情熱と狂気と愛情の物語。映画『博士と狂人』イギリス、アイルランド、フランス、アイスランド、2019年
原作は、サイモン・ウィンチェスターのノンフィクション『博士と狂人―世界最高の辞書 OEDの誕生秘話』。タイトルだけだと何のことかわからないですが、英語辞書の最高峰といわれる『オックスフォード英語大辞典』を編纂する物語。『舟を編む』みたいな話かと思いきや、こんな有名な辞書の編纂をリードしたのが、学士の資格も持たなかった独学者マレーと、殺人犯として精神病院に収監されていた元軍医のマイナー博士。しかも、実話ベースというから驚きます。
従来のわからない言葉を集めた辞書ではなく、シェイクスピア以来の英語の全て、海外植民地も含めて網羅しようという意欲作。Aの項目からはじまりZの項目まで、全ての初版が完成するまで70年以上もかかった辞書。文字通り辞典を編纂することに人生をかけた二人の物語。メル・ギブソンとショーン・ペンの名優が、世界帝国イギリスの重厚で圧倒的な建築物を背景に熱演。すばらしかったです。
貧しい仕立て屋の息子に生まれたマレー。学費が払えず14才で学校を辞めるものの、独学でフランス語やドイツ語、ラテン語、ギリシャ語など数多くの言語を習得し、オックスフォード大学のプロジェクトに招かれて辞書編纂の指揮を取る。英語圏の全ての言葉を収集するために、一般市民の参加を呼びかけ広告を出したマレー。雑多な応募の中に、一人凄まじい量の言葉のカードを送ってきた人物がいた。それがアメリカ人のマイナー博士。
マイナー博士は南北戦争で精神を病んで、人違いの殺人を犯して捕まり、精神病院に収監されていた。被害者の未亡人に自分の年金を送り、字の読めない彼女に字を教え、一方ではマレーの辞書編纂のためにたくさんの書物から言葉を収集することで精神を回復していく。けれども、未亡人からの感謝がやがて恋慕に変わっていく時、博士もまた精神的に追い詰められてしまう。
言葉をめぐる二人の博士(マレーは編纂の過程で功績を讃えられ、博士号を得る)の狂気のような情熱。そして、自分の犯した殺人の被害者への恋心という狂気。未亡人役のマージョリー……じゃなかった、ナタリー・ドーマーとマレーの妻ジェニファー・イーリーもすばらしい。あと、警備員役のエディ・マーサンも。若き日のチャーチルとかも出てきたり、歴史好きにはたまりません。超おすすめです。
邦題:博士と狂人(原題:The Professor and the Madman)
監督:ファラド・サフィニア(P.B.シュムラン)
原作:サイモン・ウィンチェスター『博士と狂人―世界最高の辞書 OEDの誕生秘話』
主演:メル・ギブソン、ショーン・ペンほか。
製作:イギリス、アイルランド、フランス、アイスランド(124分)2019年
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