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談義⑩ 設計者と発注者の両視点から考えた、一歩先のファシリティマネジメント

1.これまでの談義の振り返り

1-1 FMの周辺について考えてきたこれまでの談義

 これまで談義①から談義⑨までの全9回にわたって、設計をしている者、発注者の立場を経験した者、様々な企業に対して街づくりを提案する、それぞれが自分たちの知見と思いと流れに身を任せて、談義を拡げてきた。

これまでの談義を大まかに振り返ると、

談義①~③
始まりとして、個々の「建築」と「FM」との出会いを振り返り、そこでの気づきや悩みを文字・言葉にして共有することを行った。FMのプロセスマネジメントにおいて関係者間の情報が欠落すること、建築の暗黙的な創造性をFMに価値づけする難しさなどが少しずつ言葉になった。

談義④~⑥
企業の漸進的な拡大を支援するFMに対して、21世紀以降のVUCAな世界で企業の存続をさせる破壊的なFMの提言を試み、その重要性をイノベーション経営などの経営手法のトレンドと合わせて議論した。
論はまだまだ脆弱であったが、①~③ででた建築の暗黙的な創造性への憧憬が、FM手法に結実する可能性を感じた。

談義⑦~⑨
⑥までで提言を試みた「破壊的FM」を、いち企業として実践するため、モノ・コト・ヒトという3つの切り口から試考と事例参照を行った。どれも0→1での事業化は難易度が高いが、やりがいを持って取り組める未来を何とか描き始めれたところだ。

1-2 談義はどこに向かうのか。

 2022年3月8日にスタートしたこの談義NOTEも、4か月をかけて、ようやく第10回までなんとか続けることができた。XENCE architecture studio自体は2022年1月をスタートとし、設計者や発注者などの多様な人間が集まって企業として、歩み出したばかりである。

 FMに関して日本ではソフトウェアの開発業務を除けば、大手ゼネコンや組織設計事務所、大手コンサルティングファーム、ビルメンサービスなどが、ファシリティマネジメント実務を事業としており、仕事の発注者も複数の施設資産を所有するような大企業であるため、小さなスタートアップの参入は難易度が高い。

 単に”FMという沼に足を入れてしまった”ことに対する、サンクコストの回収に、もがいているだけではないかと思い悩むことも多々あったが、小さな企業であるからこそ提案できる、未来社会に最も適した資産活用の提案があると思い、これまで談義を続けてきた。

 一歩先とこれまで書いてきたが、0→1で始めるからこそ”遠くの未来社会”まで見通したうえで、軽々と一歩先へ飛び込めると考えている。1970年代以降企業経営とともに成長してきたFMのこれからについては、図1-2のような未来を創造している。

図1-2 FMのこれから

 既に始まっているイノベーション社会。そしてサーキュラーエコノミーが中心となる新しい資本社会。更に先には、人類の建設と居住について考え直し、新たな惑星やバーチャルも含む広義の”社会”での生活を視野に入れたFMを考えていく必要がある。
 既成の産業を横断するイノベーションや、既成の資源フローを横断するサーキュラーエコノミーなど、これまでの枠組みを縦横無尽に動いた新しい動きに対しては、クリエイティブ思考を中心に集まった多様な人材が0→1で事業化を試みる私たちがも最も取り組みやすい。私たちがいち早く作るのは、バックミンスターフラーの言う”新しいモデル”だ。

”既にわかっている現実と戦うことだけで、物事を変えることは決してありません。何かを変えるためには、既存のモデルに取って代わる新しいモデルを作る必要があります。”
You never change things by fighting the exting reality. To change something, buid a nerw model that makes the exting model obsolete.

R. Buckminster Fuller


2.設計者と発注者で考えた”これからのFM”

2-1 これまでのFMに対してどのような視点が得られたのか

 これまでの談義で、建築が作られ、使われ、解体されるまでのプロセスにおけるFMの役割について何度も議論をしてきた。

プロセスを簡単に記載すると下記のような図である。

図2-1 フェーズを横断してPDCAを繋げていくFMer

 建物を作り、使い、解体するプロセス上のそれぞれのフェーズにおいてPDCAを的確に回すことで成果を出し、かつ成果を次の職種の異なるプレイヤーに対して情報として繋いでいく非常に重要な役割を担っている。

 上記の図は理想的な状態で、談義の中では、実際にはここまで一貫して繋いでくれるファシリティマネージャーに出会うことはほとんどないという話も多くあった。それは単にFMerの怠惰によるのではない。それぞれの段階で全く異なる状態の情報(モノ・データ・言葉・思い)を円滑につなぐことができる、マルチテクニックな人材は稀有であるのが現状だ。

 図2-1は理想としても、談義④でも少し話したように、既存のファシリティが個々にもつ課題を、漸進的にひとつひとつ改善していくファシリティマネージャー(漸進的FM)がいるだけでも、とても豊かな状態であることは間違いない。

