私たちはなぜスタートアップの戦略市場として義務教育を選んだのか
ジョイズ株式会社は、主に公教育、特に自治体向けに、クラウドベースの英語学習支援ソフトウェアを提供しているスタートアップです。いわゆるEdTechに相当し、しかも自治体向けが多い、B2G的な企業ということで、比較的珍しい事業をやっているのではないかと思います。
「教育なんて体質が古そうだし、自治体は意思決定が遅いし、そもそも生産人口減でお金がない。全然スケールしなさそう!」
と思ったそこのあなた。You are not alone.
一般的には、事業領域・投資領域としてのEdTechに対する世間の評価は必ずしも高くない、と思われます。教育事業は意義が明確で、やりたい人が多い。英語学習も、目新しい事業モデルはすぐに競合を呼び、マーケティング費用が先行するレッドオーシャン状態になる。ベネッセや学研などの大企業も存在するが、直近の事業の伸びは教育ではなく介護事業。たまに来る教育系の新規株式公開も、正直言ってパッとしない・・・。これを読んでいるあなたも、そんな印象を持っているかもしれません。
一方で、ジョイズの事業には今、100以上の自治体での実績を産むモメンタムがあり、直近で資金調達を完了した、という事実もあります。
この記事では、私たちジョイズ株式会社が、なぜスタートアップの戦略市場として義務教育を選んだのかについて書いていきます。
スタートアップの市場選択
外部からイクイティを集めて経営するスタートアップにおいて、まず第一に求められるのは高い成長性です。継続的かつ高い成長性があって初めて、その株式は高く評価され、投資家の資金投下が正当化されることになるからです。
その観点で考えると「古い・遅い・お金ない」が揃っている印象のある自治体向け市場は、一見検討する価値のほとんどない、スピーディな事業成長が極めて難しい市場に見えます。ここで必要なのは、市場をより細分化して捉えることです。
細かく見るとお金はある
自治体が管轄する事業のうち、教育、さらに細分化して、英語に着目すると、長期的には「お金を機動的に支出する」傾向にあります。これはどういうことか。
キーワードは「専科教員」と「外国人指導助手(以下ALT)」です。
日本における英語教育は、長らく「若年化」と「高度化」の流れにあります。これを書いている時点において、日本の子供は、小学校3年生から英語の学習を始めます。一部の自治体には小学校1年生でスタートするところもあります。小学5年生からは教科化し本格的な学習が始まります。また、旧来の翻訳文法を中心に据えた学習から、スピーキングを含む運用性を優先したカリキュラムに変わっています。つまり英語教育は、量的(時数)にも質的(内容、難易度)の面でも変化を遂げてきています。
この変化を支えるため、教育学部のカリキュラムの進化とともに、必要なスキルを持った人材を従来とは違う形で現場に派遣する、といったことが行われてきています。広義には、義務教育におけるオンライン英会話の活用もここに含まれるでしょう。
意外と知られていないのですが、この学校現場における英語専門人材の市場は、リンクアンドモチベーショングループの基幹事業の一つだったり、みなさんご存知のオンライン英会話「レアジョブグループ」がM&Aを通してアプローチを開始した事業だったりします。総じて1,000億円〜2,000億円程度の機動的予算が国内にある、と理解いただけばOKです。
これは、他の主要教科(国語、数学、理科、社会)にはないものです。この英語に加えて、情報教育全般が、近年の日本における教育の漸進的改革の中心です。実際に文科省にもこの2つを統合的に管掌する課があったりします。
言いたいことは何かというと、公共領域においても、大事なところには投資がちゃんとされている。顧客の投資ニーズに沿ったものであれば十分にチャンスがある、ということです。
個々は遅いが市場は早い
確かに、4月〜3月の公会計年度と議会の会期に縛られる自治体の予算を動かすには、通常のB2B事業より平均では時間がかかりやすいのは事実かもしれません。一方で、義務教育の領域には、他の領域にはない特殊性があります。それは市場の均質性です。
日本の学校は、どこに行っても大体一緒です。
こんなことを言うと、学校現場の皆様には怒られてしまうかもしれません。もちろん、自治体による差は歴然とあります。学校間の差もあります。それは各組織の構成員の長年にわたる努力によるもの。それを無視することはできません。
