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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#36. 2020 J1 第30節 vs鹿島 レビュー&採点~

※こちらの記事では試合レビューに加えて試合後に行った三年計画に関する採点アンケートの結果を記載しています。採点アンケートの内容、意図については以下の記事をご参照ください。


両チームのメンバーは以下の通りです。

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◆整備された前進経路と流動的な前線

お互い4-4-2同士ということで、ビルドアップでは何もしなければ相手のプレッシングを正面から受けることになる噛み合わせということで、ボール保持側はいかに相手とのズレを作るか、非保持側は相手の動きにどれだけ対応できるかというところがポイントになります。

鹿島は序盤から分かりやすくズレを作ってきました。

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この図は4'50~のシーンですが、ボールを運んだり長いボールを出せたりする犬飼が素早く外に開いて浦和の2トップや汰木から遠いところでボールをもらうところからビルドアップをスタートすると、犬飼が運ぶのに合わせてライン際の小泉も前に進んで汰木に影響を与え、山中が中間ポジションを取るファンアラーノを意識していることを感じてか、上田が山中の背後へ走り込みます。

また、左側も27'18にレオシルバが中央に下りると興梠の脇から町田が運び、ライン際の山本がそれに合わせて前に進んでボールを受けることで、町田から山本へのパスで浦和の中盤ラインを越えてボールを受けて橋岡を引き出すと、橋岡が出てきた裏のスペースをエヴェラウドが使います。

SB、CB、CHの6人は、犬飼と小泉については犬飼が外に開いてボールを受けて小泉はライン際、残りの4人は早く最後尾に3枚を作り、下りないCHが興梠とレオナルドの間に立って浦和が簡単にはプレッシングに出られないようなポジションバランスを作ります。
そして土居、ファンアラーノ、上田、エヴェラウドについてはあまりポジショニングに制限を作らず流動的にスペースを見つけたら使っていくという今までも良く見てきた鹿島のアタッカー陣の動き方という感じでしたし、先制点はまさに鹿島のアタッカー陣のスペースを見つける力と流動性から生まれたものでした。

10'05に浦和のゴールキックからプレーが始まり、西川はライン際で高い位置を取った橋岡へのフィードを送ります。こぼれ球の奪い合いでボールが前後を行き来しながら徐々にゴールキック時の密集から選手間の距離が開いていきます。そしてセンターサークル付近で汰木がヘディングで興梠にボールをつけたところを小泉が奪うと、前がかりになったマルティノスの背後、つまり浦和の右サイドには大きなスペースがある状態に。

長澤が急いで橋岡vs土居&エヴェラウドの1vs2をサポートして2vs2としますが、土居が橋岡に向かってドリブルしたことでライン際のエヴェラウドは余裕のある状態でパスを受けることが出来、橋岡に対して有利な状態で1vs1の局面を迎えることが出来ています。

上田の一旦引いてスペースを空けてから使うというクロスに対しての入り方は小林悠や興梠のような非常に巧みなものでしたが、このクロスを上げるまでのところについてもいわゆる「鹿島らしい」アタッカー陣の動き方にあったと思います。

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49'45の2点目のシーンもトランジションのところで前に出ていた浦和の右サイドの背後スペースを鹿島が使ったところからスタートしています。

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上田にボールが収まった段階で橋岡はしっかり戻ってきていますが、デンの背後に流れたエヴェラウドが気になったため、上田の対応はデンに任せて橋岡自身はエヴェラウドを対応しようと裏のスペースを埋めに行きます。
これによって上田が落ち着いて前向きにボールを持つと、浦和陣内へドリブルで運んで一度集結させてから、三竿とレオシルバを使うことで浦和の守備に横の揺さぶりをかけてボールの前進経路を空けることに成功。

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さらに浦和の守備の空いたスペースをしっかりファンアラーノが使っていることで山中を引き付けることに成功し、それによって上田にボールが入った時には槙野に対して山中の背後スペースへの選択肢をチラつかせることが出来、上田がシュートを打つことが出来る余裕が生まれました。

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アタッカー陣のスペースを見つけて素早く使う動きと、そこでボールを持てた時に相手を引き付けてからパスをすることで常にボール保持者に複数の選択肢を持たせ続けることが出来ました。

