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coe変わり、知echo(-es)抄

たいへんですよ!せかいがこわれましたー
「歓待を持ったお告げ」より

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 ぱぴぴ市ぷぷ町鏑木病院前の交差点を直進すると合図川の出合頭橋というのがあって飛び込みの名所だった。その右岸から左岸にわたる形で、つまり北進すると、といってももろに真北ではなくやや西寄りの北、北北東なのだが、南進してきた人物とすれ違うとき、もうずいぶん前のことだが、斬り合いがよく起こったことから出合頭橋という。鞘当てなる無礼もさることながら、顎に生えた一本の長い髭に気づいた地侍が、百姓の中年を切りつけ、ぱっくり開いた肩口から乳輪の間の茂る胸毛をかき分け、腰骨のぷっくり膨らんだ腹にのるあたりにかけて一直線に裂けた傷口からは、しばしば鮮血ではない合図川に咲く彼岸花のような朱色がことごとく橋の欄干を彩り、彼岸花が此岸にまで及ぶようだった。

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 いま現在のぱぴぴ市においてもこのような決闘じみた厄介ごとが起きているが、田舎なので血の熱を余らせた若い衆の小さな揉め事から、都市部から逃れた余所者のヤクザが普通列車しか停まらない駅の裏にあるガヤ街でぼったくりを横行して宿代が払えぬ低賃金労働者に制裁を加えては、払いきるまで肉体労働を従事させているという。合図川の下流、海とつながるあたりで広い三角州があって、そこの堤防を作るらしい。もうぼくたちがこの町に根を張り、暮らしてから10年は経つがいまだにその三角州は人が暮らせるほどの規模と安定性を築いてはいない。


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淡い光が吹き込む窓を
 遠い田舎が飛んでいきます
  ぼくはたばこを咥え、一服すると
   君のことを考えるんです
(「抱きしめたい」はっぴいえんど)


