冬だ。鍋せんか?
翌朝の冷えたる鍋をこそげとるスプーンの柄かたき泣き笑いから
終日を鍋煮ゆることに費やせる後ろめたさとともに渋い茶
もうひとり自分が居ると華やいだ鍋の底覗く君の声して
煮ゆる鍋のかさ減ることをいとほしむ生まれ変わりも朝 冬の入り
最後まで…、口にせぬまま君の背に飼い犬来たりて朝はベル鳴る
寒いほど打ち明け話の弾みたるラーメンすする皆で前向き
煮凝りに差し掛かる話題川下に聞き流したれば今日の陽細やか
印鑑を持ち走り寄れば微笑まれぬ君の従兄弟の会計係
暗号めいて来たれる胸へ差し入れし桃の節句と君のおふざけ
挨拶を嘴の先で突っつき合う兄妹が身をうつくしく正す
燃え盛る加湿器越しのおはようを前世の香りと知りて俯く
一枚きり壁に貼り付くカレンダア見離したまま猫抱き寄せたる
空っぽの胃を裁断するコーヒーの豆と嫉妬は飾り棚に乗り
涼しげに君の名を呼ぶ妹はすり切れて落ちる平和の塩粒
書き出しを白鳥の群れと走らせし濁りゆく水も夜毎に愛せる
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