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さんらんする抱擁たち
あなたに抱きついたこと
おいそれと忘れたい
あなたが抱きついたんだったか
わたしが抱きついたんだったか
わたしにあなたが乗っかってきたんだったか
あなたがわたしに乗っかってきたんだったか
そりゃもう覚えていない
覚えていられないことばかりがあって
覚えていたくないことばかりが
さんらんする
3時間だけ入る
レジのアルバイトで
誰に何を売ったかどう支払ったか
お釣りがいくらだったか
レジ袋は買ったか
レシートをどうしたか
そりゃもう覚えていない
覚えているわけがない
覚えていたら私は機械だ
あなたに抱きついたことは忘れたい
あなたに触れたことは忘れたい
あなたに声をかけられて
答えたわたしを忘れたい
めのしたのくまがひろがりますに
あなたの夜が伸びますように
白々しい心がふうっと
きれぎれの配慮を
思い出させるように
黒ずんだそのめだまが
あなたとわたしをグッと見守る
あおもきいろもあかもむらさきも
よるもあかちゃんもいぬもきのうも
わたしにはなんにも関係なんてない
なのにどうして
こんなに触れてないといけないのか?
ふっとしずかになる瞬間に
わたしがなんとなく抱きしめた
風が弱いから汗をかく夏の夜みたいに
ふわっと思い出したどっちつかずの気持ちに
ひなたでみたあなたの笑顔が
もうひかげに隠れて見当たらない
困ったなあと首を傾げてると
あなたのことが横滑りする
地の果てに落ちてゆく
空はクスリ漬けにされたみたいに真っ青で
私を見つけている
わたしはあなたがくすっと笑うまで
機械になったつもりで生きている
川の音をたてながら