雨の合図
青々とした空、一輪の雲さえない青空。
その空の隅っこに、薄青色のリボンが結ばれている。
もうすぐ、雨よ、の合図だった。
雨の匂いの、淡い気配すらまだ無く
ぬるい空気が周囲を行ったり来たりしている。
時折、金の鱗の回遊魚が、その狭間を
ゆらりと泳ぎ、きつい太陽光で
その鱗を眩しいほどに光らせては消えた。
少しばかり経ってから
もう一度窓の外をみると
空の端に、重々しい暗色の雲が
青空の舞台に緞帳を下ろす様に、
そろりとこちらへ向かってきていた。
それ見たことかと、笑う回遊魚の光る目玉と
目が合った。
その瞬間、青空の欠片をまだ残したままの
空から大粒の雨が、ばらばらと落ちてくる。
ハナミズキの木は嬉しそうに、
花弁に水滴を乗せて遊び始めた。
ほんのりとした頭痛を抱えて
甘い煙草に火をつけると
オイルライターの小さな火が
太陽に擬態して、ころころと笑った。
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