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【雑感】2024/9/28 J1-第32節 神戸vs浦和

いきなりですが52'45~のビルドアップを見て行きます。おそらくこの試合唯一と言って良い、浦和が下から繋いで前進して神戸のゴール前まで迫れたシーンです。神戸の非保持のベースは左IHの井出を前に出して大迫と並べる4-4-2の形で、浦和は非保持の4-4-2とあまり配置を変えずに保持も行うため噛み合わせが良い状態になります。

ただ、この場面は大畑→ホイブラーテン→井上と渡っていく中でホイブラーテンには大迫が出て行っていますが、井出の両脇に原口と安居がいたことや、リサイクル対応ということもあってか、井上には左WGの宮代が出て行っています。そして、宮代が前に出て行ったことで空いた関根にはCHの扇原が大きくスライドして対応しています。

この時にCHの原口とトップ下から小泉がサポートに寄って来ていて、関根→小泉→原口の連携で3人目になる原口が前向きな状態になって局面を脱出しました。さらに後半から左SHに入っていた渡邊が中央まで絞ってきていたので、原口→渡邊→小泉とここでも連携で3人目になる小泉が前を向いています。そして、そこからの流れでゴール前に入って行くチアゴへボールが渡りシュートを打ちますが前川にセーブされました。

ビルドアップでも、中盤でも、ゴール前でもお互いが近い距離でサポートすることでシュートまで行けたという場面なのですが、この場面以外は前半からお互いが近い距離でサポートしようとするからこそビルドアップで詰まってしまう局面が多かった印象です。

神戸のプレッシングの流れがこのシーンとほぼ同じだったのが直前の50'57~で、大畑→ホイブラーテン→井上とボールが動いていく中でホイブラーテンへ大迫、井上にはWGの宮代が出てきています。関根に出て行くのがSBの初瀬だったという違いはありますが、関根に対して浦和の選手が2人(原口と大久保)が近寄ってきています。この場面では関根がドリブルで初瀬を外そうとしますが、浦和の選手も神戸の選手も近接している状況で、1回ボールタッチが大きくなったことが影響してボールを失っています。

52'45~は大久保が下りずに残って初瀬を留めたことで扇原が関根に出ることになった、大久保が下りない代わりに小泉が下りてサポートした、と見れば、直前のシーンでの反省点を活かすことが出来たという見方も出来ます。また、前半からビルドアップで詰まってしまうことの原因を近接した状態の中で上手く味方を使おうとするアイディアが出なかったという点に置いて、その部分の解決力に長所がある小泉を入れることで対処したという見方も出来ます。


止める、蹴るがきちんと出来れば相手がどんなに寄せてきて小さいスペースになってもボールは取られないから、といった内容の話を風間八宏さんがしているのを南葛SCの動画で見ましたが、正にそういうことを狙っていたのかなと思います。物理的には相手に詰められているのでプレーするためのスペースが小さくなったとしても、ボールコントロールの技術によってそのくらいの狭さでもスペースがあるように感じられるという発想ですね。

一方で、今季ヘグモさんの体制で目指してきたものというのは、そもそも相手に寄せられないようにお互いのポジションを取っておくことでプレーするためのスペースを出来るだけ広くしようとする、それによって多少のボールコントロールのミスがあったとしてもリカバリーが効くような状態にするという要素があったと思います。

狭い局面で出来るだけミスせずにボールを扱って奪われないようにしようという考え方と、そもそも狭くなると技術面の要求レベルが上がるしプレーの選択肢も少なくなって難易度が高くなるからそういう状況にならないようにしようという考え方は階層が違うので両立して良いのではないかと思います。

試合の序盤はリスク回避という意味合いもあって手前で繋がずにロングボールを入れることが多かったのでその時間帯についてはノーコンテストだと思いますが、16分に失点した後から試合が終わるまでは、前者の状態で縛りプレーを続けているような印象を持ちましたし、今季の始動から8か月間やってきたことの延長線上で残りの試合を観るという考え方は持たない方が良いなと思いました。元々そんな考え方は持つべきではなくて、僕がそこに執着していただけなのかもしれません。ただ、少なからず僕はそうした視点も持ってこの試合を観ていたので、保持の内容については虚無感と言うか、腹立たしさすら感じない呆然とした感覚でした。


前半からビルドアップでは原口、安居の2CHを中央に置きつつ、どちらかと言うと原口の方がアンカー役というか、最後尾に落ちてボールをピックアップするような場面が多くありました。ただ、このアクションをする際に「誰に前向きな状態でボールを持たせたいのか」あるいは「相手のどこを困らせたいのか」というのが上手く設定、あるいは共有、実践できていなかったなと思います。

