『キンキーブーツ』生きづらさを抱えて生きる②
英国・米国の合作映画『キンキーブーツ』
キンキーブーツとは直訳するとずばり「変態ブーツ」
kinkyという単語は「変態」以上の、かなり強烈な意味合いです……。
前回は、生きづらさパート1ということで、ジェンダーロール(性役割)にまつわる生きづらさや【LGBTs】について書きました。
今回は、生きづらさ パート2 ということで【事業承継】という切り口から「跡取り息子の苦悩」について書いていきます。
家業を継ぐ重圧〜跡取りはつらいよ
主人公チャーリーは子供の頃、靴工場の三代目社長である父親から帝王学を叩き込まれてきました。
工場に行く道すがらでさえ「お前はいずれ工場を継ぐんだ」とせっせと息子に刷り込む父親……でも、やはり靴工場の話よりはサッカーボール追っかけてる方が好きなチャーリー。(そりゃそうです!)
まだ幼い頃は、無邪気に父親の喜ぶような受け答えをしていた息子。そんな息子を嬉しそうに満足気に見つめる父親。
父親と息子の、短い蜜月期間ですね。
この蜜月はもしかしたら幼い息子の「父親に気に入られたい」という気持ちで成立していただけなのかもしれません。
その時の言動に嘘はないのでしょうが、それだけにその後の父子関係を思うと、少し切なくやるせない気持ちになります。
僕は父じゃない。別の人間だ。
年月が経ち、チャーリーは会社を継がずに婚約者ニコラと一緒にロンドンに転居することを決めます。
その決定を朝礼で発表する社長と、社長の横に立つ息子チャーリー。
映画のカメラは二人の足元を映し出します。
(テレビの画像をスクショしたのでピントが甘くてすみません!)
多分自社製造のものであろう、クラシカルな紳士靴を履いて台の上に乗り、従業員たちやチャーリーを見下ろすように立つ父。
かたや、息子は履き古した白いスニーカー姿で、従業員たちと同じ床の上に立ち、目線の高さは同じ。
身を縮こめて伏し目がちでいる分、社長である父からも従業員たちからも見下ろされているかのように見えます。
一言も発しないチャーリーの姿を白けた面持ちで眺めている従業員たち。
会社を継ぎたくないチャーリーと田舎暮らしをしたくない婚約者ニコラはロンドンに「逃げる」のですから。
会社を継がない=父親の影響下から逃れたい だったのでしょうね、きっと。誰にも比べられず、誰かの目を気にすることなく、自分らしく生きるために、チャーリーはノーサンプトンから「逃げる」しか方法がなかったのですね。
子供の頃の活発で快活なイメージとは違って、成長したチャーリーはどこかおどおどと自信無さげに見えます。社長として従業員の前で堂々と話す父とはまるで違います。
婚約者のニコラも自己主張激しめの女性ですが、彼女にもチャーリーはいつも押され気味です。
しかし、ロンドンに転居してわずか一日(!)父の急逝でロンドンから急遽実家に戻り(せっかくのロンドン暮らしもたった一日で終わる)チャーリーは靴工場を引き継ぐことになります。
社長就任初日、工場の全従業員を前にしての挨拶。
スピーチが苦手なチャーリー。
父がしたように、台の上に乗り従業員たちの前に立ちますが、彼らから「見上げられている」感じはありません。父の真似をしても父のようにはできない……。
僕は父じゃない。別の人間だ
I'm not my dad. OK?
You shouldn't expect that.
続けて
皆と一緒に修行をしてきたこともあるけれど、素質はない。
But I've spent my life with each
one of you at some point, training on these machines. I was bloody useless.
と言うチャーリーに、従業員ドンから被せるように
ほんまそれな!
Too right!
