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一つの波周り、詩やその周縁/Keitoh Natsuko

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    水路三号

    ケイトウ夏子の個人詩誌三号。五篇を収録。見ない人の分まで空をみている「揺籃期」より◉目次月の水差し半夏うるおう湾で記述揺籃期B6 16p発行日 2024年8月21日
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    水路二号

    ケイトウ夏子の個人詩誌二号です。今回は短い期間に生まれた五篇を収めました。“ねえどこからどこまでが 草原だったでしょう”B6 14p発行日 2023年10月25日
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    水路一号

    ケイトウ夏子の個人詩誌です。2022年に書いた詩を中心に五篇を収めました。B6 14p発行日 2023年4月20日
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記事一覧

だから何という感じだが、岡崎京子が交通事故に遭ったのと同じ年齢になったのだと思った。展示の別れ際に「よく頑張っている」と抱きしめられたので、思わず彼女に“お母さん”と言いそうになった。

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4日前
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カルタ詩

あ 藍色に暮れる港に い いさきの群れ う 産土がおめかしして え えくぼの形に お お山との区別がつかなくなる か かんかん照りの道はいつまでかなあ き 希望は く…

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13日前
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波に還す気付き

久しぶりの海に足を浸すと 歓声も 汗も  アルコールまでもが 波に溶けて還っていく ぷくぷくと息をしているよ 貝を教える友の声に振り返り 砂浜を静かに蹴ると ほんとだ…

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3週間前
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水路三号について

個人詩誌、「水路」三号ができました。 オンラインストアから購入頂けます。順次、本屋さんで取り扱いもしていく予定です。 読んでくれる方、気にかけてくれる方のおかげ…

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1か月前
5

汝の睡眠の島を 死ぬほど好んでゐる。

夏 ポール・ヴァレリー(訳/鈴木信太郎)

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1か月前
7

『八月の光』冒頭読み比べ

道端に座り、荷馬車が丘をのぼってくるのを見ながら、リーナは思う。〈あたし、アラバマから来たんだ。すごく遠くまで。アラバマからずっと歩いてやってきたんだ。すごく遠…

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1か月前
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6月

昨日は… 昨日は、「夏至の庭」と銘打ったキャンドルと燭台の展示を見に行った。まだ初夏の光が眩しくギャラリーに差し、その空間だけ時間が止まったようだった。一つも灯…

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3か月前
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「生きていてよかったと思えた」と言われたとき、聞き取れる耳を持っていた自分にも感謝する

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3か月前
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引用から

――たとえばジャケットの場合、着て、前のボタンを一つかけると、そこにジャケットの重心がすっとかかる。その瞬間に服が命を得て、ボタンは役目を終える。扇のかなめと言…

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3か月前
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第一詩集のこと

 三年前に出した第一詩集『例えば鳥の教え』。いまだに手に取ってくれる人がいることが、本当に有り難い。読み手なしには成立しないこと。初めて手に取る人の導入にもいい…

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3か月前
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稜線のまどろみへ

 六月。都内は早くも夏の気配がしている。それでも、昨年の同じ時期よりは涼しいように感じる。駅から少し歩く場所が目的地の場合、日が落ちてから行くのがいいだろうか。…

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3か月前
4

夜明け剥がし

鍵を縦にして 開け放ったドアから 私は出ていく 「ぐにゃりとした道を渡って」 来た道を戻るだけ けれど 復唱して 風景に埋没していたベンチを 視界から取り出して洗い リ…

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3か月前
8

傘をさすと怒られる場所の一つが競馬場だった

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3か月前
4

参加した詩誌『mare vol.2』ができました。写真と作品のマリアージュ、フルカラーの紙面になっています。
よければお手にとってみてください。
https://amzn.asia/d/3Ppp5Wy

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3か月前
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振り返り

文学フリマ東京38から一週間が過ぎようとしている。 今回から入場料がかかるようになったのと、自分は新刊がなかったのとで、どれだけの人が来てくれるのか不安な面もあっ…

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4か月前
14

下に落ちる星(つまり流れ星)と上にのぼっていく花で封をした。みんなどこの夜にいるだろう。

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4か月前
3

だから何という感じだが、岡崎京子が交通事故に遭ったのと同じ年齢になったのだと思った。展示の別れ際に「よく頑張っている」と抱きしめられたので、思わず彼女に“お母さん”と言いそうになった。

カルタ詩

あ 藍色に暮れる港に
い いさきの群れ
う 産土がおめかしして
え えくぼの形に
お お山との区別がつかなくなる
か かんかん照りの道はいつまでかなあ
き 希望は
く くるくる空回り
け 袈裟固めでならした
こ 恋のゆくえ
さ さらさらと
し 子音が欲しくて欲しくて
す 砂を噛むビンの中
せ 背中合わせに
そ そっと一礼
た 棚から棚へ
ち 痴呆を責めないロータリー
つ つづら折りのアコーディオン

