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【新連載】"絶海の孤島"から『恵みのラム酒』はなぜ生まれたのか!? 酒づくりの心臓部から真髄を紐解く【対談:その1】
沖縄本島から東に約350kmの場所に浮かぶ南大東島。
珊瑚礁の隆起によって形成した周囲約20㎞の「絶海の孤島」は断崖絶壁で囲まれ、島の中心に向かうほど海抜が低くなるすり鉢状の地形が特徴的だ。
19世紀後半に八丈島の出身者が移り住んだことを機に本格的な開拓が始まり、沖縄本島からの移住者と融合した独自の文化を育んできた。
島内の約6~7割を占める農地ではサトウキビが栽培され、沖縄でも有数の産地として島の経済を担い続けている。
そんな島の中央部には、かつて空港だった建物が残されている。
格納庫や旅客ターミナルがあった名残を残し、時の流れを感じさせる建物。
建屋内部は大きなタンクや設備が並び、サトウキビのほのかな香りが漂う。
なぜなら、その建物は地元のサトウキビを原料とするラム酒の工場として使われているからだ。
沖縄電力の社内ベンチャー制度を活用して2004年に設立したグレイスラム。当時沖縄全体でも存在しなかったラムづくりの先駆けとして 無添加・無着色のラム酒「CORCOR(コルコル)」を送り出し、多くの飲み手の喉を潤し続けてきた。
設立に至る紆余曲折のストーリーは、原田マハ著の小説『風のマジム』のモデルにもなっている。
グレイスラムの酒を支え続けてきたのが、工場内にそびえ立つ蒸留器だ。
今回、あるベテラン技術者が自身が推し進めるクラフトジンの蒸留器開発の取り組みを実現させるため、グレイスラムの味を守り続けてきた工場長にラムづくりの心臓部である蒸留器の真髄に迫った。
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■玉那覇力(たまなは・つとむ:写真右)
(株)グレイス・ラム工場長。叔父が泡盛酒造所を営んでいた縁で長年泡盛づくりを手がけていたが、グレイス・ラムの立ち上げ前だった金城祐子社長の誘いを受けてラムの世界に移る。以来、南大東島に住み続けて約20年にわたってその味を守り続けてきた。
■田中孝治(たなか・こうじ:写真左)
大学卒業後、福岡県北九州市に本社を置く岡野バルブ製造(株)に入社。発電用バルブの技術者として、国内の数多くの発電所を巡ってきた。現在は社内の新規プロジェクトであるクラフトジン製造で肝となる蒸留器の開発を手がけている。飛び込みで会社を訪れて入社試験を受けたこと機に始まった技術者としてのキャリアは約半世紀に及ぶ。
《始まり》こだわりを詰め込んで作り上げた蒸留器への想い
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【田中】
私たちは今、ステンレス製の蒸留器を購入してジンを作る叩き台となる試作器を作ろうとしています。ともに蒸留酒であるジンとラムには、蒸留器の構造で共通点があると思っています。まずは、グレイスラムさんがどんな蒸留器を使っているのかをお聞きしたいです。
【玉那覇】
私たちが使っている蒸留器は、約40~50年前に焼酎メーカーで流行っていたモノを改造した水平型(横型)のタイプです。立型の蒸留器では難しいのですが、横型だと原料の風味をそのまま残せるんですよ。
【田中】
風味を出すことにこだわったんですね。
【玉那覇】
ラムを作り始める前にどんな商品を作ろうかと社長と話した時、「なるべく(無色透明で)ホワイトなものを作りたい」となりました。そうなると、原料の香りや味で特色が出しやすい横型の蒸留器以外で選択の余地はありませんでした。仮に立型だと味も素っ気もないものになっていたでしょうね。
【田中】
てっきり建屋の高さに制約があるから横型にしたと思っていましたが、実際は関係ないわけですね。
【玉那覇】
横型にしたのは私のワガママかもしれません(笑) 最初、社長が見積もりを取ろうとした蒸留器は立型でしたし。 私が関わるようになって見積もりを全部白紙にしたんですよ。そこから製造工程をどうしようかと考え、樽貯蔵しないホワイトラムとなった時点で蒸留器はコレだと決まりました。
【田中】
そのあたりは本(小説『風のマジム』)では触れられていなかったので、実は知りたかったところなんですよ。
【玉那覇】
設備屋さんに図面を書いてもらい、「ココはこういう風にしてくれ」「この部分は何cmにしてくれ」と何度もやり取りをしました。ただ、1つの部分を変えると他の場所で不具合が生じ、最終的に半年ほどかかりました。
【田中】
結構時間がかかるんですね... 実際にどんな不具合が起きたんですか?
