「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#32. 2020 J1 第26節 vs広島 レビュー&採点~
※こちらの記事では試合レビューに加えて試合後に行った三年計画に関する採点アンケートの結果を記載しています。採点アンケートの内容、意図については以下の記事をご参照ください。
両チームのメンバーは以下の通りです。
浦和は左SBを山中から宇賀神に変更した以外は前節の大分戦と同じスタメン。中2日とは言えこの試合の後は10日間空きますので、選手のコンディション以上にチームで目指すものを表現する力を考えたのではないかと思います。途中から入った関根や久しぶりの出場となった武富はプレー強度の面でスタメンで出ていた選手たちからは劣る感じもしたので、メンバーが固定気味になってしまっているのは仕方ないかなと思いました。
レオナルドのベンチ外はちょっと驚きましたが。もしかするとコンディションに異常があってのお休みだったのかもしれません。
対する広島は10/24(土)の鹿島戦、10/28(水)の横浜FM戦と起用してきた主力メンバーを10/31(土)の仙台戦では休ませており、体力的にはフレッシュなメンバーが大半。システムでのミスマッチに加えて、ほぼ全員中2日の浦和に対して体力面でどれだけ差が出るかというのがポイントになりました。
早速浦和が先制します。2'00に浦和が自陣右サイドでボールを奪うと最終ラインにボールを下げます。左サイドにボールを流していく浦和に対して、槙野に対して浅野、宇賀神に対しては茶島が寄せたことで、下りていく汰木には野上がついていくことになり、広島の陣形は右上がりのような形になります。
汰木がボールを内側に流すと、野上が前へ寄せに行ったことで空いたスペースに興梠が流れ、武藤とのコンビネーションでボールをキープしながら広島陣内へ侵入します。その間に広島の選手たちは帰陣してブロックを組みますが、浦和はここでブロックの前を横断する形で右サイドの外に張ったマルティノスへ。橋岡のインナーラップに森島がついて行ったため、内側のスペースが空きマルティノスはカットイン。
マルティノスがボールを受けた時には柏が対応しに行きますが、カットインにはついていかずに自分のポジションへ帰っていきます。あっさりとフリーになったマルティノスは一旦ファーサイドへ逃げてから中央へ入ってきた興梠へパス。ショートバウンドを巧みにコントロールした興梠が右足を振りぬきゴール。
広島はディフェンシブサードではそれぞれが捕まえる相手選手をはっきりさせる印象があったので、柏があっさりマルティノスを捨ててしまったのはどうしたんだろうと思いましたが、訪れたチャンスを確実に決めたマルティノスと興梠は素晴らしかったです。
◆ハーフスペースは火の車
先制点は喫したものの、広島は自分たちの得意な形である幅を取る選手に対してハーフスペースを抜けていく動きを何度も見せて浦和ゴールへ迫ります。
3'44は青山からのパスを柏がライン際で受けると、橋岡が外へ出て対応したことに寄ってい空いたハーフスペースをすかさず森島が走り抜けてゴールライン付近までえぐってからマイナスのクロス。
さらに、5'10には柏が縦を橋岡、斜め前をマルティノスに塞がれると、ボールを横方向に運んで後ろから顔を出してきた野上へパス。上がってきた野上と外で幅を取っていた茶島がパス交換でポジションを入れ替えると、外に出た野上に対応するために宇賀神が空けたハーフスペースを茶島が走り込んでクロスを上げます。
左右から立て続けに4バックの泣き所であるSBを引き出されたことによって空いてしまうハーフスペースを広島は上手く使うことが出来ました。
試合序盤は広島の3バックでのビルドアップに対して2トップの浦和はSHを積極的に縦スライドさせることで数的不利の状況を対応しようとしますが、森島、青山、川辺が浦和のボランチ周辺でスペースを見つけては動く、次のスペースを見つけては動くというのを繰り返して中盤での優位性を取っていきます。
浦和はSHを前がかりに動かしているため、ボランチ周辺でプレッシングを外されると最終ラインの4バックがそのまま晒されてしまいます。そうなると、幅を取ったWBへの対応はSBが行うことになり、SBが出て行ったハーフスペースへのカバーをして欲しいボランチやSHはプレッシングに行っているため対応が遅れるという悪循環。
早い時間に追いつきたいという広島の選手たちの前がかりな姿勢がそのまま反映されるようにどんどん浦和陣内へ押し込んでいくと、野上や佐々木も積極的に高い位置で攻撃に関与してチャンスを作り、22'15にはペナルティエリアの外から佐々木がミドルシュート。岩波に当たってコースが変わりますがここは西川が見事に反応しファインセーブ。
広島としては使いたいスペースをどんどん使えていたこの時間帯で追いついておきたかったところですが、最後のところで決めきれず飲水タイムに入ります。
◆素早い修正は効果てきめん
(前半の飲水タイムの後に、続けて前線でボールを奪いながらいい形が作れたと思うが、監督からはどのような指示を与えたのか?)