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波に還す気付き

久しぶりの海に足を浸すと
歓声も 汗も 
アルコールまでもが
波に溶けて還っていく

ぷくぷくと息をしているよ
貝を教える友の声に振り返り
砂浜を静かに蹴ると
ほんとだね貝がいる と
自分の声に揺り動かされて
立って眠ることが上手くなった
と 気付き
結び始めた額縁を
七月の空にひらいていく

初出:たびぽえ VOL.4(2022年秋冬号)

*

今年は海に行けなかったな、と振り返る8月31日に

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水路三号について

個人詩誌、「水路」三号ができました。
オンラインストアから購入頂けます。順次、本屋さんで取り扱いもしていく予定です。

読んでくれる方、気にかけてくれる方のおかげで、三号まで来れました。
どうぞ、よろしくお願いします。

汝の睡眠の島を 死ぬほど好んでゐる。

夏 ポール・ヴァレリー(訳/鈴木信太郎)

『八月の光』冒頭読み比べ

道端に座り、荷馬車が丘をのぼってくるのを見ながら、リーナは思う。〈あたし、アラバマから来たんだ。すごく遠くまで。アラバマからずっと歩いてやってきたんだ。すごく遠くまで〉

(諏訪部浩一訳/岩波文庫)

道ばたに坐り込み、馬車が坂道を登って近づいてくるのを見ながら、リーナは思う。『あたしはアラバマからやってきた。遠くまで来たものね。はるばるアラバマから歩いてきた。ほんとに遠くまで来たものね』

(黒

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6月

昨日は…
昨日は、「夏至の庭」と銘打ったキャンドルと燭台の展示を見に行った。まだ初夏の光が眩しくギャラリーに差し、その空間だけ時間が止まったようだった。一つも灯されていないキャンドルを一つずつゆっくり眺め、夏至が来るのを待つ心持ちに。一番小さなキャンドルを購い、巾着に入れてもらった。

その後はいつも行く場所へ。『荒地詩集1955』がまだ残っていたので、ありがたく購入。これだけで満たされた。日に灼

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「生きていてよかったと思えた」と言われたとき、聞き取れる耳を持っていた自分にも感謝する

引用から

――たとえばジャケットの場合、着て、前のボタンを一つかけると、そこにジャケットの重心がすっとかかる。その瞬間に服が命を得て、ボタンは役目を終える。扇のかなめと言い換えてもいいけど、成仏する、その位置を探すことが、服を生かしも殺しもします。三つボタンでも六つボタンでも、ポイントになるのは一個だけ。残りのボタンやカフスボタンは、単なる飾り、様式美にすぎません。ついでに言うと、ボタンをはずしたとき、身頃

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第一詩集のこと

 三年前に出した第一詩集『例えば鳥の教え』。いまだに手に取ってくれる人がいることが、本当に有り難い。読み手なしには成立しないこと。初めて手に取る人の導入にもいいのではないかという、過去に書いてもらった評を今日は二つ挙げておく。

・高嶋樹壱さん
 テキストに沿った丁寧で確かな読みをする方。他の詩集評も必読。まさか読んでくれているとは思わなかったので、当時は驚いた記憶がある。

・内島すみれさん
 

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稜線のまどろみへ

 六月。都内は早くも夏の気配がしている。それでも、昨年の同じ時期よりは涼しいように感じる。駅から少し歩く場所が目的地の場合、日が落ちてから行くのがいいだろうか。
 私の周りは暑さを苦手とする人の方が多い。

 あったような、なかったような夏を思い出させてくれる、引用を置く。導入として。

夜明け剥がし

鍵を縦にして
開け放ったドアから
私は出ていく
「ぐにゃりとした道を渡って」
来た道を戻るだけ
けれど
復唱して

風景に埋没していたベンチを
視界から取り出して洗い
リハーサルをする
目印の

川のせせらぎを
耳に味わって進む

重心が順調に移動して

バス停とバスが近付くころ
灯台の役目が一つ剥がれる

傘をさすと怒られる場所の一つが競馬場だった

参加した詩誌『mare vol.2』ができました。写真と作品のマリアージュ、フルカラーの紙面になっています。
よければお手にとってみてください。
https://amzn.asia/d/3Ppp5Wy

振り返り

文学フリマ東京38から一週間が過ぎようとしている。

今回から入場料がかかるようになったのと、自分は新刊がなかったのとで、どれだけの人が来てくれるのか不安な面もあったが、一緒に出店した人のおかげもあってか、予想以上にたくさんの人に会うことができた。手元の『例えば鳥の教え』はなくなった。感謝している。

詩歌トライアスロンの選考会以来に会えた人、当日電車に乗って遠方から来てくれた人、先に本屋で作品に

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下に落ちる星(つまり流れ星)と上にのぼっていく花で封をした。みんなどこの夜にいるだろう。