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2016年5月 BES / UNTITLED

 この人がどういう状況であれ、僕は掛け値無しにこの人のラップに長年心酔している。それは彼が2008年にリリースしたソロアルバム『REBUILD』を聴いて、日本人がやる本物のラップと、本物のグルーヴというものを教えてもらったからだ。後乗りのオフビートなラップを聴いて、これがラップのグルーヴか、と驚いた。日本人のラッパーでこんなにグル―ヴィーにラップするのも衝撃であったし、ガンガン韻を踏まなくても、ラップとしてこんなにカッコよくなるんだ、という事にも驚かされた。BES本人もリリックで言うように‘韻とか品とか母音で唾吐く(How How High feat.メシアTHEフライ)’なのだ。韻を踏むからラップ、ではなく、今彼がやっている事こそがラップなんだ、と納得させられた。

 BESの魅力はラップがとにかく巧い、だけではない。リリックのバランスの良さというか、イリーガルな隠語を半笑いでサラーっと言ったかと思えば、自身の過去への後悔の念や哀愁を感じさせるワードを切々とラップしたりと、一辺倒なギャングスタラップに陥ること無く、その逆、寡黙なリリシストになる事もなく、その振り幅こそが彼のラップに広がりと深みを持たせている。

 現在服役中のBESが、どのようにして今回の最新作『UNTITLED』を完成させたのか。その全貌は定かではないが、逮捕直前に録音されていた事はオフィシャルでアナウンスされており、その追い詰められている雰囲気、悪い方向に行く予感をさせる開き直り、なんとも言えない閉塞感、そしていつもBESが背中に湛えている悲しみ、その全てが今作のジャケットデザインに表れているようで、そんな楽曲とアートワークのマッチングの部分でも、今作は非常に良作なだけに、唯一本人の不在が悔やまれる。FREE BES!

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