「一番前でボールを奪ったり、サイドMFのところでボールを奪ったりできましたけど、もっと後方のところのスライド、前に押し出すところの準備とかアクションをする、ということです。一番前がボールに行けるのは後ろから押し出すからだというところで、コンパクトさも含めてあそこはもう少しできると思いましたし、要求したことをすぐにやってくれたので、あれがもう少し、シュートがゴールの枠に飛ぶようなところにつながればもっとよかったと思います」
これは試合後の大槻監督のコメントになります。
前半の飲水タイムで浦和はプレッシングの仕方に修正を入れます。中盤(特にSH)を最初から2トップのプレッシングに加勢させるのではなく、2トップがボールの進路を制限出来たところから全体が後ろから押し上げるように動くようになりました。
29'24には野上からのバックパスを起点に武藤と興梠がボールサイドを浦和から見て右サイドへ誘導し、それまではマルティノスがすぐさま佐々木を捕まえに出て行っていましたが自重します。荒木はここまでの流れと同様にマルティノスが先に動いている想定で興梠の脇を通すようなボールを蹴りますが、マルティノスにカットされます。
高い位置で陣形が揃った状態の浦和は興梠、武藤に加えて、エヴェルトンと長澤もゴール前に走り込み、マルティノスからのくさびを武藤が落として長澤がシュート。
その直後の29'50はバックパスを受けた林を武藤と興梠が左右から挟み撃ち、2人の間を長澤が覗いて、林からのパスを受けた川辺に出て行くだけでなく、川辺からのパスを受けた青山まで二度追いします。これによってマルティノス、エヴェルトンを中盤に残すことが出来、下りてきた森島からエヴェルトンがボールを取り上げて再びショートカウンターへ。
汰木がシュートに行ってブロックされたボールをそのまま興梠がシュートしますが、荒木が再びブロックしてボールは枠を外れてしまいました。
33'20も広島のビルドアップに対して浦和はブロックを作ったところからスタートします。佐々木や野上からWBにパスが出たところでSHが下がりながら対応してWBに前を向かせないようにすると、WBからのバックパスに対して2トップからプレッシングを開始。
それに合わせてマルティノスが縦スライド、マルティノスの背後に橋岡と岩波が縦スライドしてボールを奪うとそのまま武藤に縦パスをつけて、追い越して前に出た長澤へ一度当てたボールを引き取ったところで青山のファウルを誘ってペナルティエリア付近でのFKを獲得。
いずれも前線のアクションだけでなく、後ろから前への押上げによって全体がコンパクトになったことで前がかりなプレッシングが可能になりました。
浦和はプレッシングの修正だけでなく、ディフェンシブサードまで侵入された後のSBが外に引き出された後のハーフスペース問題もCBが横スライドしてそこを埋めるように統一します。これによって、ボール付近での人数を確保し、CBがスライドしたところにはボランチが下りたりして中央はしっかり埋めたため、飲水タイム前のようなスクランブルは発生しなくなりました。
飲水タイムの前後で広島の保持vs浦和の非保持は一気に形勢逆転。浦和としてはこの流れの中で追加点を奪って試合の流れを手繰り寄せたいところでしたが、スコアは動かずに前半を0-1で終えます。
◆前のめりな広島を跳ね返しきれず
