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万葉旅団

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#恋

秋萩におきたる露の風吹きて落つる涙はとどめかねつも 山口女王

秋萩におきたる露の風吹きて落つる涙はとどめかねつも 山口女王

先週、大変遅ればせながら梨木神社へ萩を見に行った。見頃を過ぎていたからか、参道の両側に萩の生い茂る境内は人もまばらで、かえって一人、ゆっくりと万葉の歌に想いを馳せることができた。

秋萩におきたる露の風吹きて
落つる涙はとどめかねつも

いい歌だ。

前半は自然の描写、
後半はそこへ自らの心と身体を、重ね合わせている。
と、言ってしまえばそれまでなのだが、それが僕の心に、こんなにも美しい情景を描き

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君に恋ひ萎(しな)えうらぶれ我が居れば秋風吹きて月傾きぬ 詠み人知らず

君に恋ひ萎(しな)えうらぶれ我が居れば秋風吹きて月傾きぬ 詠み人知らず

以前、「さつき山」の歌を紹介したが、これもまた、特に説明のいらない歌かもしれない。そしてやはり、詠み人知らず。万葉にはこういう歌があって、ほんとうに素晴らしいなと思う。

君に恋ひ
萎え
うらぶれ
我が居れば

〜して、〜して…と言葉(音)の上ではやたら動きがあるように見えるが、実態は、「(私が)恋をして、いた」というだけのことであり、
実際、恋をすると人は悶々として心乱れ、しかし実際には何もしな

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わが妻はいたく恋いらし飲む水に影さえ見えて世に忘られず 若倭部身麻呂

わが妻はいたく恋いらし飲む水に影さえ見えて世に忘られず 若倭部身麻呂

飲む水に影さえ見えて。この表現がとても斬新で印象に残った。
その印象からして、てっきり詠み人が恋をしているのかと思いきや、よく見ると「恋らし」の主語は「わが妻」で、またしても衝撃を受ける。ナルシストなのだろうか…。
いや、ナルシストなら水の鏡に写る影は自分のはず。やはり彼は、妻を愛していたのだ。現に、後半の「世に忘られず」の主語は彼だと読めるようになっている。

それにしても、水に写った影を見たと

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