 また、談義②談義③のように、新しい建物(ファシリティ)が生まれるフェーズにおいては漸進的FMerは活躍するはずだが、実際に当人は組織間での合意形成の難しさデザインの思考方法のもどかしさによって、新しい価値を生み出すことの難しさがわかってきた。これは建物をいちから作るプロセスだけに限らず、様々な面で現れている。

2-2 これまでのFMを飛躍させる、”破壊的FM”とは何だったのか。

これまでのFMを振り返り、どうにかFMerが積極的に新しい価値創造を行う在り方を新たに考案できないかと試みたのが談義④での「破壊的ファシリティマネジメント」(以下破壊的FM)である。

破壊的FMとは、「資産の新しい関係性」を見つけ出すことで、「これまでの事業とは異なる新たな価値を創造する」ことだと談義⑦で少し解像度が上がった。その時々での資産の状態から別の価値を生むという点で、下記のようなダイアグラムによって想像している。

青線は漸進的FMとし、ファシリティの価値を漸進的に繋ぎ保持していく。
赤線は破壊的FM。今のファシリティの新しい関係性を見出し、別軸での価値創造を行う。

破壊的FMを実践するためにも、様々な知見が必要であるが、とくに、①既存の資産の価値を俯瞰的・構築的に見れる力、②新しく資産の関係性を組み立て、新たな価値に紐づける力、といったクリエイティブ思考を持った人材が必要となる。

より具体的には、ファシリティの様々な状態(モノ・コト・ヒト)で、提案する必要があり、それらの例は、談義⑦~⑨でもいくつか事例が上がった。

3.これからXENCEは何に取り組むのか。

新たなFMの実現に向けて動きだし、4か月が経過した。これまでの話の流れから見れば、XENCEはこれから”破壊的FM”の実践に取り組むのが当たり前のように見える。

3-1 これからのFMを実践する

 談義⑦ー⑨を眺めれば、私たちが”破壊的FM”の参照事例として挙げたAirbnbや公共R不動産などは、プラットフォーマーである。ファシリティを「部屋」や「公共施設」や、「部材」などジャンルとして揃えつつも集めることができるオープンプラットフォームを用意し、そこに集まったファシリティを新たな価値として提示している。こうしたプラットフォーム形成については、私たちが注目せずとも、2010年代から社会全体でビジネス手法として注目が既にされている。



 
 むしろ私たちが取り組むべき”破壊的FM”とは、あくまで「これまでのFM」の破壊的な延長線上にあるものだと感じている。

 これまでのFMは、上記のようなプラットフォームビジネスとは異なり、最初から、「多種・多様なファシリティ」に対して、マネジメント手法を生み出し、価値の持続や向上をしてきた。そこに対し、破壊的な視点を大切にし、新たな価値創造に取り組む。プラットフォーム形成は、その価値創造において効果的であるが、手段のひとつにすぎず、今のファシリティの新たな組み合わせで、新しい製品や場の創造をすることを考えている。それぞれに対して、時にはプラットフォームのデザイン、また別の時には別の仕組みのデザインなど、常にクリエイティブな答えを生み出していくことを目指したい。
 

図-3-1-2 多種・多様なファシリティから、ひとつひとつ枠組みを生み出す

 このような、ある種の”場当たり的”になぜこだわるのかは、私たちの”想い”につながるかもしれない。スタートアップのように、わかりやすい一つの固有技術を枠組みとして社会に様々な形で展開するのではなく、むしろ一つ一つの”枠組み作り”自体を、楽しんで行っていくことに重きを置いている。

3-2 ビジョンをカタチにするしごと

  どこまでいっても私たちの仕事は、図3-1-2の赤線のような様々な枠組みをカタチにしていくことである。

 既に取り組ませていただいているものとしても、
①建築の遊休資産を活用する新たなプラットフォームの構築
②不動産会社様とともに取り組ませていただいている、長期的な目線での”街づくり”に寄与する新たな分譲住宅ビジョンの形成

などがある。

①建築の遊休資産を活用する新たなプラットフォームの構築

 

②不動産会社様とともに取り組ませていただいている、長期的な目線での”街づくり”に寄与する新たな分譲住宅ビジョンの形成

実際に枠組みをカタチにするために私たちがどのような武器を持っているのかについても明らかにしておかなければならない。
実際は、

①設計(プランニング・作図・3Dモデリング・連レンダリング)
②都市解析(街づくり計画・GIS解析・施設再編計画)
③施工(管理・デジタルファブリケーション)
④その他


がすぐに使える知見や技術といった”私たちのおファシリティ”であろう。
これらを存分に生かし、可能な限り”複雑なファシリティの運用”に悩む方に対して、彼らのビジョン形成を根幹から支えるカタチづくりのしごとに取り組みたい。


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