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20代前半で鬱病になった話 最終回
鬱病になって良かった
計画通りにいかないのが人生だと聞いたことがある。誰かがテレビで言っていた言葉かもしれないし、本の中の一節だったかもしれないし、自分の親の台詞だったかもしれない。兎に角、計画通りにいかない…全くその通りだなと深く共感できる。
20代前半で鬱病になった。微塵も計画にはなかった。三年以上通院し、やっと27歳の終盤で鬱病を克服した。当然、計画通りではなかった。計画ではもっと早くに完治していた。
失う物しかないと絶望して打ちひしがれてばかりいた自分だったが、こうして鬱病を乗り越えた今だからこそ思うこともある。鬱病にならなければ、私は鬱病で苦しんでる人の気持ちを一生理解できなかったに違いない。鬱病になったからこそ、誰かの苦しみや辛さにちゃんと歩み寄ることができるようになった。
私が鬱病になってから数年して、周りの友人で心を壊す人が増えてきた。誰よりも先にそれに気づいて病院に行くように勧めることができたのは、鬱病を経験できたおかげだろう。「あんたに言われて病院行けたよ、ありがとう」「あんたに言われなかったらヤバかったかも」病院を勧めた友人からそんな感謝の言葉を貰った際、自分みたいに酷くなる前で良かったと安堵した。これはまさに、自分の鬱病の経験が活きた瞬間だった。
中学生の頃から趣味でノートに小説を書いて、高校生になるとネットで執筆するようになった。鬱病で引き篭もっている間、もう失う物はないし、時間だけは有り余っているのだから当たって砕けてみよう精神で応募した自分の小説がコンテストで受賞し、コミカライズされた。作家になりたいという夢がまさかの闘病中に叶った。自分の小説が原作の漫画の広告が山手線全て(高輪ゲートウェイ駅を除く)に貼り出されるという経験もした。鬱病にならないと執筆だけに振り切ろうなんて思わなかったことだろう。
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ずっと趣味程度に好きだった調理を極めるきっかけすらも、鬱病から貰った。仕事をしながら転職活動していたら、私は職業訓練という選択肢すら見ようとはしなかったと思う。調理師学校に通ったおかげで、年齢の違う素敵な友達に巡り会えたし、大好きな日本食の恩師に出会えた。調理師学校を卒業した今でも、友達や恩師とは連絡を取り合っているし、日本を経つ前はよく食事に行っていた。これからも大切にしていきたい人達である。
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蓋を開けてみれば、鬱病になって得た物も多かった。もう二度となりたくはないが、鬱病になって良かったと思う。私の敬愛する岸辺露伴先生も「経験はリアリティを生む」と仰っていたので、鬱で得た経験はきっと今後の創作活動の糧になってくれる事だろう。
エピソードを分けてここまで鬱病の実体験を綴ってきたが、私がnoteに記そうと思った契機が、自分が鬱真っ只中の時に他の鬱病経験談を読んで支えられたからである。
鬱は鬱になった人でなくては理解が難しいと思う。だからこそ、もしかしたら私のこの実体験が今何処かで苦しんでいる誰かに届くかもしれない。鬱と闘っている貴方の一瞬の苦痛を和らげられるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、今、文を考えている。
鬱は一人ではないし、永遠に続く物でもない。少し時間は掛かってしまうかもしれないが、生きている限り絶対に前に進めているし、ちゃんと光が見えてくると断言したい。
長々と人生で初めてのエッセイを書いてきたが、反省点だらけである。しかし楽しかった。また他のエッセイも書けたらなと思案しつつ、この辺で私の闘病記録にピリオドを打とうと思う。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
20代前半で鬱病になった話【完】