 絡まった糸のような毛をむしり、夜が明けた。日差しが雲を溶かすまでぼくらが知っていることをいくつか話しておきたかった。ぼくらは川辺に「彼等」を見かけて、目撃者になるよう指示されていた。これで今月のくらしは繋がる、漠然とぼくらは安心していた。ちょっとの金でこの町で暮らせてしまうのは家賃がない建物に暮らしていて、職業の斡旋なんて都市的なものはなく、なにか公民館に張り出されている指示をひとつふたつ答えてしまえばひと月の食費は賄えてしまう。光熱費を収めることもない。ガスもないし電気もない住まい。合図川に水を汲んで、ぼくが火を吹いた。ぼくには火が吹けた。おかげでタバコは吸えなかった。一緒に暮らしてるシューゲイザー竹下さんはぼくが吹いた火でタバコを吸うし、川の水を消毒もする。沸騰させれば雑菌は死ぬと彼は灰を拾った鍋にいれた川の水を落としながらそう言っていた。ぼくらは合図川の岸辺に向かい、朝から見張って、彼等が予定通り、ことを行うのを傍観する必要があった。シューゲイザー竹下さんを起こそうとしたが彼は赤子のように駄々をこねてしまった。
 ぼくたちウィトゲンシュタインヨコヨコとウィトゲンシュタインタテタテはずんぐりむっくりの格好をして靴を玄関で履き直した。すると家の鍵と財布をダイニングの戸棚に置きっぱなしにしたままだったのに気付いてまた靴を脱いでウィトゲンシュタインヨコヨコは取りに行った。背の低いウィトゲンシュタインヨコヨコは靴を脱がずに膝立ちをして玄関の先へ行こうとするウィトゲンシュタインタテタテを制して潔く靴を脱いだわけだけどこの靴を履くのにピンクフロイドのおせっかいが聴き終えてしまうくらい時間がかかるからウィトゲンシュタインタテタテはApple Musicでライブラリからその曲を探すためにスマホを取り出そうとしたけど、とうのウィトゲンシュタインタテタテのスマホはベッドルームのコンセントに挿しっぱなしの充電器に絡まっていることを思い出してウィトゲンシュタインヨコヨコに頼んでスマホを取って来るようにお願いした、ウィトゲンシュタインタテタテはスマホに絡み付いた充電器のコードをどうにかこうにか解こうとしたがまるで蜘蛛の巣のようにまとわりついてくるので右手に絡めたまま家の鍵と財布をもう片方の手で掴み、ヨタヨタと玄関に戻ってきた。ウィトゲンシュタインタテタテは途方もない長さのある廊下のことを思い描いていたら本当にウィトゲンシュタインヨコヨコが戻ってくるのに時間がかかってイエスの「海洋地形学の物語」が思い出された。ぼくらは根っからのレコード信者だったけど、ぱぴぴ市にある唯一の中古レコード屋の店主が大麻と未成年淫行で逮捕されて以来Apple Musicを使い始めた。ウィトゲンシュタインヨコヨコもウィトゲンシュタインタテタテもプログレッシブロックを聴き続けてきた。親の代わりに育ててくれたデッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーがプログレを聞けば前進的な大人になれるって教えをふたりは守って生きてきたわけなんだけどいざデッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーが死ぬと前進がよくわからなくなって、そもそもどっちに進んだらいいのか進んでいるのか進むことができるのか前ってどっちだ明日はどっちだ、昨日はどっちだ、過去はどっちだ、明日はどこだ、未来なんてあるのか、明日が前なのか、前ってなんだ、進むことができるのか、とだんだんわからなくなってきて、そうしているうちにウィトゲンシュタインヨコヨコはパンクにはまって、ウィトゲンシュタインタテタテはサイケにハマった。ウィトゲンシュタインヨコヨコはアナーキー・イン・ザ・パピピと名乗って幼女を誘拐したこともあった。ウィトゲンシュタインタテタテはヴェルベッド・アンダーグラウンドばっかり聞いて毎日がサンデーモーニングだと思ってしまったしヘロインは俺の奥さんさ愛してるって繰り返して職質されまくって警官とライン交換してラブホでハメたりしてた。サンデーモーニングになると「あっぱれ」か「喝」しか言えない可哀想な高齢者が出てくるワイドショーを見てTwitterで実況している社会を恨んでいる一般以上男性の禿げ上がった頭頂部を狙って脱糞して回った。申請かまってちゃん。
 ウィトゲンシュタインタテタテもウィトゲンシュタインヨコヨコもデッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーが死んで間も無く、性的なイニシェーションを通過した。それは市役所に張り出された業務の一環で、彼ら、いやぼくら双子のまえに自称49歳の独身女性があらわれて童貞という部位を攫っていってしまった。ウィトゲンシュタインヨコヨコもウィトゲンシュタインタテタテも何が起こったかわからなかった。とおり雨のように過ぎた身体に迸る感覚をふたりは「フォーエバー・エンデバー・ノーゼンバー・レイン」と呼んだ。11月とは関係ない。ウィトゲンシュタインヨコヨコもウィトゲンシュタインタテタテも何かを名付けないと気が済まなかった。何かに何かを名付けないと何かが可哀想だと思った。住処に生い茂る雑草をむしらないといけないとき、こころのムクムクおよぶ何かを名付けたくって仕方なかった。ウィトゲンシュタインヨコヨコはそれをムカつきと名付けた。ウィトゲンシュタインタテタテは哲学的過小評価と名付けた。ぼくよりぼくのことをひどいといえる君が大事だったしぼくはものすごく泣きそうになってしまう、そんな夜のことをウィトゲンシュタインヨコヨコは「〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃん」と呼んで、ウィトゲンシュタインタテタテは「言語ゲーム最終ラウンド無階級特進デスマッチ」と名付けた。いつかまた会えるときにあなたのことがまだ大切に考えれるかを考察する女の子に映えたアホ毛のことをウィトゲンシュタインヨコヨコは「世善」となづけ、ウィトゲンシュタインタテタテは「形而上学的間抜け」と名付けた。ウィトゲンシュタインヨコヨコは詩的だったのに対してウィトゲンシュタインタテタテは哲学的だった。彼等の住処のむかいに住む超合金ハイデガーおじさんはぼくらの言語ゲームをみては存在について悩んでいた。

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 原っぱだらけの町中を歩きながらウィトゲンシュタインヨコヨコは大森靖子の歌を口ずさんで泣いていた。ウィトゲンシュタインタテタテはダディーと勝手に呼んでるネコを抱きしめて実在感を味わっていた。
 この町には悲しみが立ち込めていた。原っぱがあって、廃屋が道に行列を作って炊き出しを食べていた。愛を知らない子供達が串刺しになってぼくらを笑っていた。車を積んでできた橋の上から生娘が首を吊っていた。鴉が朝を教えて、鶏がさよならだけが人生さと教えてきた。猫は実在ほど単純にあやふやなものはないと教えてきた。婦人が股を開いて陰毛を子供に嗅がせていた。労働者たちは金銭を謳って踊って資本家を火炙りにしていた。国道は大雨が食べてしまった。そんななかで合図川だけが律儀にかつてあったままの姿で人びとに「死ね」と唱えていた……