と合いの手が入り(関西弁にしたのはわたしですw)追い討ちをかけるようにその場に同調の笑いが広がる……。
(番頭さんジョージひとりだけが渋い顔でドンを見てますが)
チャーリーにとっては居たたまれない雰囲気です。(見ているわたしもつらい……😢)
ここにはジョージ以外チャーリーの味方はいないのでしょうか。
親子だから、できないこと
経営者は孤独な存在だ、とはよく言われます。
いわゆる跡取りと言われる人々も、輪をかけてとても孤独な存在ではないでしょうか。
身内の話になりますが、実父が興した事業の承継問題ではいろいろと越えなければならない問題があったようです。親族内(内部)承継でしたが、経営を譲る側、譲られる側どちらも悩み考え抜いて、協議を重ね意見調整を行い……と承継までに気の遠くなるような過程を経てきたのを傍で見てきました。
一方、世の中には後継者がいないという理由で好業績でも財務上の問題が無くても廃業を余儀なくされる企業も少なくないと聞きます。
内部承継ではなく、第三者承継やM&A(企業の合併・買収)を選択する企業もあります。
さて、子息子女が事業承継する場合、子は本当に人知れずしんどい思いをたくさん抱えます。
傍から見れば「恵まれている」と思われ一方的にやっかまれたり「ぼんぼん」「苦労知らず」と陰口を叩かれることも……。
よくできて当たり前、小さな失敗をしようものなら「無能だ」「甘ちゃん」と一斉に叩かれる。
後継者は常にストレスにさらされているにもかかわらず、心を開いて相談できる相手や理解者がなかなかいないのです。
【親族内事業承継】なら尚更です。
会社員なら仕事の悩みは家で愚痴を言うなり相談に乗ってもらうなりできるかもしれません。
でも、親子関係+会社での上下関係や立場が合わさって承継問題が解決するまでは四六時中、両者ともがんじがらめになってしまい、単純な親子関係、家族関係ではなくなってしまうのです。逃げ場なし……。当人たちも周りもかなりつらいです……。
「父親として」というよりも「経営者として」弱みを見せられない(と思っている)、子供に悩みを打ち明けられない。
子供も同様に「後継者として」弱音を吐くことは許されない(と思っている)、父親に悩みを打ち明けにくい。
(と思っている)という部分が【思い込み】なのですが、この思い込みがコミュニケーションや理解の妨げになってしまっているのです。
親子なのに、親子だからこそ腹を割って話すことができないという辛さ。
では【事業承継】に関する相談先としてはどのようなところがあるでしょうか。
公的相談窓口
✅事業引継ぎ支援センター
✅商工会議所
民間窓口
✅金融機関(取引銀行など)
✅弁護士、行政書士
✅公認会計士、税理士
✅M&Aコンサルティング会社、M&Aアドバイザー
✅事業承継マッチングサイト など
上に挙がっているのは、事業承継専門分野のプロフェッショナルです。
では、専門分野以外での相談相手はどうでしょうか。
親兄弟に頼れない、配偶者に遠慮する、友人にも気をつかう、同業者にも話せない。
誰にも言えない話を抱えて苦しい時、否定しないで受け止めてくれる、自分専用の話を聞いてもらえる第三者がいたら。
孤独な立場になりがちな経営者や後継者のための壁打ち相手。
心理的安全性を担保された場が彼らにこそ必要です。
「心理的安全性」とは、他者からの反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことができる状態を意味します。
キャリアコンサルタントの存在意義はこうしたところにもあるのではないかと、わたしは思います。
国家資格キャリアコンサルタントには厳格な守秘義務があります。だから安心して相談していただける第三者たり得るのです。
キャリアコンサルタント資格を規定している職業能力開発促進法第三十条の二十七の2には「業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。キャリアコンサルタントでなくなった後についても同様とする」
キャリアコンサルタント倫理綱領第5条にも「キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを通じて、職務上知り得た事実、資 料、情報について守秘義務を負う。 但し、身体・生命の危険が察知される場合、又は法律に 定めのある場合等は、この限りではない。」
と定められています。
たとえば、普段からキャリアコンサルタントやパーソナルコーチが身近にいて話ができる、話を聞いてもらえるだけでもいくらかの救いになるのではないかと思えてなりません。
もちろん、必要に応じて専門家との連携(リファー)をとりつつですが。経営の話に限らず、キャリア(生き方)に関することならどんなことでも話せる相手、身近にいたら心強いですよね。
もっと世の中にキャリアコンサルタントの存在が広まればいいなと強く思うのです。
ラポール形成〜対人関係の苦悩
【ラポール】普段はあまり聴き慣れない言葉でしょうか。
ラポール (rapport) とは臨床心理学の用語で、セラピストとクライエントとの間の心的状態を表す。
(中略)
セラピストとクライエントの間に、相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す語として用いられるようになった。カウンセリングや心理療法をどのような立場から行う場合であっても、ラポールは共通した基本的な前提条件として重視されている。
Wikipediaより抜粋
フランス語で「橋を架ける」の意味があります。
心理職、カウンセリングやキャリコン界隈ではよく聞く言葉の一つですよね。
一言で表現するなら「共感に基づく信頼関係」でしょうか。
跡継ぎ息子は、親子関係以外に、社員との関係にも悩みます。社員との間に「ラポール」はどう作ればいいのだろう?
