たぬき
たくさんあるお題を眺めていた時に「私の不思議体験」のタグ、これでふと思い出した。
あれは幼稚園児の時。
ある日、普段から特別仲がいいってわけではなかった子となぜか遊ぶ約束をして帰った。
園から一度家に帰ったあと、ひとりでその子の家へ向かう。
逆U字の坂道を上り途中の一番高い所で、更に上へと伸びる長い階段を上がる。階段の先には更に上り坂が続く。
上がってばっかりだったけど、特にしんどかった記憶はない。
階段後の坂道の途中でふと左側から視線を感じたのでそちらに目をやると、会社の駐車場のようなところに一匹のたぬき。
じっと見つめていると、ふいっといなくなってしまった。
その後もう少し歩いて友達の家に着く。
友達の家で何をして遊んだのかは忘れてしまったが、平日なのにお父さんが家にいてゆっくり新聞を読んでいる姿が羨ましいと思ったことと、殻ごとゆでたピーナッツがおやつに出てきたのがとても印象に残っている。
そのようなものを今まで食べたことがなかったので、驚いた。
そして夕方になり、普通に帰宅した。それだけの記憶。
しかし大人になって思い出した時、色々と「あれ?」と感じるようになった。
まず、うちは幼稚園児の頃に1人で出かけさせるような家庭ではなかったはずだ。
母に確認すると、やはり子どもの頃に1人で外出させた記憶はないらしい。
更に、坂道の途中に階段なんぞ存在しなかったらしい。
これは納得できなかったので父にも聞いたが、「いや、階段なんかない。」と断言されてしまった。
そして自分としても一番納得がいかないのが、その子の家に行くのは初めてなのに、なぜ家まで迷わず行けたのか。
なんの案内もなく。
幼稚園児が、同じく幼稚園児であるはずの友達から聞いただけの道を、1人で行くのは割と難しいはずだと思う。
ましてや私は方向音痴だったし。
そして決定的に不可思議なのは、その友達の顔を全く思い出せないことである。
確かに記憶力が良い方ではないけれど、その子のお母さんとお父さんの顔は思い出せるのだ。
なんだか色々悩んだ結果、「あ、これは途中で会ったあのたぬきに最初から騙されてたんだわ」と思うようになった。
真実は闇の中。