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【雑感】2024/9/21 J1-第31節 浦和vsFC東京

スコルジャさんは埼玉スタジアムの雰囲気に対して度々「マジカルスタジアム」という表現を使います。このピッチ内外にいる人たちそれぞれがお互いに情熱を焚きつけ合うような雰囲気は、ピッチ外にいる人たちがどれくらいの解像度で試合を観ているかに関わらず、この人のところからチャンスが作れそうだ、この人にゴールが期待できそうだ、というなんとなくの共通理解が広がって、ピッチ内の選手たちもそこへ向かえている時に生まれているのだろうと思います。誰かが魔法を使っている訳では無く、そこにいる人たちの少しずつの情熱の積み重ねの結果が大きなうねりになっている訳です。

残念ながらこの試合ではそうした雰囲気は生まれませんでした。なんとか情熱を表現しようとしても相手ゴール近くで膠着してしまった時に「どうする!?どうする!?」(15時からの浦和ユースvs矢板中央の試合を観ていた人には伝わりますかね?)となってしまうと、テンションの釣り合いが取れずに煮え切らない感覚のまま時間が過ぎて行ってしまいます。

シーズン残り8.5試合という状況で「どうする!?」が多発してしまうのはとても残念なのですが、シーズン途中に現実的な志向が出発点にある監督に代え、その監督が自ら「最初は、あまり美しいゲームは見せられないかもしれませんが、チームが勝つための方向性は、しっかりと見せながらやっていきたいと思います」と言っていることからも、そういう部分は許容しつつ勝利を掴むという考え方をしていく方が良いのだろうと思います。そのようなチーム事情からして試合が始まって20分の間に自分たちのミスで2点もビハインドになる状況を作ってしまったのはとても厳しかったですね。


ただ、試合の入りからの数分間は高い位置でのネガトラに成功して前のめりな姿勢を示せたと思いますし、プレッシングの局面でのG大阪戦とは違って関根、大久保が積極的に縦スライドしていく前向きなアクションが増えていました。FC東京のビルドアップの形に上手くはめられていたかというとそうでは無かったですし、そういう状態で前に出て行く分だけ中盤でエラーが起きる回数も増えていたものの、エラーが起きた後にどうリカバリーするかというところ(撤退時に戻る所定の位置の共有と実行)はきちんと行えていたので、良くない中盤の越えられ方をしてもハイライト映像で使われるような決定的な場面には至らなかったと思います。

少なからず現場からのコメントからは早くも来シーズンに向けての準備も含めた色合いが出てきている中で、撤退だけで残り試合をやり過ごす訳にはいかないので、多少のエラーはあったとしても前に出ていく意識付けもしているのだろうという捉え方をしています。

まずその部分から見て行くと、FC東京のビルドアップはCB2枚が大きく開いて、SBとCHがその1列前で4枚並ぶような形がベースだったように見えました。さらにCHがボールサイドに2枚とも寄る傾向があって、それによって浦和からすると2トップの片方が横から追ってもそこから前方向に3つ選択肢を持たれる可能性があって、それを全て潰しきるのはマンツーマンではない浦和の志向からすると難しいです。

この形からFC東京が前進したのが1点目に繋がる場面でした。8'03~のビルドアップは、その前の流れもありますが、左CHの高が2トップの間、右CHの東と右SBの小泉が関根を挟むような右偏重の状態になっています。木本がオープンな状態でボールを受けたそのままの位置からでしたし、関根も木本に引き付けられているどころか小泉の方へ体を向けた状態からの対応でしたが、パススピードが速かったので木本のパス1発で関根を越えた位置にいる小泉にボールが入りました。ビルドアップ隊だけでなく前線の選手も逆サイドの俵積田以外の3人は右サイドに集結していて、両チームが密集した状態から東が逆サイドで空いている俵積田へボールを飛ばしています。

それでも、逆サイドに振ってはいるものの、FC東京の選手が右サイドから中央への移動が完了するのを待たずに俵積田からアバウトにクロスが入ってきたので、前進されたけど浦和の選手たちはちゃんとゴール前で待ち構えられてるもんねと思ったのですが。。

19'00~の場面はFC東京の左からの前進ですが、ここではSBの岡が俵積田を超えるくらいまで出て行っていて、2CHはボールサイドに偏ったポジション、そして前線もディエゴオリベイラとこの場面では荒木とポジションが入れ替わっていた仲川が中央から左に寄っている状態でチーム全体としてボールサイドに人を集めている状態でした。森重は手前ではなく奥を取った岡までボールを入れて、そのこぼれ球をディエゴオリベイラ、仲川で拾って逆サイドへ展開しています。

