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万葉旅団

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#夏

夏の野のしげみに咲ける姫百合の知らえぬ恋はくるしきものそ 大伴坂上郎女

夏の野のしげみに咲ける姫百合の知らえぬ恋はくるしきものそ 大伴坂上郎女

知ら「え」ぬ、
苦しきもの「そ」、

端々の言葉遣いに古風な趣を感じるものの、
それ以外は今の私たちが読んでも、なんら違和感なく内容がスッと頭に入ってくるような、ストレートな歌だ。
前半の姫百合の描写が序となり、おそらくは詠み人本人のものであろう、「知らえぬ恋」へと繋がる流れも、断絶をまったく感じさせない自然さで、二つのイメージが渾然一体となっている。

夏の野の「繁み」。

それは夏の盛りを意味

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六月(みなづき)の地(つち)さへ裂けて照る日にもわが袖干(ひ)めや君に逢わずして 詠み人知らず

六月(みなづき)の地(つち)さへ裂けて照る日にもわが袖干(ひ)めや君に逢わずして 詠み人知らず

暑い。とにかく暑い。だから今回は熱い歌を取り上げてみた。
六月というと、現代の暦から夏の入り口や梅雨のイメージを持たれるかもしれない。
しかし、これは旧暦の六月なので、まさに夏、真っ盛りである。

私の袖が乾かないとか、袖が濡れている、という表現は和歌にはよくある。涙に暮れているということだ。(昔の人は、袖で涙を拭っていたのだろう。)
しかし、それを強烈な夏の日差しと対置させた、このような歌を見つ

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