてもこれが敗因である。
トランプ票はこの4年間活動したにも関わらずで160万しか増えていない。裁判や様々な悪評を考えると増えること自体が不思議ではあるのだが、十分に準備期間があった中であるから「160万しか増えていない」とした。要するに負けた時から「160万しか増えていない」のに勝ったのである。
共和党は岩盤支持層が基本にあり、その層の投票行動は変わらないと見るのが自然で、インテリ嫌いがどうした、LGBTQやESGがどうしたというのは、今回の選挙結果を動かしているとは考えにくい。全米の25%と言われる宗教右派の投票行動は常に決まっているわけで、共和党批判票として共和党が政権政党であった場合に棄権する可能性はあるが、前回がどちらかといえばそれに当たるわけで、何度も言うが、今回はそこから「160万しか増えていない」のに勝ったのである。
対してハリスは1300万減らした。
この票がどこに消えたのか?が焦点と思う。緑の党のジル・スタインか?と思うと彼女の得票は70万票弱で、2016年に彼女の票が150万程度だったことを考えるとかえって減らしてしまっていおり、問題の1300万の主な行き先ではないことがわかる。
この直近のAPの集計で見るとハリス票は7100万程度であるから、以下からは1000万票が失われた票とするが、いずれにしてもこの票はトランプやジル・スタインに行ったわけではないので、これは政権批判の棄権票と見るのが自然だ。
前回民主党に入れたが今回は民主党に入れない理由があり、だが、トランプにもジル・スタインにも入れない棄権票である。
今回に関しては失業率は十分低く、移民に職を奪われているという現実はない。賃金もインフレに十分ではないまでも上がっており、景気という面では政権政党に有利、と言われてはいた。
では原因は?インフレか?戦争か?ハリスの不人気か?
生活にインフレの影響を大きく受ける収入層で、前回バイデンに入れた民主党の支持者が「棄権する=消極的にでもトランプで良い」とするのはどうも不自然であり、少し考えれば普通はこの結論にいたらない。トランプの政策「中国に関税をかけてアメリカに仕事を取り戻す」はイコールでインフレ政策だ。それでもこの方針「アメリカに仕事を取り戻す」を支持することはあり得る。が、その場合は失業が問題になっている環境が必要な上、トランプに投票ということになり、棄権ではないだろう。
戦争はあり得る。ガザにしてもウクライナにしても、バイデン政権は全く無力に見える。批判はしながらもネタニヤフに殺戮兵器を供与し続けており、増額こそすれ止む気配はない。ウクライナも現状のままでは出口がみえない。このあたりはやり方はどうあれ共和党の方が出口を作る可能性があるとする見方もなくはない。今回ガザの戦争が原因でイスラム系がトランプ支持にまわったとするニュースがあった。普通ありえない事態である。その行動がネタニヤフの狙いと合致してしまう倒錯にもかかわらず、イスラム系がさすがにトランプに入れないまでも、感情的に棄権することは想像可能だ。ただ、数はどれくらいなものだろうか?
ハリスの不人気はあるが、前回バイデン支持の民主党支持者1000万人がその判断でトランプ勝利を黙認するのだろうか?カトリック系のヒスパニック票や黒人男性が女性大統領を忌避したなどのジェンダー絡みはあり得る。ただそこに関しては2016年にはヒラリーがトランプを得票数では上回っていたことも勘案する必要がある。
と、結論は持ちえないし、他にも様々な要因がありそうではあるが、トランプ票が増えたわけではないことは事実で、これは立憲が議席を増やした今回の衆院選と似た事態ではある。日本の場合まずは有権者が裏金他自民党の犯罪の解明を求めた結果とみるのが自然である旨を他の稿で書いた。アメリカの有権者、特に民主党支持で棄権した1000万人は何を求めたのか?
個人的にはイスラエルの暴虐を止められないどころかそれをサポートする民主党政権への批判票がこれだけあったのだ、と言ってしまいたいところではあるが、そうだとするとそのコアはジル・スタインに投票しそうである。
インフレは収束に向かいそうでソフトランディングも見えて来ている。失業率も低い。経済的な理由が前回に比し大きくなったとは考えにくい状況である。
ジェンダー・人種に関しては共和党の支持者が黒人の女性大統領を忌避するならわかるが、民主党の支持者でその傾向を持つものはどの程度だろう?
結局1000万人の棄権の理由をはかりかねる中、トランプの4年間が始まる。その上少なくともトリプル・レッドの2年が始まるのである。トランプが戦争2つを収拾!などと期待したいところだが、仮にそうなりトランプがヒーローにでもなったら後が怖い。なにしろこの後4年はAI革命の4年である。その時代の新たなヘゲモニーを握るのがトランプ一味…イーロン・マスクがAI革命の4年にトランプをフロントにした独裁権力を欲したのだとすると、さてどのような世界がこの後展開するのか?まずはAI関連の法整備がどのように進むのか、注目である。