そこに対して浦和がプレッシングをかけて意図的にボールを取り上げられたのがその次の19'55~のビルドアップの場面でした。この場面では大久保が距離はあったものの森重まで縦スライドして前を向かせず、逆サイドの関根もリサイクル先になる木本に対して早めに矢印を出しています。GKの野澤は関根を飛ばして小泉へボールを出しますがこれが大きくなったのと、大畑も関根の矢印に連動するように前向きにアクションを起こしていたのでボールを拾うことが出来ています。

ただ、この縦スライドのアクションが奏功した場面はあまり無くて、FC東京のボールサイドへの密集による近距離でのコンビネーションからの前進は何度かありました。それでも先述したようにFC東京がボール前進のために外側に人数を集めていて、そこから逆サイドへ展開してスピードアップしてもゴール前に人数が間に合っていないという状況が多かったので決定的な場面までは行きづらかったのかなと思います。


浦和のビルドアップはSBも手前に関わりつつ安居とグスタフソンが横並びになるような4-2の形が多かったです。FC東京との違いはSBが相手よりも手前にいることが多かったことと、2CHは基本的に中央付近をベースにしていてボールサイドへの偏りはあまり無かったということかなと思います。それに対してFC東京はFW、MFの6枚が誰を最初に担当するのかがはっきりしやすいので、特に中盤4枚を浦和のSBとCHへ当てに行くというイメージだったと思います。これは浦和からすると前節のG大阪戦と似たような光景でしたかね。

それでも、最初にゾーン3へ自分たちで前進できた4'30~のビルドアップでは、バックパスからビルドアップが開始したということもあって、石原がかなり手前にいる状態でスタートしています。俵積田が石原や井上の方へ石宇を向けていたことで大久保がその背後にポジションを取れていて、そこでボールを受けたところから中方向へドリブルをしたことが効果的でした。さらに、大久保が中に向かって運んでいる時に高が体の向きを中へ向け直していて、その瞬間に渡邊がその逆を取ったポジションへ入ってパスを受けることが出来ています。

ただ、ビルドアップで安居とグスタフソンがどちらも中央にいる状態で、大久保を起点にボールが前進していたので相手ゴール近くにいるのは関根、リンセン、渡邊の3人だけで、ゴールに向かうのであればペナ幅よりは開けずにそのまま進むしかない状況でした。FC東京側も戻れる選手は一旦ゴールの幅の中に撤退して、中から外向きに対応できる状態を作れていたので決定的な場面にはなりませんでした。

10'50~のビルドアップはグスタフソンが一旦CBの間に下りたところからスタートしていますが、ハーフラインを越えたあたりでグスタフソンが中央でオープンにボールを持てた時に逆サイドの大久保まで展開し、大久保がまたしても横方向にドリブルで運んでいます。大久保の内側を石原、渡邊が連続して縦方向へ動いたことでFC東京のSH(この場面ではポジションが入れ替わっていたディエゴオリベイラ)とCHの東を中央からどけることが出来ていて、それによって大久保が中に入って行くコースが空いたとも言えます。

ただ、この展開の中で逆サイドの関根がどんどん中に絞ってきていて、大久保からボールを受けてもFC東京の4バックで管理できる範囲の中に収まってしまうこともあって難しい局面にしてしまったかなと思います。ヘグモさん退任以降顕著ですが、関根が左SHの位置から内側に絞ることが多くなっています。その分大畑が早めに高い位置を取ってWG化しているのであれば関根がIH役として振舞うことは問題ないですが、ビルドアップで大畑を手前で使っている上で関根が内側に絞ると高い位置で外側にいる選手がいないので、ゴール前に突っ掛けた時に相手の目線の中でしかプレーが展開されなくなり、左右に振ってズレを作るという工程が出来なくなりがちだったのは気になりました。

また、23'20~のビルドアップでは石原からボールを引き取ったグスタフソンと安居の距離が近く、FC東京は浦和の2CHに東と高をそのまま当てに行くような傾向があったこともあってグスタフソンの周りが狭くなってしまいました。ここで半ば無理やりに渡邊へパスを出していますがボールを失ってしまっています。