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 座屈した家屋の瓦礫を歩くのは至極難しく、時々足が抜けて空っぽの部屋に放り込まれることがある。野原に住むかつての住民たちは土のなかから荒い息で地面を震わせている。ウィトゲンシュタインヨコヨコもウィトゲンシュタインタテタテも、それが一介の音楽ではなく、むしろ不協和音の一つとして捉えていた。彼らは、いや僕らは生まれながらにしてタテタテだとかヨコヨコだとかというよりかは、譜面の進行のように左から右へ流れてくる、つまり横文字の原罪性を、あるいは音楽の進行を、音楽が進むことで初めて音楽たり得ることを、音楽に停止は音楽を音楽としないことを知っていた。音楽が停止したとき、そこにあるのは静寂であり、沈黙であった。この町にはそうした沈黙が断続的に起きる。沈黙は時間を止める。地面が彼らの呼吸で震えるたびにそれは進み始める。地面が止まると一日は伸びた。ひどいと一週間くらい経ってもまだ朝だったことがある。そうすると合図川を渡った向こうにある喫茶店ではずっとモーニングが頼めて、僕らは七回トーストとゆで卵をサービスで食べた。その喫茶店は自らのたてた決まり事のために、卵を調達できないことから破滅を招いた。ぱぷら丘の向こうにある鶏農園をダイエットコカコーラと丸鋸で襲撃した。小屋の屋根が落ちたとき、梁にかけられていた時計の針が動き出して彼の暴力が徒労に終わったことを知ったとき、丸鋸で血管を裂いて鶏が群らがるなかへ倒れた。喫茶店には連続するコーヒーカップが無造作に積まれて、卵が発酵して音を立てて割れた。
 合図側に行くにはまだまだ、まだまだまだまだ歩かねばならなかった。背の低い足の短いグズでどうしようもないウィトゲンシュタインヨコヨコは詩に頭をやられながら足元の瓦礫をひょいひょいと駆け抜けていく軽やかなウィトゲンシュタインタテタテをうとましく見つめていた。ウィトゲンシュタインタテタテという名前のくせに彼は音楽の譜面の進行をよく知り尽くしているように思えた。ウィトゲンシュタインタテタテは上昇思考を扱える一方で、自らの哲学的な思弁を唱えたときに一気に落ち込むこともできた。結局高低差の高い彼は、いやぼくは、いつしかそうした気質の上がり下がりを山や谷に例えがちだった。ウィトゲンシュタインヨコヨコはこの街の構成においては、むしろウィトゲンシュタインタテタテが持ち得ている上と下の軸、そして平面における、自分や或いは土地の性質が持ち得ている過去から未来へ、左から右への軸が共存しあって初めて世界が見出される、そんな気持ちがしていた。だからより一層ウィトゲンシュタインヨコヨコが持ち合わせていないとならない「明日はどっちだ」というプログレッシブの喪失はこうした平面の迷子がいくら高低差があっても、いつまで経ってもその場にいることがどういうことなのか、というかぼくらは今どこにあるかなんて高さの問題ではなかった。高さなんてものは山へ登って眺める雲海や、タワーに登った時の眼下を歩く人々の小ささや、谷底へ落ちたときの切り立った崖を見上げるときにしか見出されない。ウィトゲンシュタインタテタテは案外気付かれないのかもしれない。彼はそれを時々快くそれを感じ、時々それを猛烈に寂しく触れているらしかった。合図側の土手が瓦礫の山の合間合間から見えてくると川を渡って走っていたらしい線路がとぐろを巻いて野原にいくつも落ちていて、ウィトゲンシュタインヨコヨコもウィトゲンシュタインタテタテも猛烈に興奮した。
ちょっと歩き疲れたから休もうよとウィトゲンシュタインヨコヨコはウィトゲンシュタインタテタテに提案した。ウィトゲンシュタインタテタテは特に疲れたという感はない、などと「○○感」という言葉の濫用を振り回してきた。そしてその反応とは裏腹に手脚を進めるのを休めて空を見上げ始めた。スマートフォンを取り出すと住処に残してきたシューゲイザー竹下さんにメールを送っていた。シューゲイザー竹下さんもぼくらが出かけてすぐに住処を飛び出して、電車で10分くらいの繁華街へ向かって出会い系で知り合った女と薄暗い不気味な四畳半の部屋で尻の穴に絵コンテを差し込む遊戯をしているという。尻の穴に絵コンテを入れて何をするのかウィトゲンシュタインタテタテにはわからなかったが、ウィトゲンシュタインヨコヨコは熱力学第二法則に則った真っ当なアニメ映画でも作るのだと納得していた。ウィトゲンシュタインタテタテは庵野秀明を思い返した。絵コンテ絵コンテ、絵コンテ。デッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーが似たような音韻の言葉を唱えていた気がしたが、ビオランテ、ビオランテだったか、おでんぺ、おでんぺ、だったのか、おでんせ、おでんせ、だったか、あるいはメモって!メモって!だったかもしれない。ウィトゲンシュタインヨコヨコはウィトゲンシュタインタテタテの思い描いている「絵コンテ」という単語への既視感をあきれた調子で見ていた。それはなんだかそんなことがあったような気がするなという錯覚に過ぎない。ウィトゲンシュタインヨコヨコはスマホの時計をみた。腹筋をもって振り回したように合図川の土手がだらだらと土飛沫をあげて階段をむき出しにした。川が射精するところを見たことがあるかとシューゲイザー竹下がこの川辺に来たときにきいてきたことがあったがよくわからはなくて無視していた。合図川は白く濁りきっていた。海鮮の腐った臭いがした。鼻を覆いたくなってのけぞったウィトゲンシュタインヨコヨコは前進性について全力で殴られたような気がしたし、ウィトゲンシュタインタテタテは地に伏した気持ちになった。