原口がアンカー的に振舞ったビルドアップのシーンとして23'00~の場面を切り取ってみます。左サイドから最後尾にボールが下がってきた流れでオープンな井上がポジションを取るために移動中の関根へ早々にボールを渡してしまったところから始まるのですが、西川も含めて最後尾でボールを動かす際に、原口が大迫と井出の間に立っています。

西川から井上にボールが出たところで井出が井上に向かって矢印を出していますが、この時に井出の矢印を利用する選手がおらず、井上は井出のプレッシングをもろに受けてボールを前に蹴り出すことになりました。個人的に井出が井上に向かっていった時に原口が井出と宮代のゲート奥になるエリアに向かって動くと宮代の両脇に原口と関根がいる状態になります。これによって局所的に3v2の構図を作れるので井上に前に蹴り出す以外の選択肢を作れたのではないかと思いました。

ただ、こうしたプレーは相手を見ていれば出来るというだけでなく、その上で適切な場所へ素早く動いてポジションを取るという動きが求められます。例えば、グスタフソンはボールを持った時にはいつも脱力してプレーしているのでプレースピードについてはそこまで感じにくいかもしれませんが、プレーに関わるための適切な場所への移動ではスプリントしていますし、自分からボールが離れた後も相手の矢印の向け方に応じて必要であれば再びスプリントしてプレーに関与し続けようとしています。

今季の予習で観たヘッケンでの試合でもそうでしたし、この試合では安居や中島がビルドアップの関与するのでグスタフソン自身は前目にポジションを取ろうとする場面が何度もありましたが、そうした状況でも継続してやっている良い部分で、だからこそ彼がいるかどうかでビルドアップの質が変わるという面もあります。

しかし、これを他の選手も、ましてやアンカーとしての経験は決して多くない原口がすぐに出来るようになるのかというと難しい気もします。そう考えた時に、原口と安居の2CHで原口をアンカー役にして手前から繋ぐことを試みるというプラン自体にどれだけの可能性を見ていたのだろうというのは疑問に思います。指導者が美しくはプレーできないという割り切り、前置きをして、選手たちもそれを承知しているのなら、原口と安居はもっと前向きな状態で相手に向かって行ける、相手との肉弾戦を挑んで行けるような局面を用意してあげた方が良かったのではないかと思いました。

それは、ビルドアップでも手前にあまり人数をかけず、相手が寄せてきたら前に蹴飛ばして良いし、相手が来ないならしっかり狙いを定めた上で蹴飛ばしてはどうか、そこで高い位置でネガトラを起こして、バチバチ闘って、ボールを奪い返せることが出来ればというイメージです。さらに、ピッチコンディションは試合が始まってすぐの時点から怪しかったので、今チームとして出来ることも含めてリスクが大きかったような気もします。


メンバー選考からして、神戸の特徴も踏まえて町田戦と似たようなイメージというか、出来るだけロースコアで終盤まで持って行って、そこからグスタフソン、小泉、中島の投入で攻勢に出て行くというゲームプランは想像できます。危うく前節と同様に2点ビハインドになりかけましたが、概ねそのシナリオには乗っかっていたと思いますし、非保持では4-4-2で構えたところからSHの前向きなアクション、そこに対するSBやCHのカバーリングという流れが上手く表現できた場面が何度もありました。

神戸の保持は4-1-2-3をベースにするというのはありつつ、多かった形としては初瀬が最後尾に残っての3-1でしたが、扇原が落ちたり、井出が落ちたりすることもあって、そのあたりははっきりこれという決め事があるのではなく、ベースの形から先は選手たちが自分たちで状況を見てポジションを調整して行くという流れだったと思います。ベースの形があるからこそ、自分がどの相手を見ておけば良いのかという整理がしやすく、整理がしやすいことでアクションも早くなるという好循環が彼らのプレーのスピード感に繋がっている印象です。

下りる動きは扇原や井出には見られましたが、それ以外は基本的に前方でスタンバイしていて、特にWGは両サイドとも高い位置で外に張っていることが多かったです。先述したボール保持の考え方で言えば、神戸は「そもそも狭くなると技術面の要求レベルが上がるしプレーの選択肢も少なくなって難易度が高くなるからそういう状況にならないようにしよう」というスタンスだったように見えます。

この2点を見ると浦和でヘグモさんがやろうとしていたことと考え方の出発点は近いような気がします。というよりは、フットボールのルールという普遍的な条件からどうプレーを考えていくかという見方をした時に自然な流れだと僕は思います。ただ、神戸には大迫や武藤のようにボールを自分でキープできる選手が前にいるので、後ろの選手が時間を作ってそれを前線の選手へ繋いでいくということをしなくても済むというのが彼らの強みですし、だからこそダイレクト志向が強くなるというのはあると思います。