後半に入ると浦和は再びSHを前に押し出しながらのプレッシングに戻します。試合開始直後との違いはサイドの縦スライドによって空くハーフスペースをCBが素早くスライドして埋めることが徹底されていること。50'10は左サイドの縦スライドに合わせて槙野が素早く横スライドしたことでハーフスペースを使おうとした浅野を見事に抑えました。
そんな中で48'00には浦和が自陣からのスローインの流れでマルティノスが抜け出してゴール前でGKと1vs1の状態でシュートを放ちますが枠に入れることが出来ず。
広島のWBは浦和のSHとSBの間の高さを意識したポジションを取ることで、浦和の2トップがビルドアップに規制をかけられないとSHは前に出ずにWBに対して戻って対応したときには守備組織を後ろに下げられてしまいますが、逆に58'56にはマルティノスと橋岡が縦スライドして、橋岡の内側へ長澤がスライドしてボールを奪えるという、浦和がどれだけ前に出られるのかどうかが局面攻略のカギになっていきます。
広島は一度浦和陣内に侵入することが出来れば最終ラインに残る荒木、佐々木もハーフラインを越える位置をキープして青山、川辺のポジションを押し上げます。これによってアタッキングサードで浦和にボールを跳ね返されても、浦和の中盤は十分に押し下げられているためセカンドボールを拾いやすく、2次攻撃、3次攻撃を繰り出すことが出来ました。
さらに、浦和のボール保持に対しても素早く5-4-1の陣形を作ると、それぞれが自分のレーンにいる浦和の選手目掛けて直線的なプレッシングを行ってボール前進を阻みます。それによって浦和は最終ラインに時間とスペースがないところへボランチがサポートしに行きますが、ここに対しても川辺、青山がしっかりついてきているため、一気に前線へボールを送ってしまいます。
ボランチによるビハインドサポートがない状態では前線が孤立してボールをすぐに広島に奪われしまい、再び守備で自陣へ押し戻されるという悪循環。
徐々に前向きなパワーが出せなくなってきた浦和はマルティノスと武藤を下げて杉本と関根を投入します。これによって前線からのプレッシングの勢いを回復しにいきます。
しかし自陣へ押し込まれる展開は変わらず、75'48に青山からのインスイングのクロスを一度は弾きますがクリアが不十分で再びペナルティエリア内にボールを入れられると、エリア内の狭いスペースからレアンドロペレイラがシュート。崩し切ったわけではないものの、ほんの少しの隙間を逃さなかった見事なシュートでした。
正直、ボールを持たれる時間が長くても広島のハーフスペース攻撃は防げていたので、このままスライドする体力がなくなったら5バックにしてスペースをさらに埋めてしまえば大丈夫だろうと思っていました。
とはいえ、ボールが自陣ゴールに近い場所にあれば、何かしらの拍子に失点してしまうリスクは高くなるのでボール保持の時間をもう少し増やして陣地回復が出来ればよかったのですが、中2日ということで体力的に最終ラインでボールを持つためのポジショニングを取りに行けなかったり、奪ったら広く空いた裏のスペースへカウンターという意識が高すぎたりしたことも、ボール保持が安定しなかった要因かもしれません。
大槻監督の試合後のコメントもあわせて掲載しておきます。
(前半から前の選手たちが守るためにがんばらないといけない時間があったことが、後半に疲れてしまってカウンターにキレを出し切れなかったことにつながったという印象があるが?)