要するに死にたくなったらしい。

 ウィトゲンシュタインヨコヨコは見えているもの触れているもの匂っているもの聞こえているもの眠っているもの触れていないもの軒下にあるもの心の代わりにならないもの身体を縛りつけるもの行動を抑制するもの触れられないもの心変わりを見ていた気がした、それがいくつかの要因によって複雑に絡み合ってあるいはがんじがらめになって此処に、かしこに、あるいは見当たらないところへ、ここではないどこかに、煙のように大気に薄れて消えていくいくつものくだらない感情のために、それが戻ってくることのをのぞむために叫ぶことを忘れるために嫌いだったことも好きだったことも言い訳にできないことも理由がないことも理屈だらけで構築されていることも線路みたいに分かりやすいことも性行為みたいによくわからないこともレコードが歪むこともサブスクがむなしいこともお金がないことも生活に支障もないことも生活があじけないこともこれからいくつもの夜を超えて何度も何度も反復する気持ちのいくつかもいずれは鼻で笑ってあのときは馬鹿だったなと思えることもよく考えたら子供だったのかなと見える影も筋違がいくつも重なり合うように骸が積まれる夜も座屈する赤い朝も翌日も翌々日も昨日も明後日も一昨日も昨年も来年も10年前も自分が生まれるずっと前のことも好きだったミュージシャンが自分の生まれるずっと前に死んでいても死ぬ寸前に死を予感していても金縛りに合うことも夢精することもあるときふと君のことを思い出せたらそれでいいのにいつまでも脳の腫瘍のように蔓延ってくることも眼科は何時間も待たされることもガソリン代を捻出するのが面倒で歩いてしまうことも瓦礫の中に見える暗闇もあなたの瞳の奥のきらめきもそっと背けた君たちの笑顔もぼくらの知らない陰口も必ずやってくるあの人のこともシューゲイザー竹下も酔っ払うとすぐ真っ赤になるひとのことと居酒屋にいたこのあと二人っきりになったら面倒になる男女も疲れ切って干物みたいになったサラリーマンも彼らを乗せてひたすら街の下を駆けずり回る地下鉄も空まで届くビルの群れも愛を知らない子供達の寝息も毟られる雑草たちも消えていくことが怖い心残りも姿がもう見えないあの友達も中退していった名前しか知らない同級生も工場で働いている日雇いもベルトコンベアを流れる缶詰も知らないうちに君のそばにいた空気も血を啜る吸血鬼もさよならが言えないあの子もネギを落とした老夫婦もしらばっくれてるひき逃げの男もあなたの口からはみ出した悪口も余計に買いすぎた食べきれない肉も締まりの悪い腰のくびれも白い頬も泣きじゃくる子供の顔もとても掴みきれない黒い猫も夜明けと共に目が覚めることも夜中にぶつ切りになる眠りも無神論者の疑問も外の世界へ向かって投げられていく言葉、言葉、ことば、なみだ、あみだ、あみま、あいあ、あいあ、あ、ああいあ、ああだ、あいだ、あだ、だ、だ、だ、だあだ、

