アメリカの進歩派はフェミニストとは何かを学ぶべきである (翻訳記事)
米民主党は、ジェンダー・イデオロギーに対するフェミニストの批判と右翼の偏見の違いを認識しないことで、高い代償を払うことになるかもしれない。
by ジュリー・ビンデル(英国)
ジャーナリスト、作家、フェミニスト運動家
2024年5月30日掲載(アル・ジャジーラ英語版)
2014年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで、米国のスーパースター、ビヨンセが「フェミニスト」という文字が大きく描かれた巨大スクリーンの前でパフォーマンスを行った。彼女は「人々はフェミニストが何なのかを本当に知らないし、理解していない」からだと語った。
彼女の言うとおりだ。それ以来、私たちはフェミニストが何なのか、フェミニズムが本当は何を表しているのかを米国人の多くがまったく知らないことを何度も繰り返し目にしてきた。
過去10年間、私たちは自称「フェミニスト」たちが、女性蔑視者の代表であるドナルド・トランプ大統領を誇らしげに支持している、と耳にしてきた。
新聞各紙は、フェミニストにはさまざまな立場があること、また、フェミニズムの最も基本的な原則に反対したり、客観的に女性に害を加える男性を支持したりしながらも、女性は依然として「フェミニスト」であり続けることができると論説で伝えてきた。
性労働(セックスワーク)がフェミニズムとなった。女性の身体の物象化がフェミニズムになった。代理出産は、特定の女性が「すべてを手に入れる」のを助けるものとして、フェミニズムであると宣言された。
実際、米国における議論では、「フェミニスト」とは、どのような理由であれ、ただそう名乗る女性(または男性)であることが明らかになった。女性や少女に関するその他の問題についてどのような立場であろうとも、性差別的で保守的な男性に対し特定の主題で対立する人々は、即座に「フェミニスト」として受け入れられ、称賛された。
米国の主流派の「フェミニズム」は、あまりにも完全に個人主義的になり、米国の女性たちはみな「自分にとってその言葉が何を意味するのか」という観点のみで「フェミニズム」を定義しているように見える。
この種の「フェミニズム」は集団的な運動には発展しないため、したがって原則や倫理、目標などは生まれない。現在の米国の文脈におけるフェミニストは、政治的なポーズや美徳の表明以外の目的を持たない、単なる空虚なアイデンティティ・タグとなっている。
これが、英国におけるジェンダー・イデオロギーの急速な主流化に対する左派フェミニストの反発・抵抗を、米国のリベラル派知識人が理解するのに苦労しているように見える理由の一部である。
彼らは、「トランスジェンダーの包摂」という名目で女性の性別(sex)に基づく権利が消し去られることに対する英国のフェミニストたちの理にかなった反対と、トランス自認する人々を同性愛男性やレズビアンに対するのと同じ侮蔑の目で見る米国の右派の人々の偏見とを区別することができないのだ。
こうしたいわゆる「進歩派」の人々は、個人の内的なジェンダー感覚が生活のあらゆる側面や法律の下において生物学的性別(sex)よりも優先されるべきであると主張する「ジェンダー・イデオロギー」の台頭を、自分たちへの脅威とは捉えておらず、したがって、それは集団としての女性にとって脅威ではない、と結論づけている。
さらに、彼らは、女性の権利や懸念を主張の対象としてまったく考慮せず活動する「トランスジェンダーの権利活動家」を、米国の右派・保守派が「文化戦争」の一環として標的にしているという理由だけで、それを「真のフェミニスト」であるとみなしている。
米国におけるこうした「進歩派」の人々は、なぜ大西洋のこちら側で、多くが女性同性愛者である英国の左派フェミニストたちが、急に右派の差別者へと変貌したのか、と不思議に思っている。彼らは、私たちが右派へと転向したわけでも、右翼の同性愛嫌悪者たちのように疎外されたマイノリティを憎しみからの標的にしているのでもなく、女性の権利を守るために原則的な立場を取っていることを理解できないのだ。
この明らかな断絶は、米国に真の左派が存在しない、という事実からも生じている。
今日、米国のリベラル派は、個人的な自由や言論の自由といった、ときに右派的なものにコードされる価値観に焦点を当てた、パフォーマティヴなアイデンティティ政治のブランドの支持者たちによって支配されている。少なくとも主流派においては、米国の左派政治は、偏見や先入観、差別について、単に大声で取るに足らない叫びを上げるだけのものになっている。労働者階級の動員がほとんどないため、「左派」のエリートたちは「抑圧」について自分たちだけで語り、その実態については現場をほとんど何も知らないままである。