「何故いつまでも自分は認められないのか?」
「会社を改革しようとしても、社員の賛同が得られない、反発を受ける」
「堂々としていると生意気、偉そうと言われ、謙虚にしていると自信無さげ、頼りないと言われる。一体どう振る舞えば良いのか?」
「◯代目として、社員や取引先とどうコミュニケーションを取ればいいのか?」
社員との信頼構築が上手くいかず悩んでしまう後継者がとても多いということです。
自分の小さい頃を知る古参社員がいて、いつまでも子供扱い。やることなすこと全て斜に構えた態度で応じられていたらやりにくいことこの上ない状況。
これまで会社へ尽くし実績を積んできた古参社員にはそれなりのスキルもありますし、長く行ってきたことを変えようとすると「先代とともに戦ってきた」という自負のある古参社員達と対立、意見が割れてしまう例も少なくないと聞きます。
先代と比較されたら勝ち目なしです。
時間と経験では勝てないです。
過去にも勝てないです。
でもこのままではいられない。
この先を考える必要がある。
変化していく必要がある。
後継者としてどのように従業員たちに歩み寄ればいいのかとても難しい問題です。
では後継者にできることとは。
相手を信じることから始める。
そして地道に信頼を得ること。
これにつきます。
チャーリーの場合。
従業員たちにしてみれば、戻ってきたとはいえ「一時は敵前逃亡して故郷を離れようとした息子」です。
ずっと信頼してついてきた社長が急死したのですから従業員の間に動揺もあるでしょう。
チャーリーが信頼されるためには、まずチャーリーが従業員を信頼すること。
経営課題に関する苦悩
チャーリーは社長就任早々に、従業員たちには知らされていなかった経営難の現状を知ることとなります。
納入先を失い大量の在庫を抱えている現状。しかも契約終了したのに生産ラインは相変わらず売れない商品を作り続けているという😱😱😱
プライス社は伝統的な工法で伝統的な紳士靴を、誇りを持って作ってきました。
しかし時代はファストファッション。
スロバキア製に代表される廉価な商品が市場を席巻しているのです。つまり売れない。
チャーリーはスロバキア製の靴を見て
「10ヶ月しか持たないな。うちの(靴)は一生ものだぞ」
と鼻白む場面が出てきます。
そんなチャーリーは普段スニーカー履いてるんですけど、ね。
プライス社が時代の流れに取り残されて資本主義的競争社会で脱落しかけている厳しい現実をチャーリーが知るのです。
とりあえずチャーリーにできることはリストラによる人員削減でした。
起死回生の一手
前社長が先送りにしてきた、いわば負の遺産を新社長チャーリーが早急に清算しなければならないのです。
端的にはリストラを言い渡す役目……誰だってやりたくない役目ですよね。
リストラ対象の従業員とひとりひとり面談(という名の説得)をしていきます。退職を切り出すも心苦しいチャーリーは、いつも苦し紛れに自嘲気味に言うのです。
「僕のせいじゃない。僕に何ができる?」
従業員は文句を言ったり怒ったりしながらも最後は頼りないチャーリーに失望して辞めて行きました。
でも、ある若手女性工員ローレンだけは違いました。
いつものように諦めムードで「僕のせいじゃない。僕に何ができる?」と言う社長チャーリーに対して、ローレンは呆れつつも文句ではなく苦言を呈します。
工場を存続させるために前向きに動くことを提案するのです。
具体的には
製品を変える
ニッチ市場を狙う
作戦です。
ローレンから気づきを得たことで、チャーリーは初めてリストラ以外に活路を見出そうとします。
そして、ロンドンでローラとの偶然の出会いからチャーリーは新たな商機を思いつきます。
それは……
proper, good, decent, built-to-last boots for women... that are men?