浦和側で考えられることとすれば、
トランジションが発生して町田から上田にボールが出た時に自分のポジションへ戻っていく橋岡がそのまま上田をファウルでも良いので止められなかったか、
あるいは、49'19にデンからハーフレーンの興梠へボールが入った時に興梠とマルティノスのポジションが被ってしまっており、さらにそこへ橋岡がオーバーラップをしているが、橋岡が走り込もうとする位置へマルティノスを動かして橋岡はビハインドサポートとネガトラ対応役で中盤エリアに残すことが出来なかったのかになると思います。

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1点目、2点目はいずれもトランジションの局面で浦和の選手よりも早く鹿島の選手がスペースを見つけて使えたところで、浦和に対して先手を取って攻撃を仕掛けることが出来ていたところからでした。

つまりは、浦和目線で言うと「攻守に切れ目のない」ポジショニングやプレーが出来なかった、そこの局面で鹿島に上回られてしまったと言えると思います。


◆「ズラして前進」は積み上げの成果

では、浦和のボール保持の局面はどうだったのかを見て行きます。

まず1'15からビルドアップでは、ボランチが縦並びになったり、興梠が落ちてきたりはしましたが、4-4-2の形をほとんど崩さなかったため、鹿島の2トップが内側を締めて、山中に対してファンアラーノ、汰木に対して小泉が積極的に縦スライドしていくことでボール保持者に時間を与えずにボールを奪っています。

ですが、浦和は7分を過ぎたあたりから、SBを少し前に押し出してCBとCHの4人で鹿島の2トップ周辺のスペースを使ったボール前進の経路を見出していきます。

7'31に長澤が鹿島の2トップ脇へ0.5列下りる(槙野の斜め前に下りる)ことで、少しずつズレを作ろうとし始めると、14'03に再び長澤が槙野の斜め前に下りて上田とエヴェラウドに対して3vs2を作り、さらに青木が上田とエヴェラウドの背後に立つことによって、この2人を中央に留めてハーフレーンへ開いたデンをフリーにすることに成功。

デンからレオナルドへのロングボールは収まりませんでしたが、こぼれ球に対して汰木や橋岡が前向きにチャレンジしてボールを取り切ってレオナルドのシュートまで持ち込むことが出来ました。
最後尾が数的有利を作って余裕をもってボールを出せる状況が作れたため、ボールよりも前にいる選手が下がってサポートする必要がなくなったことによってこぼれ球への前向きなサポートが出来ています。

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さらに、17'45も長澤が上田の脇でボールを引き出して鹿島の1stラインを突破すると、2ndライン付近に興梠が下りて青木へレイオフ。青木から鹿島の守備ブロックの外に張っていた橋岡へボールが展開されると一気にスピードアップして決定機を作りました。

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浦和とすれば上手くズレを作ったところから一気にスピードアップするという理想的な展開でしたが、クロスは惜しくも合わず。

この後も上田とエヴェラウドの距離が開いた時に背後で長澤がボールを受けてターンし、一気に前進するというシーンが2つ続いたり、青木が槙野とデンの間に下りて槙野を開かせると、槙野はボールを運んでファンアラーノを引き付けてからその背後へ入ってきたレオナルドへ縦パス。興梠とのワンツーで抜け出してペナルティエリアへ侵入するなど、ズレを作ったところからボールを前進させることが出来ています。

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◆油断すると緩むポジショニング

意図的にズレを作ってボール前進の経路を確保することが出来ていた浦和。しかし、上述の17'45~のシーンも槙野が運ぼうとするスペースに汰木が一度下りてきて塞いでしまっていたり、25'48に右からのリサイクルで左にボールを流していこうとした時に山中が槙野に対してパスの角度を緩めるだけでなく距離も近づいてしまったことによって山中が鹿島のブロック幅に収まってしまったりと、ズレを作れるポジショニングへの意識が緩んでいる状況が出てきます。

33'09には右サイドでの密集を回避して西川までボールを戻した時に、まずは槙野が西川に近づいてボールを受け、さらに左側のスペースに青木が流れようとしたり、同じスペースに汰木が下りてこようとしたために左から前進するためのスペースが埋まってしまいました。