「相手とのかみ合わせで攻守のところもありますし、守るところというより、先ほども言いましたけど守から攻のところでボールを握る時間が増えるところ、あとは速く攻めきれないのであればもう一回やり直すところということで、効率の部分を求めた方がいいかなと思って先ほどの発言をしました。言葉遊びのようになりますが、攻撃の時間が増えれば守備の形も減るでしょうし、守備をやり過ぎているという表現が合っているかどうかはよく分かりません」
守備でのプレッシングと同様に、攻撃も行くところと行かないところの判断が伴ってくれば、もう少し狡猾に時計を進めることも出来たかもしれません。後ろから前にボールを出した時もファウルをもらえずにそのまま奪われてしまうシーンがほとんどで、この辺りはコンディションの影響もあると思いますがマルティノスが早めに交代したことも関係するのかなとも思います。
そして、67'45にFKでのレアンドロペレイラのシュートをブロックした関根が右足を負傷し、79'45に武富と交代。関根は試合自体にもなかなか入り切れていないようにも見えたので、もしかすると戦術的な面も含めた交代かもしれません。ここはあくまでも想像になりますが。
それでも、浦和はこの後も粘り強くサイドの縦スライドとそれに合わせたCBの横スライドで広島の攻撃を食い止めて1-1で試合終了。鳥栖戦から続く無敗を6に伸ばしました。
◆採点結果
今節もアンケートにご協力いただいた皆さんありがとうございました。個人的には守備の部分ではセットしたところからのプレッシングと、その流れでボールを奪えるシーンがあったことは評価したいです。特に前半の飲水タイムのところですぐにベンチからの修正が入って、それをしっかり表現できたのは素晴らしいです。
図でも表現しましたが、33'20の岩波が高い位置まで出て行って森島からボールをとったところは最終ラインの高さと全体のコンパクトさがないと出てこないシーンだと思いますし、あれだけ立て続けに高い位置からのプレッシングでボールを奪ってショートカウンターを打てたのは今季なかなか見られなかったことだと思います。
一方で気になったのはボール保持のところですかね。これも試合開始から最初の飲水タイムまでは大分戦の前半と同様にSBのポジションが少し前過ぎてCBが横パスでプレッシングを外すことができなかったため、時間を作れずにボールが前に行ってしまうシーンが多かったです。
飲水タイム後で修正が入ると、36'27に西川までボールが戻った時には岩波と槙野が開きながら西川のいる高さまで下がって西川に対する横サポートの位置をとったり、43'05や44'20にはSBが低い位置からビルドアップを始めることで広島のプレッシングを止めたり出来ていました。ビルドアップ隊が余裕を持って前を向いた状態を作れるとボランチはビルドアップ隊のサポートのために下がる必要がなくなり、前線にボールを送った時にビハインドサポートをすることが出来、クロスに対してペナルティエリア内で待ち構えることも出来ています。
プレッシングを止めるためのポジションを取るには走ることが必要になるので、体力が消耗してくる後半の時間帯になるほどきついとは思います。ですが、それによって体力的、時間的な猶予は得られるので、ビルドアップの局面ほどしっかり相手に対して優位になれるポジションを取って試合のテンポをコントロールすることができると良いかなと思います。
丁寧に足元から繋げずに前線へのロングボールを多用するチームであったとしても、最終ラインがプレッシングを受けないためのポジションを取ることでその1列前の選手のポジショニングが変わってくるので、ここは大分戦に引き続き課題となる部分かなと思います。
さて、次は10日空いて11/14に横浜Fマリノス戦です。中断明け最初の試合で、全体をコンパクトにした守備からFマリノスの超ハイラインの裏のスペースを突きに行ったのは鮮明に記憶に残っています。8月の「土田SDが伝える浦和レッズの今」でも、
横浜F・マリノス戦の結果は0-0ではありましたが、良いゲームをしてくれたと評価しています。チームコンセプトである『個の能力を最大限に発揮すること』、『前向き、積極的、情熱的なプレーをすること』。その点は本当に表に出ていたと思います。
と評しており、今季の採点(26試合中)ではアンケートは7番目、私の採点では5番目に点数の高い試合でした。前回対戦と同様にしっかり準備期間を取れる試合になり、恐らくは両チームともあの試合と似たようなスタンスで試合に入るのではないかと思います。広島戦で見せた全体で連動したプレッシングを行うことが出来ればショートカウンターからの得点も十分見込めると思います。
また、Fマリノスの即時奪回を目指したハイプレスに対して大分戦、広島戦で課題として出てきたビルドアップ隊のポジショニングがどれだけ改善されるのかは注目したいところです。
良いポジショニングがパッと試合を観ただけではなかなか分からない方は、最終ラインがボールを持っている時に浦和のボランチが下がってきているのか、前に出ようとしているのかだけでも見て頂くと、上手くプレッシングを外せているかどうかの指標になると思います。
次節も試合後にTwitterでアンケートのリンクを掲載しますのでご協力お願い致します。では、また。