電力流通とP2P・ブロックチェーン
つい先週のことになりますが、フューチャースタンダードの鳥海さん、インキュベイトファンドの和田さんとのファミレスでの会話で「蓄電池」がアツい!ということを聞きました。
再生エネルギーの流通、特に売電の文脈の中で、蓄電池が重要度を増す、ということらしいです。
太陽光由来の電力の買取価格が大きく変わる、という認識はあったんですが、売電って言っても自由に双方向に送電できるわけじゃない。仮にできたとしても、送電距離に応じたロスは誰が被るんだろう。電子証券取引じゃあるまいし、そんなんうまく行くのかいな、と思っていました。
その日の夜、Facebookを見ていると、ソニーの新卒同期だった武田泰弘さんが本を出版した、というニュースが舞い込んできました。
まさかのドンピシャwwww
さっそく電子版を購入し、一通り読み終えました。買っててよかったiPad Pro。なかなか歯ごたえがあり、普段は自分の会社のことでいっぱいの頭にも良い刺激になりました。以下、感想を書いていきます。
エネルギー政策の一大転換点
本書は、エネルギー政策、特に自給率向上に関する議論に必要な基礎知識をまとめつつ、再生可能エネルギーの爆発的普及の要になりうるP2P電力取引について、技術から実例まで幅広くサーベイを行った、というものです。エネルギー政策の一大転換点と、その技術的背景が凝縮された良質な入門書ということができると思います。
エネルギーはほとんどすべての経済活動の礎ですので、他分野の方でも興味深い内容になっていると思います。特にIT業界の方にはおすすめです。ITで解決できる課題が多い、というより、野心的取り組みにはITが不可欠なことが、この本を読むとよくわかるからです。
と、書いているうちに実証実験のニュースも舞い込んできました。
本の構成は非常に親切です。
日本の電力事情の大枠を説明するところから始まり、電源の多様化の重要性および可能性と制約を丁寧に並べていきます。その土台の上で、本書の主旨であるPeer-to-Peer電力取引のコンセプト、アーキテクチャ、要素技術としてのブロックチェーンと機械学習、国内外の事例の対比、よりマクロな視点での電力流通の未来像、と進んでいきます。
読み進めていて「これはどういうことだろう?」と感じた疑問は概ね後の章で解決されるので、読んでいて気持ちよかったです。
関連する政策やニュースなどは都度検索エンジンにかけると出てきますし、出典も丁寧に並べてあるので、点と点を繋げる作業は比較的気軽にできます。こういう本の読み方は本当にiPad Proが最高です。買っててよかったiPad Pro(2回目)。
情報と議論の密度が非常に高いので、今後も何度か読み返して理解を深めていきたいです。
最後に、将来の自分へのメモとして、初見で読んだ際に出てきた疑問をいくつか書き下して、この記事を終えたいと思います。
1. ブロックチェーン上の取引検証の際、任意の2点間の送電が技術的にできない以上は、電気を売る側にセンサーを物理的に噛ませる必要がある。ハードウェア部分のなりすまし対策はどうやるのか?
2. グリッド内の蓄電能力が飛躍的に向上すると、悩みや制約の多くが解決されるように思えるが、その思考は正しいか。
3. 家庭用を想定した場合、電気自動車以外に蓄電池導入のきっかけはあるだろうか。例えば、家庭内のピーク電力需要(エアコン+オール電化での調理など)と契約/設備容量のギャップを埋めるような使い方は考えられるのか。
4. もしP2P電力取引が実現したら、相手と用途を限定した寄付や割引は可能か。例えば、地域の小中学校のエアコンに余剰電力を使ってもらう、など。
ヤス、出版おめでとう!
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