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さらに、後半に入って早い時間に追加点を許すと、前半は作れていたCBとCHによる最後尾でのズレが上手く作れなくなります。55’30に長澤に代えてエヴェルトンを投入しますが、ビルドアップ時にエヴェルトンは青木と横並びになる位置に立ったことでそれまで長澤が0.5列下りることで作っていた最後尾でのズレがなくなり、浦和のボール前進は局面での球際勝負を余儀なくされます。

ズレを作れずボール保持者に時間とスペースの余裕がない状態になった浦和の選手は次々とボールを前に蹴り出すようになり、62分を回ったあたりからオープンな状況になると、63'51に青木が痛恨のパスミス。あまりにも大きな3点目が入ってしまいました。

3-0になると、これ以上はリスクを負って失点したくないと思ってしまうのがDFの性分であるのは理解に難くありません。ビルドアップ時の槙野とデンの距離はどんどん狭まり、それによってボールを前進させるための経路を失い、サポートするために前から選手が下りてくるという悪循環。

75'16には
実況・八塚氏「いかにも、しかし、興梠の位置が低い」
解説・ジジ水沼「あそこまで落ちてこないといけないのかってくらい低いですよね」
とまで言われる始末。

最後には宇賀神を投入して5-3-2に変更しますが、すぐさま鹿島も3-4-3に変更して浦和のビルドアップに対して前線の数を合わせたためシステム変更の成果は出ず。鹿島は久しぶりのクリーンシート、浦和は今季4度目の4点差負けとなりました。

ちなみにこの日(11/29)は私の知人の鹿島サポの誕生日でした。さぞかし気分が良かったことでしょう。。。


◆採点結果

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前半は決して悪い内容ではなかっただけに採点は難しかったです。ただ、試合の流れを大きく動かした1点目、2点目はいずれもトランジションのところで鹿島に上回られたところからであり、ボール保持でも特に後半はバランスを崩した状態でボールを前に蹴飛ばすシーンが多く攻守がはっきりと分かれてしまいやすい展開になりましたのでQ3は1点。

ボール保持の項目も前半については及第点だったと思います。長澤、青木を使いながら最後尾で数的有利を作るポジショニングや、クリーンに鹿島の1stラインを越えたところからのスピーディな展開は再現性がありました。前半はQ4、Q5に3~4点、Q6、Q7は4点でも良いかなと思いましたが、後半のマイナスポイントが大きくそれぞれ2点、2点、3点、3点としました。

アンケート結果が思いのほか低かったかなとは思いますが、やはり後半の停滞感に対する悪印象が大きかったのだと思います。


鹿島はまだACL出場権や今季の天皇杯への出場もまだ見込めるという状況で、ザーゴ監督は「自然に、ダービーになると選手たち自身も気持ちが入ります。それは当然相手もそうです。今日見せた集中力、注意力、ハートの部分を、それを毎試合やらないといけない。今季はあと2試合のリーグ戦を残しているし、ましてやホームであると。」とコメントしたようにかなり選手の心を焚き付けたようです。

対する浦和はというと、前節の敗戦で一応目標としていたACL出場権は絶望的となったことに加えて大槻監督の退任が正式発表されたということで、何もかかっていない状況でもプロとして闘わないといけないとは言いますが、人間そんな強くないよなというのを感じてしまいました。

既に優勝は決まっていて、降格もない今季においては何かがかかってるチームは限定されており、残る3戦の相手は湘南、川崎、札幌とお互いに何もかかっていないチーム同士の対戦になります。言ってしまえばお互い同じ条件になるので、湘南と札幌に対してはきっちりダブルを、川崎に対しては何か9月の対戦から積み上げたものの表現がされることを期待したいですね。
抽象的な言葉ばかりですみません。。
何度目であろうが4点差負けの試合を振り返るのはしんどいです。。


このような試合展開でもアンケートにご協力してくださった皆さんありがとうございました。今シーズンは最終節まで試合後のアンケートを行いますので、懲りずに是非残りの3試合もご協力をお願いします。

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