ナミビアの砂漠
感想を言いたくなる映画だ。観る人に何かしらのダメージとうるおいの両方を与えてくれる。ダメージの凶器は刃物ではなく鈍器。その衝撃が観終わって一日経った今でも残ったままで、というかむしろウイルスのようにジワジワと広がって食欲が湧かない。ただ空腹だけど気分はいい。
主人公は美容脱毛サロンで働く21歳のカナ。だらしない美人で意地悪で嫌な女。ストレスフルな現代社会をいつも死んだ魚の目をしながら爆発一歩手前の状態で無気力に生きている。触ると危険だと頭では分かっていながらもこういう女性に惹かれる男性は少なくない。
同年代を生きる女性なら好き嫌いは別にしてカナの魅力を感じるだろうし、ものづくりに携わっている人なら自分もこんな作品を撮ってみたいと思う。
客観的に見ると、カナは嫌な奴だけど決しておかしくないし、へんな人でもない。無気力で嘘つきで破滅型だけど、生きづらい世の中でも生きていくバランス感覚をちゃんと持っている。後半はそのバランス感覚が壊れていってどんどん暴力性が増していく。最初はただただ痛々しく思えたハヤシとの取っ組み合いが、ルーティン化することでカナにとっての精神安定剤のようになっているように感じた。あんまりカナのことを理解している風に書いてしまうとホンダみたいになるのでこの辺でやめておく。
たいして興味はないが一応、ハヤシという男にも触れておきたい。釣った魚にエサをやらない典型的なクズな間男かと思いきや、それだけで終わらないのが面白かった。ハヤシの職業は現代における付き合ってはいけない男の代表格3Cの一角であるクリエイターだ。お互いを高め合える関係ってなんだ。何か問題が起きるともう無理だの殺すだのと息巻くが、彼の育ちの良さのためかDV男に成り下がるのは何とか踏みとどまっている。そうして急に冷静になって一人にさせてくれと距離を置く。こういう男は世の中に五万といる。あと上手い例え言葉は愛を伝えるときにはロマンチックだけど、謝罪の場面においてこれほどまでに鬱陶しく思えるのかと大変勉強になった。
この映画をZ世代のポートレートだとは決して思わない。そもそもMBTI診断然り、そうやってなんでもかんでも型にハメようとする風潮が気に食わない。ただ若い人にはぜひ観て欲しい。カナのことが嫌いになるのか好きになるのかそれぞれ人によって違うだろうけど、その人の心に確実に何かは残ると思う。映画なんか見て何になんだよと普段から思っている人は別だけど。
かくゆう自分も最近まで映画を観てもどこか既視感があったり年々、感受性が干からびていっているような感覚があって、映画館からめっきり足が遠のいていたけど、この作品を観て久々に心のうるおいが戻ってきた気がする。ナミビアの砂漠おすすめです。あと脱毛の際は医療用脱毛に行きましょう。