2024年 印象に残ったCM5選
株式会社エクシングのクリエイティブ・ディレクター、野村です。
2024年もあと少しになりました。皆様いかがお過ごしでしょうか?
YouTubeに上がってくるCMを毎週末にかたっぱしから視聴している私が、2024年に公開された作品で特に印象に残った5本をご紹介します。
制作に携わった方々に心からの敬意を込めて…ではさっそく!
【物語を普遍化して共感を呼ぶ】
東ソー 企業CM「化学は、エールだ。」
公開:2024年1月1日
人の一生を描くCMは他にも例がありますが、その描き方がとりわけ繊細で丁寧だと感じます。
冒頭のシーン、ふつうなら母子の姿にクローズアップしそうなものですが、カメラは広く病室を捉え、動いているのは病院のスタッフだけ。
第一声で「ようこそ、この世界へ。」と語りかけるように、これは単なる「とある家族の物語」ではなく、私たちを取り巻く世界のありようを描くことによって、見る人の共感を得ることに成功しているように見えます。
1:57あたりから、手のアップ⇒冒頭と同じ病室へ移る流れが特に印象的でした。掠れそうな細い声のナレーションもいいですね。BtoB企業が社会に向けて広くメッセージを発信する際の教科書のようなCMでした。
【ポジティブな気づきをもたらす】
積水ハウス企業CM 「帰ろう。」
公開:2024年8月1日
個人的な話をするなら、2024年は「帰りたい」年でした。
14年いっしょに暮らしてきた柴犬がみるみる弱っていき、どこにいてもうっすらと「ああ、帰りたいな」と思っていたものです。急いで帰る必要がなくなり、玄関のドアを開けても誰も駆け寄ってこない今となっては、あの帰りたいという気持ちこそが幸せだったような気もします。
広告コピーにとって理想的なのは、力ずくで相手を説得するのではなく、「言われてみれば確かにそうだ」という気づきを読んだ人の内側から引き出すことです。中には「あなた今のままだと損してますよ」とネガティブな気づきを引き出す手法もあるわけですが、このコピーはポジティブな気づきを促しているのがいいですね。日常に埋もれてみんなが気づいていない幸せを言葉の力で掘り起こすというのも、コピーライティングの大事な役割かもしれません。
【まっすぐにものを言う】
Salesforce 「データは個性だ」
公開:2024年5月31日
どちらかというと無機質なイメージを持たれがちな数字が人間性を豊かに物語るというユニークなコンセプトのCM。これは最後まで見入ってしまいます。
「アインシュタインだって、5歳まであまりしゃべらなかった」から始まる一連のフレーズは、一般的にはナレーションで、つまり広告主たる企業の声として伝えられることが多いと思うのですが、このCMでは出演者がカメラをまっすぐに見て伝えてきます。1本目の東ソーのCMとは対照的に、演出としてナチュラルではない(作られた感が強い)と思いますが、やはり画面越しでも、まっすぐに目を見て訴えられると強いメッセージになりますね。
【独創的なコンセプトを打ち出す】
シチズン時計 「時間は、味方だ。」
公開:2024年11月18日
時計メーカーが受験生を応援するCMを作るとしたら…たとえば「どんなときも君のそばにいる」とか「最後の1秒まであきらめるな」みたいなアイディアは出てきそうですが、「時間は、味方だ」というコンセプトはなかなか生まれてこないと思います。準備する期間であれ、試験の終了時刻であれ、時間というのはどちらかというと僕たちを焦らせる敵のようなイメージもありますよね。そこを味方とした着眼点がすごい。
中盤はいわゆる受験生あるあるですが、「1分前」ではじまった試験会場のシーンにちゃんと1分後に戻ってくるところが素敵です。カロリーメイトのCMには出てきそうもない坊主頭の俳優さんにも好感が持てますね。
【複雑な心情をシンプルに表現】
花王 メリット 「はじめて自転車に乗れた日」篇
公開:2024年4月1日
子どもの成長は、うれしいけれど少しせつない。
そんな、自分が子どものころは想像が及ばなかった親心を描いたCMです。これは電車の額面広告もSNSで話題になりましたね。みんなスマホばかり見ている時代にあって、動きもしない広告に関心を引き寄せるのはすごいことです。
メリットって、むかし実家の浴室にも置いてあった気がするのですが、これだけさまざまな商品がツヤだ保湿だ香りだと細分化したこだわりを訴求するなかで「メリットは、家族シャンプー」と言い切る潔さがいいですね。それがあってこそ生まれたクリエイティブかもしれません。制作を担当した方がインタビューで「大事なシャンプーシーンを真正面から描くことができるのもシンプルなイラストの利点かなと思いました」と話していらっしゃいます。たしかに…
以上です! 弊社は動画に特化した制作会社ではありませんが、こうした素晴らしい作品からも学んで、2025年もさまざまなコミュニケーションの課題をデザインとことばの力で解決していきたいと思います。よいお年をお迎えください!
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▼冬休み中のお子さんにおすすめの記事です!コピーディレクターの高沼さんが書いてくれました。