グスタフソンの周りにスペースがあれば、34'20~の高が浦和のペナルティエリア内で寝ていたことでFC東京のCHが1人いなくなったスペースへグイグイ運んで行った場面(ファウルでとめられてしまいましたが)のように、パスを散らすだけではなく自分で持ち上がっていくことも出来るグスタフソンの長所を出しやすくなるので、そういう可能性を自分たちから埋めてしまっているのは勿体ないなと思います。

また、手前に人数をかける分、背後への怖さが無くなって相手が前向きに出てきやすくなるというのは多くのチームで見られることですし、浦和で言えばリカルドが監督の時に神戸や広島にボコボコにされたアウェーゲームはそんな感じでしたよね。東も高も自分の脇や背後を取られて「やべっ!」と感じる場面はほとんど無かったのではないでしょうか。

前半の両チームの保持の印象で言うと、FC東京がボールサイド(レーン単位)に人数をかけていることでゴール前に迫力が出なかったとするならば、浦和はボールの高さ(ゾーン単位)に人数をかけていることでゴール前に迫力が出にくかったのかなと思います。


浦和は24分にリンセンがハムストリングのあたりを押さえて倒れ込んでしまいチアゴと交代、さらにハーフタイムには石原がおそらくここのところ悩まされ続けている腰痛の影響もあったと思いますが松尾と交代しています。

後半からは関根が右SB、松尾が左SHでスタートしました。関根が内側に絞ることが多かったので、松尾は外に張った状態からスタートすることが多いので、勿論広いスペースがある時にスピード勝負を仕掛けるという点もあったと思いますが、ゾーン3でもう少し左右の幅を使いながらゴールに向かって行けないかという思惑があったのではないかと思います。

ただ、後半の最初の方はFC東京が前半と同様にボールサイドに人数を集めて打開しようとする場面の方が多かった印象です。前半以上に浦和は大久保が森重まで出て行く意識が強くなったように見えました。ただ、それなら森重は無理に繋がずそのまま縦方向に浮き球を入れて、どちらの選手が最初に触るかに関わらずボールサイドに密集しているのでセカンドボールを拾えてそこを足掛かりにするということが出来ていました。

48'00~は森重が飛ばしたボールを井上が跳ね返しますが東が拾っており、そこから逆サイドの仲川まで展開しています。続く48'55~は森重が今度は下から外に開いた俵積田へ飛ばして同サイドの密集から裏のスペースを狙いました。浦和の方もこういう時に外レーンに相手をそのまま閉じ込めるような追い方がしきれずに内側に回られてしまうことがあるのはこれからなんとかしてもらいたいところですが。

そんな中での浦和のチャンスはまたしても大久保のドリブルからで、48'55~の流れの後に西川からのフィードを受けた大久保が右サイドのハーフライン付近からゴール方向に向かってドリブルで運んで行きました。ただ、シュートコースを塞がれている中で強引にシュートを打ってボールがこぼれ、そこからカウンターを食らうというなかなかに厳しい展開。相手の状況は違いますが、自身が上手く相手を引き付けながら運べていたので渡邊やチアゴを上手く活用できると良かったなと思います。


浦和のビルドアップの大枠が前半からあまり変わらず、4バック+2CHで手前が埋まっていることでグスタフソンの周りが空きにくいですし、SBも中方向へドリブルするようなスペースが作れず詰まりがちな状態でした。61分にグスタフソンと大久保を下げて原口と長沼が入りましたが、このネガティブな傾向はさらに強まってしまったように思います。

この交代の時点では原口がトップ下で渡邊をCHに下ろしていますが、安居がアンカーの位置からCBの間に落ちる回数が増えると安居がいなくなった一に原口が下りてきてボールを捌こうとするようになります。グスタフソンを下げた理由が前半にディエゴオリベイラに後ろから削られた影響なのか、そうではないのかは分からないので狙いは分かりませんが、安居を6番、渡邊と原口を8番としてプレーさせて手前の人数過多を解消できないかということなのかなと想像します。

ただ、68'30~の松尾が左サイドでオープンに持って中方向へドリブルできそうなところで原口が寄って来てそのスペースを埋めてしまっていたり、69'10~のビルドアップで井上がオープンにボールを運んでいて安居も手前で余っている状態ながら原口がヘソの位置に留まっていたことで井上から渡邊へボールが入ってもそこからスピードアップしていきそうな展開に関われていませんでした。コンディションがまだまだ上がり切っていないとか、周りの選手とのプレーイメージや前提の共有がまだ足りていないとか、彼にどのように頑張ってもらうかという以前にそもそもチームとしてそれぞれのポジションの選手がどう頑張るのかの整理が追いついていないとか、いろいろ事情はあるので仕方ないことではあるのですが。

