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中世の修道院は結構こわい。映画『薔薇の名前』仏伊西独、1987年。
イタリアの記号論学者ウンベルト・エーコ原作。中世北イタリアのベネディクト会修道院で起きた不可解な殺人事件を描いた小説の映画化。修道院に本がたくさん所蔵されていたことや、修道院で薬草を作っていたことなんかを利用して、物語がつくられています。あと、本(羊皮紙)の保管と異端審問などなど世界史好き、本好きにはうれしい映画です。
舞台になった修道院は、ヨーロッパ中の貴重な書物の保管をする図書館で、ギリシア時代からの古い書物も所蔵していました。そして、それを後世のために写しとっておく役割も担っていました。羊皮紙は長期保存にあまり適さないとか。教会には、文字を専門に映す写字生や、押絵・装飾を描くルプリカトーレという専門の額装さんがいたそうです。
日本もヨーロッパも、古い時代にはお寺や教会が書物の保存に務めていて、書物に装飾を加えたりもしていたとか。私は最初、本と毒薬を使ったテクニカルなミステリー映画だとばかり思っていたんですが、ちょっと違いました。しかも、私はちょっとホラー映画に弱いのですが、中世モノは拷問とか屠殺とかこわいシーンが多いし、八〇年代の映画なんで夜の暗闇や人の心の闇表現がかなり直接的な暴力で怖かったです。
いえ、もしかしたら現代の映画のほうが映像がきれいすぎて、中世の現実を反映していないのかもしれないですけど。この映画をみると、『ゲーム・オブ・スローンズ』の残酷シーンでさえ、それなりにきれいに見えます。そして、決定的に違うのは下層の人たちの服装や住居の使い古されてボロボロになったリアルな煤け具合も怖い。
だからこそ、物語の統治者である修道士たちの服装や修道院のりっぱさが際立って、粗末すぎる家に住む「食うや食わずや」な貧しい人たちをさらに踏みつける修道士たちが神の教えに従って生きる人たちには思えなかった。さらにその中の一部は、出世欲の塊でライバルを蹴落とすことしか考えていないとか。いろいろつらすぎる。
もしかすると、映画を見るより原作の小説のほうが私向きだったかも。映画ではカットされてしまった本にまつわるウンチク的な描写も多かったかもしれないし、なにより文章だけなら映像がないので怖くなさそうだし。『修道士カドフェル』シリーズを好きな私としては、原作を読むべきか?
邦題:薔薇の名前(原題:Le Nom de la Rose)
監督:ジャン=ジャック・アノー
原作:ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
主演: ショーン・コネリー、クリスチャン・スレーター、F・マーリー・エイブラハムほか。
製作:フランス・イタリア・西ドイツ(1986年)132分