【玉那覇】
ここは設計屋さんとの密約があるので勘弁してください(笑)
《素材》香り、風味を出すために不可欠な原料との向き合い方
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【田中】
ラムづくりは、素材であるサトウキビも重要となりますよね。蒸留器と原料を比べた時、どちらに比重を置いていますか?
【玉那覇】
ちょっと難しい質問ですね… まだそこを見極められていないんですけど、1つ言えるのは、「ただのホワイトラム」で構わないのであれば立型の蒸留器でよかったのかもしれません。自分たちが求める香りを残したラムを作るためにも横型にこだわりました。
【田中】
素材で蒸留後に捨てる部分が出ることはないんですか?
【玉那覇】
基本的に酒となる部分で捨てるところはないです。ただ、蒸留後に廃液が出るため、どう処分するかがネックとなります。サトウキビの搾りかすに廃液をかけて1年間発酵させると肥料となるのでそれを畑で使っていますね。
【田中】
サトウキビの収穫時期は12月~3、4月頃と聞いています。収穫してからラムを作るまでに原料が傷むことはないんですか?
【玉那覇】
実は、刈り取りをした瞬間から酸化し始めます。切り口から酸化し始めてカビが生えるため、せいぜい持って1日ですね。我々が使う時は農家に搬入の曜日を指定してすぐに絞り終えています。
【田中】
そうなると、ラムづくりは鮮度のいいサトウキビが採れる環境でないと成立しないわけですね。
【玉那覇】
原料が糖蜜のラムは保存が効くので関係ないですが、搾り汁を使う場合は目の前に畑が無いとダメですね。
《技術》製造工程から見えてくる蒸留酒同士の共通性と相違
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【田中】
玉那覇さんはラムづくりをする前、泡盛づくりをされていたんですよね。同じ蒸留酒ですが、蒸留方法でラムとの違いを感じる点はありますか?
【玉那覇】
原料を蒸気で加熱して蒸留する部分は基本的には一緒ですよ。他の蒸留酒も原料が違うだけでどれも同じだと思います。
【田中】
例えば、ラムの蒸留器で焼酎のようにサツマイモを原料に使って蒸留することもできるんですか?
【玉那覇】
さすがに撹拌させる機構を変えないと難しいですね… サトウキビの絞り汁にしろ、糖蜜にしろ、ラムづくりに使う原料は液状に近いですが、サツマイモは穀物のかすが残るので撹拌時に詰まりが生じます。撹拌できないと蒸留時間が長くなり、焦げる原因にもなります。
【田中】
蒸留の温度を上げると焦げ付きやすいと思っていましたが、そうではないとわかって目から鱗が落ちました。
【玉那覇】
スタート時点で100度に達していたら問題ですが、常温から徐々に温度を上げて撹拌するので原料が焦げることはあまりないですね。5~6時間かけて終わるのが最適ですが、7~8時間になりそうな時は蒸気圧や循環速度を調整しています。
【田中】
蒸留する際、気候による影響を受けることもあるんですか?
【玉那覇】
沖縄の場合、それほど気にはならないです。例えば、夏場が30度、冬場に氷点下近くになれば別ですが… 南大東島は冬場でも半袖で仕事をする環境なので、ラムづくりをする時に気温を意識することはないですね。
《次回へ》2人の対話はより広く、深く…
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エキスパートとして歩み続けた2人による対話は、当初予定していた時間を超えて話題が深まっていった。
ラムを生み出す上での蒸留器の役割、風味や香りを生かすための素材との向き合い方、蒸留酒ならではの仕組みや難しさ…と繰り広げたやりとりは、ここからさらに奥深く進んでいく。
今回の対話の続きとなる次回の投稿では、「究極のラム」「究極の蒸留器」と求める2人の理想形を中心にした話題を広げていく。
果てしなく続きそうな雰囲気すらした2人のやり取りは、どんな結末を迎えるのだろうか。
引き続き、次回の投稿もお楽しみに。
次回の投稿は、6月14日(水)を予定しています。
公開後、以下の埋め込みリンクからご覧いただけますので、今回の内容と見比べながらご覧ください!