北海道を旅したくなる名作でした。『ゴールデンカムイ』野田サトル
『ゴールデンカムイ』は、日露戦争後の北海道を舞台に、アイヌが隠した大量の金塊を探す物語。戦争帰りの元日本兵杉元佐一とアイヌの少女アシリパのバディものでもあります。明治日本の歴史文化紹介と北海道サバイバルに、アイヌ文化&グルメ紹介などなどを追加して、とにかく内容てんこ盛りの作品。読んでいると、ものすごく北海道に行きたくなります。
アイヌに関しては専門の中川裕教授が監修されているので、専門性もバッチリです。主人公の相棒アシリパちゃんは賢くて強い(というか、たくましい)。父親直伝の狩猟の腕、動物や自然に関する知識が半端なくて、かっこいい。娘は彼女が大好きです。
主人公の不死身の杉元佐一には、味方も敵も多くて、金塊の量も桁違いなので、それを狙う登場人物もすごく多いです。しかも、敵も味方も入り乱れて、裏切ったり、呉越同舟したり。一癖や二癖どころか、現代の基準からすれば「変態」としか言えないような人たちが、わんさと登場するのもまた魅力。そして、一人ひとりの性格とか、家庭背景とか、背負ってきた人生まで詳しく上手く書き込まれていて、それぞれに実際のモデルもいるようなので、そのあたりも興味深いです。
最初はすぐに裏切ったり、損得勘定でしか動かなかったギャンブル好きの脱獄王白石がだんだん頼れる男になっていくとか、確かにかっこいいけどどうして関わってるのかわからなかった土方歳三の過去とか、日本政府や軍中央に敵対しようとする鶴見中将の若い頃のスパイ活動とか。
破戒願望があるとしか思えない狙撃手の尾形、ゴツいけど魅力あふれる格闘家の牛山、やっぱり謎が多いアイヌの女性インカラマッ、天才外科医で爺さんなのに整形美人のマッドサイエンティストの家永、人情に厚いマタギの谷垣、お坊ちゃんだと思っていたのにすこしづつ頼れる士官らしくなっていった鯉登などなど。それぞれに根強いファンがいて、そういう人たちの感想を聞くだけでも楽しいです。
しかも、魅力ある登場人物がいつどの時点で脱落(死亡)するのか、ラストまで生きていてくれるのか、ハラハラしっぱなし。網走刑務所でものすごいアクションがあって、主人公が死にかけたかと思ったら、息もつかせず樺太編が始まったり、流氷の上での闘いといい、最後の五稜郭での文字通りの死闘といい。ラスト2巻はいろんな意味でお腹いっぱいです。
作者の野田先生が映画好きというのがすごくよくわかる、とにかく疾走感ある物語の展開と、アクションとホラーとシリアスシーンに混ぜ込まれたギャグ構成も独特で楽しいです。連載が終わってしまったのは残念ですが、これからは安心して一気読みできるともいえます。未読の方はぜひお試しください。