私たちの特別な一日 冠婚葬祭アンソロジー
人生も節目で催される行事を総じて冠婚葬祭という言葉があります。冠は成人として認められる成人式を、婚は婚姻の契約を結ぶ結婚式を、葬は死者の霊を弔う葬式を祭は先祖の霊を祀る祭事を指します。四つの行事は、人生の始まりから終わりへ、そして当人が死してなおその先まで縁を繋いでいきます。故に冠婚葬祭は多くの物語で描かれてきましたが、連綿と変わりなく続いているように見えながら、私たちの社会や文化と同じように絶えず変化が生まれているはずです。現在の、そしてこれからの私たちと冠婚葬祭をテーマに書かれた六つの短編小説からなる文庫オリジナル・アンソロジー。
もうすぐ十八歳 飛鳥井千紗
ありふれた特別 寺地はるな
二人という旅 雪舟えま
漂白の道 嶋津 輝
祀りの生きもの 高山羽根子
六年目の弔い 町田そのこ
全300ページ読了。どの話も面白かった。
もうすぐ十八歳 は冠の話だ。十八歳で子供を産んで苦労した母の娘が十八歳でまた子供を産むという話。沖縄出身の智佳は親戚の居酒屋兼民宿のお手伝いをしていて客で来た東京の大学生と恋に落ちる。とんとん拍子で結婚するが義父だけが結婚にも出産にも好意的ではなかった。義父と義母は離婚し、酪農を学ぶ為に畜産家がある九州の高校に進路を決めた娘を応援して夫である誠一は九州への転職を決める。高校で出会った人と結婚を決意した娘が十八歳で妊娠し、彼氏と共に家にやって来る。そんな話だ。
ありふれた特別 も冠の話だ。ひばりタウンのアイドル的存在のあさひが成人式を公民館で行うのに遅刻しそうなドタバタ劇の中で母である真綾があさひを産んだ所までフィードバックしながら幼馴染の果乃子と禄朗との関係を自分達の成人式は病室で真綾の出産であさひを産んだ日だったなと述懐して終わる。
二人という旅 は婚の話だ。近未来の宇宙をテーマにしたSFチックな物語だった。家読みを生業(なりわい)とするシガとクローンでいくらか流行った人間のモデルのナガノが協力して仕事をする中で「虹の根元」亭を拠点に考古学者のパジャや家を買う予定のコルモエなどが登場する。どんな結婚になるかは読んでみて体感してほしい。結婚は種実と蜜と酪精(ナッツとミツとバター)の味がするそうだ。
漂白の道 は葬だ。十八の時初めての訃報の際に学生服でしかもスキーのゴーグル焼けした格好で臨んだ主人公の希和子(きわこ)は美しく魅力的な喪服の女性カナさんに興味を抱いた。親戚なので葬式でしか会わない謎の魅力的な女性の姿を通して、最後、自分の母の葬式を出して漂白された時間の長さを著している。
祀りの生きもの は祭だ。小さな頃通ってた祖母の家の近くの神社で行われている縁日のようなお祭り。祖母が亡くなり遺品整理と形見分けの為に大人になって行ってみるが、子供の頃を思い出し、祖母の口癖を思い出し、不思議な物語として纏められている。『首里の馬』以来の高山羽根子さんの物語だった。
六年目の弔い は文庫本書き下ろしで町田そのこさんが担当してる。これ目当てで買ったのだ。もちろん葬の話だ。夫の死に突然現れた珍客、夫の前の奥さんとの間の子供とその祖母だった。そんな事聞かされていなかった志乃は唖然とする。そして六年の間命日に来るようになった夫の娘珠美と一年ずつ話をする中でその死の真相と夫の愛を形にして行く物語だ。最後ちょっとしたミステリーが隠されてて、そこでギョッとする内容になっている。一度読み返してそうかそれで祖母は嘘を吐いたのだなと判るのだ。なんて切ない設定なんだろと、そのこさんらしいなとも思った次第である。