『牙』刊行記念イベント 三浦英之さんからの叱咤激励
間違いなく今年上半期ナンバー1のノンフィクション『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』の刊行記念イベントに行ってきました!
著者の三浦英之さんと、ジャーナリストの大谷昭宏さん。尊敬する2人のトークということで、会場は大阪でしたが、香川から「えいやっ!」と行ってきました。学びや刺激にあふれた1日となりましたので、後半はごく個人的な話にもなりますが、書き留めておこうと思います。
離乳食みたいな記事があふれる時代に
アフリカゾウの象牙密猟をめぐる取材の話ももちろん面白かったのですが、ノンフィクションの可能性についての話が「激アツ」でした!
三浦さんは現職の新聞記者なのですが、次々と骨太のノンフィクションを執筆されてます。今の新聞もテレビも「分かりやすくて噛み砕きやすい、離乳食みたいな記事があふれている」。
大谷さんも「若い人が記者の仕事ってこんなに面白いんだと胸踊るような連載がなくなっている」という指摘をされてました。
自分にとっての"北極星”を
「表現する以上は誰かを傷つけるし、自分も傷つく。その覚悟が持てるか。書くのが嫌になるとき、唯一の支えとなるのは先人たち。目指すべきジャーナリストを自分にとっての”北極星”にして、まっすぐ進んでいくだけ」と三浦さん。
私にとっての”北極星”の1人は、まさに三浦さんだなぁと感じ入りました。
私が三浦さんがすごいなと思うのは、誰もやらないような取材に取り組んでることと、読み手を引き込む文章力です。
東日本大震災直後から、宮城県南三陸に暮らしながら、被災者の日常や心の変化を丁寧な筆致と印象的な写真で綴った『南三陸日記』は、何度も目頭が熱くなります。
大谷昭宏さんは、この本について書評で「映像を凌駕する行間と紙背」と書き、編集者の芝田尭さんは『共犯者 編集者のたくらみ』(駒草出版)の中で、三浦さんのことを「取材対象者への慈しみと敬愛の度合いが人並み外れて強い」と評しています。
叱咤…ノンフィクションの未来のために
大満足の2時間半のトークショーだったのですが、それだけではなく、終了後に三浦さんと食事をご一緒させてもらいました。
きのう「このトークショー行きます!」とTwitterでつぶやいたところ、DMでお誘いいただきました。実は三浦さん、2009年に刊行した拙著『あの時、バスは止まっていた~高知「白バイ衝突死」の闇~』を読んでくだり、Twitterをフォローしてくれていたのです。
食事の間もひたすらノンフィクションについて熱く語る三浦さん。ノンフィクションは売れない、と言われる昨今。つまらないノンフィクションが読書離れを招いている面もあると言います。
そんな中、拙著については、過分に高く評価してくださっていて、「あれだけ取材力も書く力もあるのに、どうしてこの10年、1冊も出してないのか」と、厳しい叱咤をいただきました。
私自身、ノンフィクションが大好きで、書くべきテーマもあるのに、日常に流されていました。「怠惰」と言われても仕方ありません。グサリと刺さりました。
被災地やアフリカで多くの「死」を見てこられた三浦さん。「人はいつ死ぬか分からない。いったい何が残せるのか」
尊敬する人にそこまで言っていただけたことも感激なのですが、「ノンフィクションの未来のために書くべきだ」という強烈な檄をいただき、泣きそうになりました…
三浦さんに「面白い」と言っていただける新作ノンフィクションを届ける。5歳離れた偉大な先輩をただ仰ぎ見るだけでなく、追いつき、追い越すために頑張ろうと誓った大阪の夜でした。
出会いに感謝!三浦さん、ありがとうございました。
※Twitterでも、ノンフィクションを中心に本の感想やコンテンツ論、プロ論をつぶやいています。よければフォローお願いします。