自分の道を切り開くために。映画『野球少女』韓国、2020年
野球好きで女性が活躍する映画といえば、『プリティ・リーグ』。トム・ハンクス、ジーナ・デイヴィス、そしてマドンナなんかも出演した物語を思い浮かべる映画好きがいるかもしれません。でも、普通の日本人で野球好きが女性選手を思い浮かべると、水島新司の『野球狂の詩』でしょうか。
さて、韓国の野球少女は、130kmのストレートを投げることができるスイン。日本の部活と違って、韓国の野球部はノンプロレベルらしく、プロ志望の選手しか入らないそうです。日本でいえば、高校の野球部といえば桐蔭高校みたいな野球部ばかりのイメージ。そこにいる女の子ってだけですごいのに、さらに130km/hのストレートを投げれる設定です。
主役の女優さんの線が細すぎて、ちょっと130km/h出せそうなイメージはないのです。なんせ、女子ソフトボール日本代表の上野由岐子選手が170cm以上あるし、肩幅もがっちりでソフトボールとはいえ最高速度120km/hすから。線が細くて130km/hしか出ないっていうと、男子選手のイメージです。
でも、主人公のスインの気が強そうで、融通がきかなくて、思い込んだらテコでも動かない感じはぴったりです。そして、彼女を引き立ててくれるのが、周りの頼りない男性たち。まず、父親。希望する国家資格を受験したくて、毎年受験して落ちて、それでも諦められずにとうとう不正までしてしまいます。高校野球部の新任コーチは、40才までプロを諦められず、奥さんに愛想をつかされて離婚された夢追い人。でも、教えるのは上手いという設定。
女性のスインがプロ野球を目指したくて、就職活動も勉強もせずに、ただひたすらトレーニングするのを見て、とうとうコーチが彼女のトレーニングに手を貸してくれるようになります。速球は諦めて、ナックルを覚えさせて、緩急つけてアウトをとれるピッチャーになれるように。そして、後輩のプロ野球関係者にもトライアウトを頼んでくれます。
この物語は実話ベースで、モデルはアン・ヒャンミ選手という韓国の女子選手なのだそうです。ヒャンミ選手は高校3年生のときに全国大会の準決勝で先発投手として初めてマウンドに上がり、打者1人と対戦しました。でも、それだけ。映画のハッピーエンドとは真逆の人生が待っていました。
大会後、ヒャンミ選手を受け入れてくれる大学の野球部はなく、プロ球団のトライアウトもすべて不合格。韓国で野球を続ける可能性を断念したヒャンミ選手は、日本にやってきました。全日本女子軟式野球連盟所属の「ドリームウィングス」で、2002年から3年間、投手や三塁手として活躍したヒャンミ選手。
日本で経験したことを活かそうと、韓国に帰国してから女子チームを立ち上げましたが、チームの運営に苦労したり、メンバー同士のトラブルもあってとうとう野球を諦めることになりました。オーストラリアに移住して、映画公開のときには野球とは無縁の生活を送っていたとか。
日本でも、女子野球リーグの厳しい状況はときどきニュースで流れてきますし、そもそも女子野球だけじゃなくて、男子の独立リーグも大変だと聞きます。それでも、自分の好きなことを仕事にしたい夢を持つ人が増えたり、身近な人の夢を支えることができるようになりそうな、この映画は素敵です。
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