だあああ、ばあああぁぁぁぁ…………


 それは慢性的にしがらみを自らに課している、ぼくらはそれでなんとか取り持とうとする、取り出そうとする、期間を設けようとする、幅を取ろうとする、測る、はかる、かる。ウィトゲンシュタインヨコヨコは合図がくるのを待っている、いったいいつまでこんなことをしていないといけないのかと退屈を覚えながら足をトントントントン震わせながらまちのぞむ。ウィトゲンシュタインタテタテは隣で地面に陥没してしまった。アンカーボルトを何本も持ち出してきた、オルタナと名乗る男が地面にそれを差し込んでウィトゲンシュタインタテタテの周りに木枠を組んでコンクリートを流し込んだ。何をしているんだとウィトゲンシュタインヨコヨコは彼を止めようとしたけどすでにウィトゲンシュタインタテタテはコンクリートに埋まってしまった。オルタナは額の汗を拭い、静かにこれは君に必要なことなのかときいてきた、ぼくはわかりませんと答えるべきなんだろうと直感したけどうまく発話ができなかった、どこかこれが何か見間違えたことであって実際は違うことが起きているとか、あるいは戻るマークを押せばひとつ前の段落に戻れる気がしていたのだ。オルタナという男はこれ、君たちは公民館に張り出されていた指示に従ってきたんだよねと確認した、ぼくははい、そうですと答える、それは答えになっているのかわからなかったが、オルタナはそうかと言ってボルトをいくつかベルトに巻き込んでいた麻袋にしまってこちらもそうした指示に従って基礎を組んだと言った。ぼくは意味がわからなかった。基礎って何だときくと君やこの中の人には基礎がなっていない、基礎がなっていないと破綻するんだよ。あの街の道にいっぱいあるでしょ。ああいうふうに人間もなるんだ、いきなり応用編に触れて勉強が嫌になるってことあるだろ。一つ一つ簡単なところから少しずつ触れていけばいいんだよ、きみたちみたいな人間はね、相方はすっかりうまく固められることができたんだ。ぼくはなんとなくだけどデッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーの言っていた前進性を思い出した。それって、これって、ぼくらが前進できることですか。ウィトゲンシュタインヨコヨコはそう聞いた気がしたけどオルタナはちょっぴり塩辛い顔をしてなんだそれはと言った。前進ですよ、前進。前に進むってことですよ。オルタナは変な顔をした、歪曲していた、鼻の方から力が真下に進んで口を歪ませていた。そして朝袋からゴロゴロと鉄の棒を一つ取り出して口に咥えた、火はあるかと聞いてきた。ウィトゲンシュタインヨコヨコは火が吹ける、そう答えて彼の咥えた鉄の棒の先端を炙った。しばらくすると炎の設置面がゆらゆらやわらかくなってきた。オルタナは鉄は熱に弱い。だから海に行って波打ち際で溶接していたんだ、どういうことだとウィトゲンシュタインヨコヨコはまあ思えなかった、なにかの詩情をもちえた形而上学的な何かなんだ。何。オルタナはドロドロに溶け出した鉄筋の先端をぼとぼとと手に落とした。ジュジュジュッと掌が焼ける音がした、新しい人が目覚めた朝は赤いんだよ、オルタナはウィトゲンシュタインヨコヨコに言った。ぼくはこれからどうそのスーツケースを開けばいいかわからないと答えた。スーツケース?オルタナは聞き返した。ぼくには頃合いの死者を弔う手立てをデッド・デッド・グレイトフル・デッド・ダディーから教わることをしなかったからスーツケースに死者を積めることくらいなんとかなる気がしていた。
 合図がほら!聞こえてきたよ!!!

フォーエバー・エンデバー・ノーゼンバー・レイン!!

フォーエバー・エンデバー・ノーゼンバー・レイン!!

フォーエバー・エンデバー・ノーゼンバー・レイン!!


 シラフでふやけた笑顔をあなたにかけてしまうことももう忘れてしまえば繰り返してきた日々のいくつかの差異まで赤で治されてしまったりなんかして、完璧ななにかがわからなくなるまで凡人になってしまう……

 声変わりを抑えたようにぼくやわたしやあなたやここやあそこやこちらやそちらやどこやらいつもやときどきやうそやほんとうや今日や明日や昨日を橋が一斉に川の両岸からめいいっぱいの力が土手によって大きな肉の襞が割れを閉じるように座屈させて、合わせた手を高々に見せびらかして、みんな、声を高らかに感謝と恩恵をもって、大切に腹いっぱいにいただきます…………echo(-es)




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