特殊な?女性向けの、真っ当で頑丈なブーツ
驚くローレン。
でもすぐに「ニッチ市場どころか、ビッグ市場かもよ!」と盛り上がっています。(一時は馘になりかけたローレンでしたが、ビジネスアナリストとしてチャーリーの右腕に😊)
父の「理想の息子」
チャーリーは「特殊な女性向け」のブーツを一人で作り始めます。
真夜中の工場で、慣れた手つきでひとり機械を動かすチャーリー。
試作品第一号を完成させローレンに見せます。
チャーリーだって、父から(正確に言うと曽祖父から)受け継いだ工場を復興させたいと思っているのです。何とかして従業員を守りたいと思っているのです。
親の期待に応えたい。
親を喜ばせたい。
それなのに、応えられない自分はダメな人間なんだ。
親を失望させている自分が不甲斐ない。
長い間自分を責め続け、ずっと苦しんできた息子たち。
子供の頃から跡継ぎとして期待をかけられてきたチャーリーの、なかなか他人から理解されない苦悩でした。
チャーリーとサイモンの【対話】
ある日、ローラはドラァグクィーンの女装ではなく男のジーンズ姿で工場に来たことで口の悪いドンに心無いことを言われ嘲笑されます。
傷ついたローラはトイレに籠城し、心配したチャーリーが様子を見に行きます。
そこでローラが自分の生い立ちをチャーリーに話し始めます。
ローラの本名はサイモン。
元ボクサーの父親からボクサーとしての将来を期待されて厳しく育てられますが、物心ついた時からサイモンの心は女子であり、こっそり女装をしてハイヒールを履いてダンスをしては父に見つかり叱責されてきました。
それでも父の期待に応えたくて、本当の自分らしさを殺して、厳しいボクシングの練習に耐えてきたのに。
自分がゲイであることをカミングアウトしたことで、父に勘当されて死に目にも会えなかったサイモン。
「順応なの。皆に溶け込み目立つな。」
目立つならボクシングで。父が息子に望んだこと。
ローラがサイモンとしての自分を包み隠さず話していくうちに、チャーリーも自分の話をし始めます。
「父の望みもそれ。僕が会社になじむこと。
僕の方こそ、ここ(トイレ)に隠れたいよ。どうも社内で浮いてるんだ。聞いたら父が悲しむね。その心労で(父は)死んだのかな」
子供の頃から父親の期待を背負いながら生きにくさを抱えてきて、ロンドンで全く違う仕事に就こうとしていたチャーリー。
チャーリーもローラ(サイモン)も、父親は自分と同じ道を息子に踏襲させたがった、しかし父親が望むような息子の姿になれなかったことに息子は悩み続け葛藤していました。
父親の気持ちを裏切りたくはないけれど、自分を見失わないためには、父親の理想とは異なる自分を受け入れなければいけない……自分が自分を認めることができなければ、他人も自分を認めてくれることはないのですから。
お互いの境遇に共通点を見出したチャーリーとローラの間に、友情のようなものが生まれました。
「わたしたち、堂々と振る舞わなきゃ」
自分を見失わないというのは、自分らしさを受け入れ堂々と自分の人生を生きること。
サイモンがチャーリーに手を差し出します。
「田舎のチャーリー。
僕は、都会のサイモン」
改めての自己紹介。二人は初めてしっかりと握手をします。
孤独な経営者の決断
婚約者のニコラは工場をデベロッパーに売却するようチャーリーに迫ります。採算の取れない工場経営に関わってほしくないのです。
でもチャーリーは売却話をはっきりと拒否します。
工場は一族の歴史なんだ。It's the history of my family.
チャーリーは工場を守りたいんだと言い張ります。
ニコラは思わず、チャーリーの父が生前、工場の売却話を密かに進めていたことを話します。
初めて聞く話にショックを受けるチャーリー。
お父様に負い目を感じることないわ。チャーリー、あなたは自由なのよ。廃業することもできる。
You see, you owe your father nothing,
Charlie Price. You are free. To walk.
ニコラにそうまで言われたチャーリーは長い間一人悩み考えぬき……一人である決断をします。
工場に向かうチャーリーの足取りは堂々としています。
僕のせいじゃない。僕に何ができる?が口癖だった、決断を先送りにしていたチャーリーは変わったのです。
ミッションの共有
【コミュニケーション不足】
チャーリーは従業員たちに新方針を宣言します。
ダービー靴(チャーリーのお父さんが履いていた型)やブローグ靴類👞の生産を中止、完全にキンキーブーツの生産一本に絞る、そしてミラノの見本市に参加する!
やれやれといった従業員たちの顔。
そりゃそうです。プライス社の主力商品をやめて、新製品、それもキンキーブーツ一本で行く!ミラノに行くぞ!と急に言われても……ですよね。
従業員たちはチャーリーの覚悟を知らないから仕方ありません。
社運とチャーリーの全私財をかけて、工場と従業員たちを守ろうとしていることも、一人悩み抜いて決断したことも知らないのですから。
さらにミラノの見本市への参加❗️
聞いてないよー‼️ですよね。
しかも、ミラノ行きにピリピリして、説明もろくにない。
従業員にしてみれば、土曜日も出勤して頑張って仕事しているのに社長からは労いの言葉をかけられず、何度もダメ出しとやり直しを命じられ注意ばかり。
そりゃ、従業員たちからの反発も出てきます。
ミッションの共有がなかったら社員がついてこないですよね。がんばろうにもがんばれない。
完全に【コミュニケーション不足】です。
土曜日の午後まで、ミラノ見本市の準備に追われる従業員たち。
黙ってチャーリーの指示に従ってはいますが、内心は不満爆発10秒前って感じです。
ついに、古株の工員メラニーとチャーリーで口論になります。
チャーリーにしては珍しく語気荒くメラニーへの指示を撤回しませんし、彼女も一歩も引きません。
(作り直しを命じたのは)質が悪いからだ
But, Mel, they werert good enough.