途中で原口、渡邊、松尾のポジションや関根と長沼の前後を入れ替えたり、最終的には小泉を右SHに入れたりしたものの、大久保とグスタフソンが下がってからはドリブルでの相手の注意と目線の固定やズレが生まれにくくなりました。63'55~の関根がドリブルで一旦縦に運んでプレーエリアを押し上げてから、そのまま自分で横方向に運んで相手を引き付けて安居のミドルシュートをお膳立てした場面はありましたが、大半の時間でのボールの動かし方がパス&ゴーばかりに偏ってしまい、ゴーの有無、ゴーがあったとしてもそれが果たして有効なのか、というところでFC東京にとっては脅威になれないままタイムアップになってしまいました。

僕らは今季ソルバッケンというJリーグの中では別格のWGプレーヤーを間近で見ることで相手を剥がして突破できないとしても、横向きにボールを運んでいくことで相手の注意と目線を引き付けつつ、味方のリポジショニングの時間を作るプレーの効果を感じてきました。そして、今のチームでは大久保がこうした横方向のドリブルも行えるようになっていて、この試合の中でも何度か取り上げていますが、彼のドリブルでチャンスを作ることが出来ています。その選手を下げたのは別のところに狙いがあったのだろうと思いますが、結果的には自分たちがチャンスを作れる可能性を自分たちから減らしてしまったのかなという印象です。


人間がプレーするのでミスは起きるし、ディスコミュニケーションも起こります。大事なことはそれらが起こることを未然に防ぐためにどのような準備が出来るかです。僕は大して強くもない公立高校かつ、サッカーではなく野球をやっていた分際ではありますが、部活の中で口酸っぱく言われ続けたのは「段取り八分」という言葉でした。また、これも野球の文脈ではありますが野村克也さんが特にヤクルト時代に口酸っぱく選手たちに求めていたと言われているのは「計画、実行、確認」という3原則でした。

どちらも共通しているのは事前に準備として計画し、確認しておくことです。言わなくても分かると思っていても、そこですれ違いが起きてからでは遅いです。試合前に、プレーの間に、そのプレーが起きる寸前に、一声かけ合うことで防げなかったのか。事が起きた後にあれこれいってもそのミスは取り戻せないのですから。。

少なからず僕は「まあこれくらいやったんだから大丈夫だろう」とか「これ以上言うとくどいから今回は確認しなくても平気だろ」といった、考慮不足、自分の決めつけが、後々痛い目を見たことが何度もあります。痛い目を見ても同じようにまた慢心してしまうし、決めつけをしてしまいます。その度に次はこうならないようにしないとな、と思うのですが自分の中で意識をするだけではいつかその気持ちは薄くなってまた同じようなことをしてしまったりもします。

そうならないために組織の中でそういった確認、声掛けを習慣化、文化にしていけるかが大切になります。自分1人だと緩んでしまうかもしれないけど、お互いに支え合うことで締め続けることが出来るチームが強いわけで、職場でも感じることをこうして仕事ではない時にも思って書き出すことは少し憂鬱さもありますが、そういうところがフットボール(というよりはスポーツ全般)が社会の縮図として言われる所以でもあると思います。


さあ、この敗戦から何が学べるでしょうか。冒頭にも書いたように「マジカルスタジアム」は魔法ではなくそこにいる人たちの情熱の集積によって作られます。ピッチ内の課題も一振りの魔法ではなく、出来ることの成功回数を増やしていく、出来ることの数を増やしていく、失敗する可能性を潰していく、そうした小さいことの積み重ねです。

僕もこの試合に向けてはスコルジャさんの采配力が、原口元気の物語が魔法のように勝利をもたらしてくれるのではないかと期待していたところはあったかもしれません。でも、相手だって勝ちたくて向かって来るのでそんな都合良く勝てるなんてことは無いですよね。(今回のFC東京からすると都合よく勝ててしまった!という感覚かもしれませんが)

次節はまた難しいアウェーゲームですが、小さなことからコツコツと、愚直に勝利を掴むようなプレーが出来ることを期待したいです。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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