言の葉譚<007>ヒバリとカタツムリ
終戦直後、巷に溢れる英語に戸惑ひながら、十歳になりたての吾輩はそのアクセントに無性に惹かれた。アメリカがアメーリカでメが強く、ヨコハマがヨコハーマでハが強い。the United States of Americaの響きを聞いた時、その語調の妙にぐっと惹かれた。あれが、吾輩をこの道(和英)に引き摺り込んだ直接の動機だ。
その後、音楽好きの吾輩は、外つ国の歌曲が見事な日本語で歌はれるのに気づく。歌詞の翻訳に関わる人物に馴染み、堀内敬三を知り、遡って上田敏を知った。とくに後者は、例のヴェルレーヌの「落葉」(秋の日のヴィオロンのためいきの 身にしみてひたぶるにうら悲し... )で仏語もこなす才人だ。ブラウニングの「春の朝」(はるのあした)の和訳で、吾輩は「揚げ雲雀名乗りいで」の部分に感動、和英の妙に気付き、以後どっぷりとこの道に嵌まり込んだ。
以下、本稿では妙なる和英の世界に迷い込み、遂に今に至った経緯の一端を語ってをる。なるほど、そんな人生もあるかと英語に関わる諸賢のご参考にもなれば幸甚だ。
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