先代とは違う(前はこれで十分だったのにチャーリーは厳しすぎる)
They were good enough for your dad.
僕は父じゃない。
But I'm not my dad.
本当にそうね、チャーリー。先代は人間ができてたわ。
Hey. I'll tell you what, Charlie Price. Never a bloody truer word.
先代の父と比較される……一番されたくない比較です。
まあお互いに売り言葉に買い言葉なんですが💦
メラニーが憤然と工場を出ていくと、他の従業員たちも後に続いて工場を去ります。納期は迫っているのに従業員たちはほとんど帰宅してしまいラインは完全にストップ。
ミラノ行きは差し迫っているのに、チャーリー社長大ピンチです。
いくら社長一人ががんばってもついてきてくれる従業員たちの協力なくしてはミッションも実現不可能です。
チャーリーが風に当たりに外に出るとローレンがやってきました。
僕の代で工場を終わりにしたくなかった。それだけさ。
I suppose I just didn't wanna be
the last photo in the line, you know?
The Price who left nothing.
社長室には歴代社長の肖像画や写真が飾られていて、いつも新米社長のチャーリーを見下ろしています。自分はその系譜の最後の一枚になりたくない、何も成し得なかった人にはなりたくない、とチャーリーは言ったのです。
ローレンはチャーリーの話をしっかり聴いてあげてからこう言います。
人が何を成し得たかは、ほかの人の心に何を残したかで測るべきよ。
Maybe you shouldn't judge it in
bricks, Charlie.
Maybe you judge what you leave behind by what you inspire in
other people.
このローレンの言葉にチャーリーは少し救われます。
失意のままチャーリーが工場に戻ると、工場には明かりがつき、機械の稼働音がしています。
チャーリーが中に入ると、従業員が全員戻ってきてそれぞれの持ち場の仕事をしています!
ティーレディーも忙しそうです☕️
チャーリーがローラに「君がみんなを集めたのか?」と聞きます。
(ドンを指差して)彼が偏見を捨てたのよ。
Rather rose to the challenge of changing his mind about someone.
君への?
You?
いいえ、チャーリー。あなたよ。
No, Charlie. You.
チャーリーの工場存続への思い、従業員の雇用を守ろうという決意をドンが知って、チャーリーを仲間として受け入れたのです。
そして、ドンがアクションを起こしてくれました‼︎
ドンが従業員たちを説得し呼び戻してくれたのです。
この場面、チャーリーの感極まった表情のアップになるのですが、いつ見ても胸が熱くなってしまいます。
さて、無事プライス社はミラノ見本市に参加できるのでしょうか?
(と微妙にネタバレを避ける表現にしてみました。結末は是非本編で確かめてみてください。泣けます❗️)
伝統は革新の連続
この言葉は日本を代表する和菓子の老舗、虎屋17代当主黒川光博氏の言葉として有名です。
(もっとも最近のインタビューで黒川氏は「伝統と革新」という言葉はここ十年ほど自分からは使わないことにしている、とおっしゃっています。)
何百年という長きに渡り商売を続けてきた老舗には、時代とともにお客さまが求める価値観の変化に柔軟に対応し続けてきた歴史があります。
いつの時代にも、時代の流れを読みつつ「革新」を繰り返し、変化しながら成長し存続してきたのです。
存続するための弛まぬ努力として「つねに自己を見つめ、未来を見つめています」と黒川氏は述べていました。
チャーリーも「工場再建のために何をすべきか」を必死に考えました。過去にとらわれず、現在と未来を真剣に考えました。
ローレンのアドバイスもありましたが
時代が求めるものを作る
誰のために何を作るのか
このことにフォーカスしたことで活路が開けました。
(この映画のモデルとなった靴工場はその後残念ながら廃業してしまったようですが💦)
また、経営者にとって「時代を読む」以上に大切なことは「従業員を大切にする」ことです。人は財産だからです。
最後に……映画のラストでローラが舞台でチャーリーを称賛した時のセリフを記します。
(その経営者=チャーリーは)工場は建物ではなくて人だと知っている。
……it contains a shoe factory struggling to survive against all the odds. (中略) it's run by a man brave enough to recognise
that a factory is its people, not its bricks.
とても胸の熱くなる、見終わったら元気が湧いてくる映画です。
機会があれば、是非ご覧になってみてください!
最後まで読んでくださってありがとうございました❤️