透明になる@かもめしりとり事件
透明なのは身体のみ冷えたクッキーほおばるむき出しの床を部屋として
捨ててしまえば言葉はかるくまたしてもどこへも根差さなくなる
楽しい嬉しい悲しいももうすべてひとごととなりそれをかなしむ
透明と、透明じゃないひとらのせかい おりあわなさがときに膨大になる
いたみと、くるしみが足りない彼ら膨らむだけ膨らんだひとらに捕まっている
責任はどこにもないひとに足をみてそのおかしさに参ってしまった
おかしいことをおかしいと言って切り分け続け、それを自身のように思う
すごくすごくすごくとしをとり、そのことがもう戻らない
何もつかみもしないまま今日も部屋は失望でみたされている
誰かに言いたかったんだと思う。生きてきたのは、簡単なことじゃなかったこと
そうして持ち物とかつてをいとしむ ぼくの声 ぼくの肉 あたりまえのすがた
ただ繰り返しすべて捨てさせられもうここにぼくしかいない
どこへもいないぼく それから享受できるたったひとつのことわり 透明な理屈
透明な理屈はぼくがひとりで作り出す。ここにはいつも誰もいなかった
ここにいる時はまだ死を知らない。けれどかもめは死を知っている。
ここで、死を知らないままでもそれでも、僕は歌いたいと思った。
もう歌えないと何度も思った。
細い道をなんどでも通り抜けようとするのは、一体何のためなのか
道がこんなにせまくなっていたことにひととき驚いたが、
そこにあるのは恐れ、迷い、不安、手垢を付けた僕自身の影だった。
それは色々なものを飲み込み、記憶してきた影ばかりで
けどその先に広い場所がかならずあると信じている。
信じていたい そう思ったのは自分なのだった
僕は世界を分りたい。分りたいのもまた自分だった。
いま、そこにだけ手垢が付いていない。
それに気づいた自分はここで立ち、それからずっと、願う。
願いはまるでかつての歌みたいだと思った。
(どうしてだろう。いつも最後に寄せてくるのは、はしたなさばかりで。)
僕が知らないこと、それは僕以外の世界
それを知る誰かとはもうきっと出会えない
けどきっと誰か
たとえばそれを、今はかもめが知っている
そう僕は思う。それからそのことをいっとき考える。
そうすることでしか存在出来なくなった僕と、僕の世界。
僕は僕として、人として歌いたい。生きたい。
そう思えるまでの長く無駄な年月。