この米国の「左派」の悲惨な現状は、トランスジェンダーの権利活動家たちに反映されている。トランスジェンダーの権利活動家たち(あらゆるアイデンティティ・グループの中で最も脆弱で抑圧されたグループのために戦っていると主張している)が、「勇敢なフェミニスト」として称賛されている。一方で、女性や少女の幸福を気遣う真のフェミニストたちは、彼らの主張する偏見があるとして非難されている。
もちろん、米国にもフェミニストが何であるかを知っており、ジェンダー・イデオロギーを拒絶する女性は数多くいる。それは偏見からではなく、女性の権利に対する真の懸念から、英国と同様にそうしているのだ。残念なことに、彼女たちもまた、すぐに差別者としてレッテルを貼られてしまっている。
2021年にロサンゼルスで起きた悪名高いウィ・スパ事件を例にあげよう。トランスジェンダーを自認する男性が、女性用更衣室で女性や少女たちにペニスを露出したとして女性たちが苦情を申し立てた。
ガーディアンUS紙を筆頭に、米国の左派系メディアのほとんどは、この問題を名もなきトランスジェンダーを自認する男性に対する攻撃として報道し、女性更衣室への彼の立ち入りを拒んだ女性たちをトランスフォビアの嘘つきだ、と非難した。論争が拡大し、プラウド・ボーイズのような極右団体がスパの外での抗議活動に関与するようになったため、「トランスフォビアの女性」と偏見に満ちた右翼の凶悪犯たちとの同盟関係が、この事件の焦点となった。
結局、問題の男性は性犯罪で有罪判決を受けた者であることが判明し、スパの更衣室での行動に関連して公然わいせつ罪でさらに起訴されたが、メディアも「左派」のコメンテーターや政治家も、偏見やナチス的だと非難した女性たちに謝罪することはなかった。
米国におけるいわゆる進歩的な「左派」が、ジェンダー・イデオロギーを懸念する女性に対して示す態度は、ここ英国にも影響を及ぼしている。
「文化戦争」の問題について米国の先導に熱心に追従するメディア、学術界、政界の多くの英国の進歩主義者たちも、ジェンダー・イデオロギーに対するフェミニストの懸念を偏見として退け、この問題に関する国民的議論から私たちを排除しようとしている。
全国の数え切れないほどのフェミニストたちが沈黙を強いられ、辱めを受け、仕事や機会を失い、女性のために声を上げたという「罪」により、世界最悪の右翼と同盟を組んだ、と非難されてきた。
私たちが直面する中傷や虐待に関わらず、私たちは正しいことのために戦い続ける。そして、偽りのフェミニスト、偽物の左翼、そして米国から輸入された彼らのパフォーマティヴな政治によって、英国のフェミニストや左派の領域が占領されることは決して許さない。
しかし、米国の状況ははるかに深刻だ。ジェンダー・イデオロギーを懸念する共和党より左寄りの女性や男性は、政治的にどこにも頼る場所がない。民主党は彼らの懸念に耳を傾けることを拒否しているだけでなく、彼らの「受け入れられた抑圧の階層構造」にあえて疑問を投げかける勇気ある人々を、差別者やファシストだと決めつけている。
民主党が次期大統領選挙で勝利を収める保証はまったくない。もし、彼らが方針を転換せず、ジェンダー・イデオロギーに警鐘を鳴らす人々を偏見だ差別だと非難することをやめない限り、一部の女性やそして男性は、この問題についてのみ一点で投票し、11月の選挙ではジェンダー・イデオロギーに明確に反対の立場を示しているトランプ氏(ただし、彼はフェミニストの立場からではない)に投票するかもしれない。
しかし、もし民主党が選挙に敗れ、この問題に対する民主党の姿勢が結果に影響したと判断されたとしても、ジェンダー・イデオロギーに批判的な女性たちを非難すべきではない。
民主党は、自分たち自身以外に非難する相手はいないことを理解すべきである。女性の権利を守るために声を上げる人々を右翼の差別者だとレッテルを貼ってしまったことで、無数の数え切れないほどの潜在的な民主党支持の有権者を遠ざけてしまったことを理解すべきである。
米国の進歩派の人々は、自分たちが「歴史の正しい側」にいると本気で心から信じているかもしれないが、もし彼らが「フェミニストとは何か」を「真に理解する」努力をせず、ジェンダー・イデオロギーが女性にとって脅威である、という私たちの主張を信じないのであれば、11月が来るときには彼ら自身が歴史の一部になっているかもしれない。
注:本記事で述べられた見解は著者の個人的な見解であり、アルジャジーラ英語版の編集方針を必ずしも反映しているものではありません。
原文(アル・ジャジーラ英語版):https://www.aljazeera.com/opinions/2024/5/30/american-progressives-better-learn-what-a-feminist-is
写真:Giacomo Ferroni(Unsplash)