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真の悩み、私の悩み

私は、自分の内なる葛藤を常に抱えている。その核心は「なぜ私は全宇宙の支配者ではないのか」という問いにある。いや、もちろんそんなことを声高に叫べば、傲慢の極みだと笑われるに決まっている。しかし、これはただのジョークや虚勢ではない。もっと深い、個人的な苦悩の一端なのだ。

人はなぜ生まれ、何を為すべきなのか。私にとってその答えは、常に自分の存在がどれほど無力であるかを知ることで明らかになる。生まれてから今日まで、私が手にしてきたものといえば、観察者としての立場にすぎない。つまり、私の周りで起こるすべての出来事を観察し、その観察を通じて自分の行動に正当性を見出そうとする。だが、観察者である限り、私の支配力は存在しない。観察だけでは何も変えられないし、世界を動かす力もない。

この観察者という立場が持つジレンマは明白だ。観察だけに徹すれば、自分の行為の正当性を支えるだけの論理や倫理を手にすることはできても、実際に行動を起こす段階で力を失う。一方で、もし支配者として行動するならば、自己の支配を裏付ける根拠を喪失する。支配者は現実に手を加え、力を行使することでその存在意義を証明しようとするが、観察者の立場からはその行為が正しいかどうか、完全に確信することはできない。

さらに言えば、私が「支配者になれない」現実に苦しむ一方で、多くの人々は「自分を許せるか許せないか」といった、私から見れば別次元の悩みに打ちひしがれている。彼らはしばしば自分を許す権利を他者、あるいは神に委ねる。そしてその視点から、当人は「自分の存在を許可されていない」と考える。一方、私は単に自分自身を許せるかどうかではなく、「なぜ私の存在そのものが世界の秩序にとって必須でないのか」という問いに悩まされているのだ。

この悩みを抱える中で、私はしばしば支配の正当性や観察の役割について考える。観察者としての私がいくら支配を正当化できても、それは単なる理念上の話でしかない。実際の支配を行う者がいなければ、それは空虚なものに過ぎない。そして、実際の支配者が行動に移すことで、初めて私の観察が価値を持つ。しかし、実際は彼女らが私の意図通りに動く保証はどこにもない。観察者と支配者、この二者の関係性は常に緊張を孕んでおり、その間に生じる矛盾こそが、私自身の悩みをさらに深めていく。

結局のところ、私は観察者として生きる限り、自己の無力さに苦しみ続ける運命にあるようだ。支配者になることを望みつつも、その力を得る術を持たない。自分を許す権利を得られないまま、「なぜ私は存在しているのか」という問いにとらわれ続ける。そしてその問いが私を反出生主義へと導くのだ。生まれてくるべきではなかった、と。これが私自身の悩みであり、私の観察者としての結論である。

とはいえ、もし仮に私が、観察者でありながら支配者として行動する力を持つとしたら、それはどのような形をとるのだろうか。観察者の役割は、ものごとを冷静に見つめ、その結果を基に道を示すことにある。支配者はその道を実行に移す存在である。だが、この二つの役割を一人で担うことは不可能なのだろうか? あるいは、単に私がその方法を見いだせていないだけなのだろうか。

観察者としての私には、自らの力を行使するための基盤が欠けている。観察者の本質は「何も変えない」ことにある。それは言い換えれば、目にするすべてを受け入れ、そこから結論を引き出す作業だ。しかし、それだけでは自分自身の存在を支配する権限を得ることができない。私は、観察者の立場から支配者になる術を探し求めるが、それは未だ遠い道のりに感じられる。

そして、支配者になれない悩みは、単に「宇宙の支配者」などという壮大なテーマにとどまらない。もっと日常的な問題にまで波及する。たとえば、仕事での意思決定や人間関係での立ち位置、これらすべてが観察者と支配者の間で揺れる私の内なる葛藤の延長線上にある。私は自分自身を観察し、その観察から導き出される行動を支配しようとする。しかし、その結果がいつも「なぜ自分は支配者になれないのか、支配者ではなかったのか」という問いに戻ってしまうのだ。

こうして私は、観察者と支配者の間に横たわる深い溝を埋めるための方法を模索している。支配者ではなかったことで感じる無力感、観察者として留まることで感じる空虚さ。この二つの感情が交錯し、私の心を蝕む。しかし、同時にこの矛盾こそが私を駆り立てる原動力でもあるのかもしれない。なぜなら、この問いを抱え続ける限り、私は何かしらの答えを見つけようと考え続けることができるからだ。

結局、私は自分自身を支配できない存在として生き続けるしかないのかもしれない。観察者である自分と、支配者=帝王になりたい自分。その間にある深い溝を埋める術が見つからない限り、私はこの問いにとらわれ続ける。そして、それこそが私の「悩み」なのだ。


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