星のように離れて雨のように散った 著:島本理生
コロナ禍の大学院生が主人公。原(はら)春(はる)である。野球ボールを拾った縁で社会人の亜紀君と付き合っている。春の夏休みを描いたのがこの著作だ。
他の登場人物は売野さんに篠田君、篠田君の紹介で春が秘書を務めた作家の吉沢さん、他に教授くらいが登場人物である。
タイトルの意味は読後もわからなかった。恋人との別れを描いてる印象を読書中にずっと抱いていた。亜紀君は春の大事な部分とは触れ合えて無いようだったし、春の方でも結婚や同棲を求められて釈然としない気持ちを抱えている。
同じ学部の売野さんや篠田君に相談しながら自分を見つめ直して行く物語だ。それは春の父親は失踪してしまったと言う暗いトラウマのような過去があったからである。
春は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を修士論文に見据え書いた原稿を吉沢さんに見せた。的確なアドバイスをくれる吉沢さん、春にもお父さんが居れば吉沢さんのように尊敬できる大人が居れば苦労はしなかったのかもしれない。
売野さんや篠田君との飲み会のシーンも面白かったが、結局最後は夏休みは終わり、亜紀君と出会った頃を思い出して、今度はちゃんと亜紀君と向き合う決意を固めてラストだった。
あとがきも読んだ。自分の作品を以前のように好きになれなくなって来ていると言う島本さんの本音。作家業と言うのは辛いのかもしれない。
私は島本理生さんが一番優秀な作家だと思っている。獲得した文芸賞の数、候補の数。直木賞受賞してて芥川賞の候補にもなっているんだ。同世代でこんなに活躍してる作家さんは珍しい。でも、自分の作品が以前のように好きになれないなんて本音が書かれてて身につまされる思いだった。
私も30代後半になって音楽が駄目になった。何を聴いてても二、三曲で終わりにしてしまう。あれだけ好きだった、情熱を傾けた、青春の伴奏をしてくれた音楽がどれもこれもギスギスして、飽きて来て心も捉えなくなった。島本さんの作家業と比べる事はできないが、読書以外に娯楽が無くなったのだ。その読書をさせる作家さんも自分で生み出した原稿に納得できなくなって行くと言うのは辛いだろうなぁと思ったんだ。過去の作品なんて自分の子供と同じような感覚でどれも愛しいと私が作家だったら思ってしまいそうだが、島本さんは自分に厳しいのだろうか。
『ナラタージュ』、『ファーストラブ』に次いで『よだかの片想い』に『星のように離れて雨のように散った』と4冊読んだ。まだまだ芥川直木賞の発表には時間がある。図書館の本は読んでしまおう。
以上