それでも、先制点のコーナーキック獲得につながるサイドでのプレーはむやみにゴール前にクロスを入れ続けるというものでは無く、外レーンの高い所にポジションを取った選手が相手のSBを引っ張り出して、ハーフレーンの奥をIHが飛び出してえぐるという一般的な形です。こうしたフットボールにおける普遍的なプレーというかセオリー通りのことを当たり前にやれるという点で、町田のように約束事を限定して判断する時間と精度というコストをカットするというものとは違うと思います。各選手がどんなスタイルのフットボールであってもやるべきこと(これを僕は個人戦術として捉えています)をある程度の解像度で把握できているのだろうとという部分は、彼らが数年かけて成長させているようにも思います。

勿論、この場面は浦和の方も安居がきちんと斜めに下りて大畑の内側をケアしていることで決定的な場面にならないための対処が出来ています。CBをなるべくゴール前から動かさないというのはスコルジャさんが求めるゾーン1での守備のスタンスでこれがきちんと表現できた場面でした。G大阪戦からそうですが、こうしたプレーを当たり前にやることが出来れば失点はしにくくなるので、これを継続してやることが出来ればどこかで1点取れれば、、という試合に持ち込みやすくなっていくだろうと思います。

また、プレッシングの場面では24'30~のように両SHが2トップの脇から前を覗く意識が前節のFC東京戦から継続しており、この場面では長沼が手前にポジションを取った酒井へ向かおうとしたことで山川からトゥーレルへのパスを誘発し、トゥーレルに向かって大久保が外側から寄せることで前を向かせずにボールを捨てさせることに成功しています。残念ながら、ここでボールを拾った後のボール保持が手前で詰まってしまい、そこから押し込まれてコーナーキック、関根のハンドによるPK献上という流れになってしまうのですが。

SHの縦スライドに対して神戸はIHがその背中に流れていくアクションが何度かあって、48'10~も大久保が前に出た背中に井出が流れていますが、原口がそこについて行って対処しています。原口は井出が手前に下りて行った時もそこについて行っていたので、大久保の背中のケアというよりは井出をマークするという意識でそこに行ったのかもしれません。ただ、マークする時に相手を自分よりもゴールから遠い方へ置いた上で鋭く寄せているので簡単に中を向かせないような対応が出来ており、この辺りは彼がドイツに行っている間に培ってきた部分なのかなと思います。

ゾーンディフェンスの考え方からするとアクションの基準の置き方は合っていないかもしれませんが、結果としてそこで瓦解しなければ良いという見方も出来ます。それはスコルジャさんが非保持でも選手に与えるタスクが違うことを話していたところからも、ゾーンディフェンスとしての考え方と原口のそうした良い部分とをうまく折衷させようとしているのかなと思います。そう考えた時に、多少保持で不器用な場面があったとしても非保持でハードに闘えるという点で昨年岩尾が大きな信頼を得ていたことと今の原口が重なるような気がします。


今季残り試合の目標としていたトップ3(ACL圏内)というのはこの連敗で遠くかすんでしまいました。まだ数字的に残留が確定していないので、少なからずそこまでは美しくない試合が続くのだろうと思います。それは、チームとしての成熟ということ以上にどのように相手の対策をしてゲームプランを立てるかということであり、どこに焦点を置いて試合を観ていくのかが試合ごとに変わる可能性が高いということです。6月にゴール裏から出された「ブレずに」という横断幕とは全く違うスタンスで挑んでいくことになるので、その覚悟はきちんとしておいた方が良いなと思いました。

ただ、ゲームプランがこの試合のように出来るだけロースコアで進めて最後に何とか仕留めるというものになった場合に、失点しないから負けにくいけど、得点できないから勝ちにくい、そのスタンスだけではリーグ戦で優勝するには物足りないから得点を増やしたいよねという文脈で2024シーズンが始まったということは忘れてはいけません。

今年のチームにホセカンテはいません。最後に何とか仕留めるとしても、それを個人の力だけに頼れない状況です。先日大久保が話していたように「そういうことが出来る選手であれば日本からいなくなっているだろう」というのが残念ながら現実の話で、だからこそチーム全体で上手くゴールに向かっていけるようになる必要があります。そこを今回のスコルジャ体制で作っていけるのか、選手たちが本気でそこに向かっていけるのか、その点は注視していかないといけないかなと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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