スポーツ貧血
内科とスポーツ
スポーツトレーナーとして必要な知識と言われるとみなさんは何をイメージしますか?
・テーピング
・施術
・ACL損傷など整形的な知識
・脳震盪などの救急対応
など
怪我した人のケアや復帰までのトレーニングサポートなどをイメージする人は多いと思います。
しかし、それだけでは不十分です。
スポーツをしている人たちも内科的な問題で苦しんでいる人は意外にも多いのです。
貧血や喘息、オーバートレーニング症候群、無月経など、決して内科とスポーツは無関係ではありません。
スポーツ内科という診療科目やそれを専門に仕事をされているドクターもいます。
このあたりに対して、知識と対応方法を知っていることはスポーツの現場に出るものとして大切だと思うので少しずつこちらでお伝えしていけたらと思います。
今回は「息切れ」「スポーツ貧血」についてまとめたいと思います。
息切れ
まず、息切れはどのような時に起こるのでしょうか?
呼吸器や循環器の異常、赤血球の不足(貧血)によって起こると言われています。
その中で、息切れを訴えている選手で最初に疑うのは「貧血」です。
次いで多いのが「運動誘発性喘息」ですが、この場合は咳や痰など呼吸器症状が伴います。
中高年の人では循環器系の異常として「弁膜症」や「狭心症」なども考慮します。
このような可能性は頭に入れつつも、最も多い貧血(スポーツ貧血)についてさらに深めていきます。
スポーツ貧血
貧血とはヘモグロビン(Hb)や赤血球の減少している状態のことを言います。
その原因が、運動やスポーツによって生じているものを「スポーツ貧血」と呼びます。
陸上の長距離など持久系競技において高いです。
貧血の症状は、一般的な貧血もスポーツ貧血も基本的には同じで、息切れ、動悸、めまい、倦怠感、易疲労性、頭重感などがあります。
スポーツ貧血の場合は、上記のような典型的な症状の訴えはなくても「パフォーマンスの低下」や「記録の伸び悩み」を訴えて受診することもあるようです。
長距離選手などはパフォーマンスの低下を記録で客観視しやすいですが、サッカーやラグビーなどの競技では客観視が難しく、症状が目立たないことがあるので注意が必要です。
ちなみに私自身も高校生の頃にスポーツ貧血に苦しみました。
当時は今のように簡単にネットで調べることができなかったことに加え、自分自身で治すという気持ちを持てていなかったです。
しかし、原因を知ることで治したり、予防したりすることはできるので、私と同じように苦しむ人が減ってくれることを願っています。
スポーツ貧血の原因
スポーツ貧血の主な原因は「鉄欠乏」です。
鉄欠乏を起こしてしまう原因を整理すると、以下の5つに大きく分けられます。
このように鉄欠乏の原因はいくつかあり、これが原因と決定的なものがあると言うよりは複合的に絡み合って発症しているケースが多いです。
①〜⑤をもう少し詳しく解説していきます。
①鉄需要増加
成長期のアスリートは成長に伴い、ヘモグロビンや赤血球の合成が活発になるため、鉄やエネルギーが必要になります。
また、筋肉量の増加にもミオグロビンというタンパク質に鉄が必要です。
トレーニング自体の強度も上がるため、鉄需要が高くなります。
②鉄摂取不足・吸収低下
食事で鉄を摂取する量が少ない場合、鉄欠乏になるのは想像しやすいですね。
鉄吸収低下の原因は、食事のタイミングやストレスなどがある。
食後すぐに運動すると四肢の血流が優先されるため、内臓の血流が低下します。そのため腸管が一時的に虚血状態になり消化吸収を低下させます。
ストレスによっても胃腸の働きを低下させることがわかっているので場合によっては「心のケア」も必要になってきます。
③鉄喪失の増加
汗をかくだけでも鉄を喪失します。真夏の炎天下などでの練習が続くと鉄喪失の機会も多くなるので注意が必要です。
運動による消化管からの出血もあります。腸管同士がぶつかり粘膜から出血が起きたり、場合によっては血尿が出たりすることもある。
ただし、これらの出血の量は微量なので臨床的に問題になるケースはほとんどありません。あまりにも持続する場合は受診することをお勧めします。
また、女性は定期的な月経による出血は避けられない。
④溶血
溶血とは赤血球の膜が破れるなど、ヘモグロビンが血球外にでる現象のことを言います。
陸上やサッカー、バレーボールやバスケットボールなど、足底に繰り返し衝撃が加わりやすい競技では、ある程度の溶血は避けられません。
ただし、通常は臨床的に問題になることは少なく、溶血が起こっても鉄は体内を循環し、肝臓で貯蔵されて再利用されます。
⑤その他
利用可能エネルギーの不足など。
ヘモグロビンを合成するのにも鉄以外の栄養素も必要なので、その他の栄養素のバランスなども影響します。
ダイエット中の女性などに起こりやすい。
スポーツ貧血の治療
まずは利用可能エネルギー自体が不足していることのないように、バランスの良い食事を心がけます。
その上で鉄を多く含む食事を意識しましょう。
鉄には、レバーなどの肉など動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、ほうれん草など植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があります。
小腸での吸収率は、ヘム鉄で10〜25%、非ヘム鉄で約2〜5%だそうです。
植物性食品は吸収率が低いんですね、、、
しかし、ビタミンCを一緒に摂取すると、非ヘム鉄でも吸収率が3倍に上がるとの報告があるので、ビタミンCと合わせて摂取しましょう。
また、ヘモグロビンの生成にタンパク質も不可欠なため、鉄、ビタミンC、タンパク質をできるだけ毎食摂取ようにするのが理想です。
ついつい炭水化物ばかりに偏っているということのないように気をつけましょう。
また、進行したスポーツ貧血においては食事療法だけでは速やかな改善が難しく、鉄剤の内服が治療の第一選択になります。
目安としてフェリチン12ng /ml未満の症例は鉄剤の内服を選択しているようです。
少なくとも3ヶ月に1回は血液検査を行い、ヘモグロビンやフェリチンなどの結果を鉄剤の量を調整していきます。
鉄は過剰になると毒性もあるため、十分な注意が必要です。
過去には不適切な鉄剤注射問題などもありました。
現在では、鉄剤注射は毒性のエビデンスが蓄積され、第一選択になることは無くなってきたと思います。
ただし、鉄剤の内服で吐気や嘔吐を認めてしまうようなケースなど、状況によっては現在でも選択することはあるようです。
現在では、コンビニや薬局など、容易にサプリメントを自分で選択することができるようになったのでここにも注意が必要です。
どんな作用があるのか?
どんな副作用があるのか?
本当に自分に必要なのか?
過剰摂取のリスクをしっかりと理解し、できる限り血液検査などして医師の指示のもとサプリメントを使用していくことをお勧めします。
鉄過剰になると、心臓や肝臓、神経や関節などに鉄が沈着し障害を起こしたり、糖尿病の発症リスクを上げることなどが報告されています。
自分がどんな状態なのか知り、必要な栄養素を意識して摂取すること、そして必要があれば専門医に相談することがスポーツ貧血の治療において大切なことになります。
あなたの周りには、貧血や息切れの症状で悩んでいる方はいませんか?
内科的な知識も身につけて、関わるクライアントをトータル的にサポートできるようになりましょう。
お読みいただきありがとうございました。
謙虚・感謝・敬意
知行合一・凡事徹底
岩瀬 勝覚
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