17℃
サウンドクラウドに楽曲をアップロードし始めて3ヶ月経った。届きたいひとに届いてる実感はありつつ、もう少し再生が回ると継続していく上で励みになりそうなので、これが力となるか分からないが、ストリーミングに今まであげた3曲とEP用の1曲を入れたEPを出してみようと思った。なにをやればいいか分からないので、とりあえずリリースしてみよう、とそんな感じである。サウンドクラウドは聴かないという人もいると思うので、そういう人にも聴いてもらえれば万々歳だ。
「17℃」というコンセプトは2022年の5月くらいからなんとなく思いついていた。それまでの歪んだハイパーとかBPM加速主義的なところから新しいところに行きたいと思っているなか、Peterparker69やE.O.Uの台頭であったり、Tohjiの「T-mix」だとかHEAVENの「So Wet Boys」とか、つまり水っぽいウェットさがこの先の音楽かもしれないな、と霊感を得ていた。とはいえその頃は作曲的に詰まっていた時期だったので、楽曲にそうしたムードを入れ込むことができなかった。なので、自分の曲ではなく他人の曲、つまりはそういうムードを入れ込んだイベントをやればいいのではないか、とそういう運びでイベント「17℃」に取り掛かることにした。
当時はサウナ、もといサウナ後の水風呂が好きでよく入っていたのだけれど、個人的に17℃の水風呂が一番気持ちよく感じられる。友達は14℃のキンキンに冷えた水風呂が好きだと言っていたが、おれはちょっとぬるくて口の中が甘くなる17℃が好きだ。みぞおちのあたりから水温が浸透して、ウーファーから伝わるように脳までズーンと水の温度が響く感じがとにかく気持ちいい。アッパーというよりはチル。現実逃避し何にも立ち向かわず快楽だけに享じる退廃的なチル。ウェットな性質なものの核心はまさにこの気持ちよさにあるんじゃないかと思う。ウェットさの象徴となる指標がおれにとってはこの17℃だった。
ただ17℃はおれが思っていた以上に裾野が広いアイデアだと思う。今回EPでリリースする「17℃」はいままで述べたような、22年に考えた17℃的ウェットさを含んだ4曲だと思う。だけど、17℃というアイデアは範囲はウェットに限らずドライにも適用する。まったくリバーブを使用することなく、瑞々しいプラックシンセを使わなくとも、アコースティックギターやピアノのフレージング、他あらゆるすべての形態からおれは17℃を感じる。音がドライであっても、受け取る情念がウェットであることは往々にしてあるのだ。あるいは17℃とは水温であり、外気でもある。それはvqであったり、safmusicであったり、高木正勝であったり、Cruyffであったり、Frank Oceanであったり。このアイデアは音楽の形式を限定しない。おれだけに存在しておれ以外が読み取ることのできないアイデアなのかもしれない。けれどおれが17℃ を感じる音楽、それがいま、そしてこれからますます求められる音楽だと、そういう予感がある。
17℃とは退廃的チルであり、ある種のCBD効果だ。CBDはPTSDにも効く、それはウクライナの兵士たちが証明している。世界の衰退と崩壊、破局、それが訪れなくとも個人の生活に破滅はつねに起こりうる。そういった緊張と不安をつねに孕んだ時代において、アグレッシブに立ち向かうだけではなく、治癒として自分をリジェネしていく音楽は必要とされゆくのではないかと思う。治癒によって立ち向かえることもあるだろうし。すべては予感にすぎないのだけれど。
「17℃」というアイデアは感覚があまりに先行していて、いまのおれではこれが言語化できる限界だ。めいめいの17℃がありそうだし、そもそもめいめいに別の温度もありそうだ。まとまりのない文章だが、これが誰か一人にでも伝わればいいと思う。