しかしながら、生徒を入試で選抜している私学・高校以降の教育機関、クラスのサイズから指導法まで幅広い塾・家庭教師などの事業者間の差異と比べると、義務教育は総じて均質です。各科目の時数は基準が決まっている。教科書もわずか6社から選択するようになっている。クラスの規模の上限も決まっています。
自由競争の市場においては、マーケット内のポジションを確立するため、様々な差別化が必要になり、これが選抜や業態の差として現れます。一方、義務教育におけるポジショニングはまさしく地図上の位置=学区にある。カリキュラムや指導方法の面でも、国から強力なガイドライン=学習指導要領が出ている。
生徒の学力分布や指導方法が概ね似ているということは、そこにある教育課題も概ね似ているということです。
課題が似ているのであれば、解決方法も似てくるはず。つまり、一度プロダクト・マーケット・フィット(PMF)をすれば、その後の事業シェア拡大は第一にセールス&マーケティング駆動になる、ということ。製品の多角化や、市場内のニーズのグラデーションへの段階的対応といった、継続的PMFが必須の市場に比べると、難易度はグッと下がります。個々の顧客の営業リードタイムは決して短くないけれど、市場のペネトレーション速度(イノベーターを抜けてからラガードに到達するまでの年数)は短い。そんな市場です。
その分(?)PMFまでは結構大変なのですが・・・当社はここはクリアできているのかなと思っています。自治体規模も、小中1校ずつ、といったところから、政令市まで幅広いレンジで実績があります。
ちなみに、セールス&マーケティング駆動になっているシェア拡大ですが、ここも加速における戦略の要石と言える施策が一つあります。ここまでの文章にヒントがあるので、分かった人はこっそりDMをください。ぜひ一緒に働きましょう。
古いのではなく、圧倒的に強い
さて、最後の「教育現場は古い」というイメージについて。私たちの考え方はこうです。学校は古いのではなく、圧倒的に強い。だから変わっていないように見えるのだ。
学校、特に義務教育は、引越しや、深刻な不幸がない限り、基本的に生徒がやめません。また、近年不登校の割合の増加が問題になってはいるものの、生徒の登校率、授業の出席率も、ビジネスの世界からすると羨むしかない数字が並びます。
ほとんどの公立校は、集客のために校舎の外壁を塗り替える必要がありません。学校の周りが開発されたり、寿命を迎えた住居が建て替えられていっても、10年前と同じようにそこに佇んでいます。それでも、エアコンの配備率は上がっているし、WiFiも通っているし、2021年からは、児童生徒が一人一台のパソコンまたはタブレットを貸与されるようになっている。ビジネスの世界では当たり前のインフラですが、こうした装備が行き渡った現在、最も大胆かつ広範な教育改革ができるのは、生徒のチャーンを心配しなくていい学校に他ありません。
B2Bの世界であれば、業界のナンバーワン企業に導入を目指すものだと思います。義務教育市場では、個々の自治体・学校が、こうした業界ナンバーワン企業と同等の安定性を誇ります。この圧倒的な強さは、多少の困難にめげずに長期的な改革を実行できることに繋がり、ビジネスの面では、継続率の高さに繋がります。
ジョイズのいま
こうして書いてきましたが、私たちはまだまだ道の途上。約束されたものは何もありません。現状で100を超えた自治体導入を、中期的には市場の過半を獲得することで、業界のデファクトスタンダードになることを目指しています。それには、既存の自治体での活用の深化、導入対象の学校・学年の拡大、何より、それぞれの現場の教育ビジョンの実現が前提条件になります。この道のりを、徹底した現場理解に基づく製品・サービスの進化と、教育活動の科学化を通して実現するのが私たちのミッションです。
この記事を読んで、少しでも「面白そう」「自分の仕事のチャレンジとして、燃えられそう」と思った方。英語学習、国際化推進に思いのある方。お友達、お知り合いにそんな方がいる方。ジョイズは直近で資金調達を完了し、更なる事業成長のため、様々なポジションで採用をしています。ここには書けないことも含めて、色々お話ししましょう。
ジョイズ株式会社 採用ページ
https://open.talentio.com/r/1/c/joyz/homes/2229
(オリジナル)
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