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 バリ山行 著:松永K三蔵

 主人公は波多、男性で妻と娘が一人、社員寮に住んでいる。以前の会社からリストラに遭って、会社で仕事だけしていて社交性が無いとまずいと言う苦い経験があった。仕事は新田テックと言うリフォーム会社、規模50名くらいの中小企業だ。登山部と言うのが出来て、波多も参加する所からこの物語は始まる。

 登山部を仕切るのは松浦さん。登山は紳士のスポーツやとその発祥は外国人からでお金のかかるスポーツなのだと山でお湯を沸かしてカップ麺を食べてインスタントコーヒーを飲む。登山っていいなと言うのが波多の感想だった。

 しかし、波多もお世話になった藤木常務の退官祝いに旅館を取った日、登山部に妻鹿(めが)さんが合流する。妻鹿さんは毎週登山してる登山玄人。登山道など歩かない。自ら地図アプリで谷と尾根を探し、道なき道を進むバリを趣味とする登山家。小柄な体格だが仕事も自分のペースで行うベテラン社員だ。松浦さんはバリなんて死ぬかもしれん、絶対やっちゃいかんと妻鹿さんにカンカンだった。しかし、藤木常務の退官に際して妻鹿さんは涙していた。

 会社は藤木常務が居た頃とは違って、小さな顧客を切ってアーヴィンと言う大手の会社の下請けを担い、資金力に物を言わせて、アーヴィンの子会社化をすると言う方針を取った。社長は角さんといつもどっかに消えて居ない。すると会社の業績は右肩下がり、どうなるんだと皆リストラを恐れ、夜な夜な集まり飲むようになった。波多も除け者にならないよう色んな課の飲み会に参加する。

 仕事で漏水の事故があった際に業者と回ったが部分補修じゃ無理だと言ってどうにもならない時、妻鹿さんに頼むと丁寧に部分補修だけで終えてくれた事があって顧客も波多も命拾いした経験を期に、妻鹿さんにバリの魅力を教えて欲しいと波多は申し込む。じゃあ、一緒に行こうかとなったのが年末だった。

 バリで行く山道は茨の道だった。確かに普通の登山道では味わえないスリルと眺望に波多も魅了される。しかし、こんな道を行くのかと妻鹿さんについて行けなくなり、死にかける経験をする。そんなバリ山行の途中、女鹿さんに対する気持ちの変化の描写が物凄い。バリなんてもう懲り懲りと右足を捻って登山用品もぐちゃぐちゃになって帰って来た波多だったが、次の日、熱が出て肺炎になる。仕事納め全部仕事に行けずに終わるのだった。

 仕事を辞めないといけないのかと思いきや、仕事始め出社すると、忙しくなるぞと長期に渡り欠勤した事は意に介されず、そのまま仕事をするようになった。なんでも営業の二人が辞めて妻鹿さんも会社を辞めたと言う。妻鹿さんは藤木常務の開拓した小さな顧客を大事にして会社の備品を勝手に使って補修などのアフターサービスを独断でしていたのだ。仕事のできる良い人だったが、社長に直談判して備品の事を責められ、自分から辞めると居なくなったそうだ。

 妻鹿さんから借りたままのステッキ、妻鹿さんの気持ちに思いを馳せ、自分なりにバリに挑戦するようになって行く波多。もう妻鹿さんには会えないのかと思いきやラストに妻鹿さんのマーキングを見つけてこの話は終わる。

 バリとはバリエーションの略で登山道のバリエーションルートを探し道なき道を開拓する行為を言う。主人公の波多が魅了されて行ったバリ山行。著者も、六甲山を良く登山されてる方のようだ。難解な語彙に翻弄されながらもスリリングな読書体験は最後まで続いた。読んでて面白かった。松永K三蔵さん、バリ山行を書いてしまったら、次はどんな物を書くのでしょうか。間違いなく芥川賞に恥じない逸品を仕上げてくれましたが、今後彼がどんな作品を書いて行くのか気になるところです。

 以上

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