2016年1月 植田真梨恵 / はなしはそれからだ
2016年の始まりということで、新譜ではなく2015年最大の出会いについて書こうと思う。
ライブハウスのドアを開け、そこに漂うただならぬ雰囲気に飲み込まれるような場面に出会う事は三十を過ぎるとなかなかに難しく、良く言えば経験値が増えた分、震えるような出会いに慣れてしまったのか、と打ちひしがれる事もある。だからこそ本当に稀にある、アーティストや曲との衝撃的な出会いに、とてつもない喜びと運命を感じることもあるわけで。
植田真梨恵というアーティストの「a girl」という楽曲との出会いはまさに上記のそれで、使い古された言い方を使うなら‘ハートを鷲掴み’とはこの事か、というほどのショッキングな出会いであった。そのライブでは植田真梨恵本人のギターにサポートのピアノのみ、というミニマルな編成だったのだけれど、楽曲の持つ世界を描くには十二分で、2つの楽器の演奏と歌唱だけで、その場を完全に掌握していた。
それに加え、卓越したワードセンス(特に歌い出し)、歌詞の中に忍ばせた皮肉と寂しさと、わずかな希望、といった多くの要素を、歌詞に物語性を持たせる事で作品として昇華させている才能にも感嘆せずにはいられなかった。
こんなに豊かな才能を持ったアーティストをカテゴライズして複数のアーティストとひとまとまりにしてはいけないし、そうする事で聴く前からレッテルを貼られてしまう事に歯痒ささえ感じる。
そんな「a girl」が収録されている1stアルバム「はなしはそれからだ」は、全体としては非常に良質なポップネスを感じさせつつ、その内にある彼女のエモーションが少し溢れ出た、素直で表情豊かな傑作である。
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